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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
臙脂色の紫陽花
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「どうなんです?」

堂山はたっぷり煙を吸って、そして吐いた。

「いやあ、塩原さんとの話で盛り上がっていましたが、彼が暫く席を外していた、ということはなかったと思いますね。せいぜい十分内だったと思います」

「そうだなあ」

中年男性二人はそれぞれ頷いた。

十分。

流石に時間的に厳しいと言わざるを得ないだろう。

サロンから走って玄関ホールを抜け、山を二百メートルほど降りる。その後扉を開けて五メートルほど延びる梯子を降りる。地下道を行き、次は十メートルほどの梯子を上がる。そこで何故かいる河野を絞殺以外で殺害し、来た道を戻る。

とてもではないが現実的ではない。不可能と言っていいだろう。

つまり齋藤と塩原は殺害犯から除外できる。

そうすると残るは蒼野、堂山、佐古下、霜村の四人と一応染島と南雲である。

それが食堂内に空気が広がるように周知されると、蒼野が一層怪訝そうな表情に変わった。

「ちょ、ちょっと待って。私は何も知らない。やっていないから」

慌てふためく蒼野を余所に堂山が鼻で笑った。

「何?何なの?貴方だって刑事だか知りませんけど、刑事が犯罪を行わないなんてこと決まっている訳じゃないでしょう?」

「俺が?ここで会ったばかりの知らない奴を殺したってのか?」

堂山は笑みを浮かべたまま蒼野を睨む。

「貴方のその攻撃的な態度、ちょっとしたきっかけで人を傷つけそうですね」

蒼野は皮肉たっぷりに無理やり笑ってみせた。

「二人ともやめなさい」

年長者の齋藤が二人の触発しそうな空気をピシャリと止めた。二人は止めていた呼気を思い切り吐いて視線を外した。

立て続けに死人が出たことで、皆気が立っていた。

特に蒼野は理性を保てる臨界点をいつ超えるか分かったものではない。現に仕方がないが南雲は超えてしまっている。

「……私は暫く部屋から出ません」

蒼野は意を決したように言った。

「何?」

堂山がそれでも蒼野に疑問を返した。

「だってこうしている間も部屋の鍵は開きっぱなしなんですよ?その間に何かあってもどうすることもできない。それならそうされる前にそもそも部屋に篭っていれば安全でしょ?」

そういう意見がその内出てもおかしくないと佐古下も思っていた。

だがそれでは殺人犯の思う壺だ。監視の目を減らし、行動がよりしやすくなる。これ以上続くかは不明であるが。

続くかどうかは殺人の理由にもよるだろう。

殺人により得られる効果の問題である。

自身の欲望によるものなのか、防衛の為なのか。はたまた正義の為なのか。

殺人犯にとって河野の殺人、そしてもし関与しているのであれば染島の死、この二つには一体どんな理由があるのだろうか。

つまりそれを動機と呼ぶわけだが。

「……蒼野さん」

佐古下が小さく呼んだ。

蒼野は一瞬佐古下を見てから俯いて、そして席を立った。

佐古下はそれを止める術を持たなかった。

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