一
堂山は染島から離れる。振り向き、ため息混じりに首を振った。
「齋藤さん」
疲労感を滲ませる齋藤に霜村は呼びかけた。
「はい。なんでしょう?」
齋藤は部屋の入口から歩み寄る。
霜村は窓の方へと顎を向けた。その窓はどの居室にもある窓で横二メートル、縦一メートルほどあるものである。真ん中で鍵が掛けられるようになっており、窓のすぐ奥には網戸もある。鍵はよく見る回転して掛けられる形状のタイプだった。
「ここの鍵は開いていましたか?」
「いや、閉まっていました」
「この鍵、閉めた上で更に簡単には回転出来ないように、ストッパーが掛けられる形状ですが、こちらはどうでした?」
「え?ああ、いやそちらは掛かっていませんでした。私はほとんど見えない状態で手探りで鍵を回しただけです」
霜村はそこで押し黙った。もう一度染島の様子を見る。
彼女は目を閉じた状態で口から吐瀉物を垂れ流していた。
コンフォーターを下敷きにして横になっている。つまり就寝していた訳では無い。だが、それは弱い推測である。普通はコンフォーターで身を包み寝る。というだけで、何らかの理由で火照ってコンフォーターを掛けずに寝ていただけかもしれない。
そもそもそういったものは掛けない主義かもしれなかった。何にせよ、普通は、という物差しで図るのは意味のないことだ。
染島はコンフォーターを下敷きにしていたという事実だけだ。
「染島さん……彼女がやったのですか?」
齋藤が呟いた。
堂山が嫌なものを見るような目で一瞥した。
「それは分からない」
「でもこの、ごめんなさい、とは」
齋藤の視線が一筆だけ書かれた紙切れを捉えていた。
「これを染島が書いたかは分からない」
堂山は意外にもその線で断定したような物言いをしなかった。
「死因は分かりそうですか?」
佐古下が言った。
「まあ、検死ができないから詳細は分からないが、一酸化炭素中毒死だろうな」
それは霜村も疑う余地はないと思った。
「でも死因が分かったところで意味がない。河野のときとは違う。これは明らかに自殺だ」
「楓は自殺なんてしない!」
吐き捨てた堂山に、今まで泣き腫らし呆然としていた南雲が食って掛かった。
瞼と眼球が充血して赤くなり、歯は獣のように食いしばられていた。野性的な表情である。
「南雲、落ち着け。状況的に――」
「違う!おかしいだろ!何で楓が自殺なんて!そんな訳ない!絶対に誰かに殺されたんだ!」
南雲は一人一人を睨みつけ、威嚇する。
「お前ら全員この部屋から出ていけ!」
「南雲くん」
「俺はずっと楓といる!もう誰も近づけさせない!」
「南雲……」
「出ていけっ!」
最愛の恋人を失った野生の戦士は、彼女の遺体を背にして全ての者をテリトリーから排除した。
仕方なく南雲以外全員退室する。霜村はふと振り返ると、今まで失っていた感情全てが怒りに変換されたような表情の彼がいた。扉を叩きつけるように閉めると、向こう側で鍵が掛けられる音がした。




