四
「なあ」
佐古下の寄り道していく思考を止めたのは塩原の投げかけた言葉だった。彼女は自然に俯いていた視線を戻した。
「人が死んだのは可哀想だと思うけどよ。そもそも俺はここであーだこーだやるんじゃなくて、早くここから出てって警察へ連絡したほうがよっぽど現実的だと思うけどな。犯人とか探すだけ無駄だろ」
塩原はわざとらしく目を回した。
「塩原さんは怖くないんですか?」
佐古下はムッとなって聞いてみた。
「怖い?」
「はい」
「何が?」
「殺人が、です」
「本当に人を殺した奴がこの中にいるのかよ」
「います」
佐古下は塩原と言い合う内に、殺人犯の存在を断言した。
「え?」
蒼野が頬を引きつらせて佐古下を見た。
「正確には、この館にいる。ということです」
佐古下は澄まして言った。
霜村が他の人に悟られないように佐古下に視線を送ってきたが、彼女は気が付かない振りを続ける。
「それがこの食堂にいる人なのか、もうこの世にはいない人なのかは分かりませんが」
「なんだそれ。……つまり他殺である証拠が見つかったってことか?」
相変わらず塩原は見かけに寄らず鋭い考え方をする男だった。
佐古下は、霜村が話した展開した。
死因が縊死ではないこと。縄は恐らくフェイクで、誰かが自殺偽造したということ。死体を隠したのは死体に殺人犯を特定するような情報が残っている可能性がある為ではないか、ということ。
佐古下はあえて霜村の名は出さずに話した。
その間佐古下は霜村を見なかったが、恐らく怒っているだろうことは容易に窺えた。それでも彼女はこの場の人に話の内容を共有したかったのだ。
佐古下は一人一人をじっくり観察していた。
塩原は依然として変わらず口をへの字にしたまま腕を組んでいた。堂山も似たような態度である。
齋藤は前傾姿勢でテーブルに腕を置いて、両手を組み合わせていた。眼差しは真剣である。
蒼野は不安そうに手を口元に充てて、終始眉をひそめていた。
霜村だけは煙草を吸う機械のようだった。煙草を咥える。離す。煙を吐く。数秒後また繰り返す。合理的にニコチンを接種する機械だった。
瞼だけがずっと降りていた。
「お嬢さんの言う通りだとしてよ。犯人はいくらか特定できるよな」
「ええ」
堂山の発言に佐古下は頷く。
「まず、齋藤さんと塩原さんには河野死亡時刻にアリバイがある。そうでしょう?」
堂山もようやく煙草に百円ライターで火を点けた。
そう堂山の言う通りであった。河野は二十二時から翌日二時の時間帯で亡くなっている。齋藤と塩原は二人でその時間サロンで飲んでいたことが確認されている。
「でもトイレに立ったりはしていたんじゃないんですか?」
蒼野がようやく口を開いた。このままの話の方向性では、自らにも疑いの目が向けられる可能性があったからだろう。




