十一
「駄目だ!この扉の形状では廊下側から衝撃を加えても開かない!」
霜村が一番後ろから堂山に向かって叫ぶ。彼はそこで霜村の存在に気が付いて、睨み返した。
「そうか。居室側に木枠がハマっていて、扉が内側に開かないようになっています。南雲くん!キッチン奥の備蓄倉庫からバールか何かを!」
佐古下が次いで叫んで一番足が速いであろう南雲に指示を出す。彼は一瞬呆気に取られていたが、直ぐに理解し駆けていった。
戻るまで凡そ二分強。南雲は手に錆びついたバールを提げていた。堂山は無言でそれを引ったくると思い切り扉に叩きつけた。
「中央ではなく、鍵穴横を狙って下さい!」
「分かってるよ!」
霜村の指示に堂山が叫び返す。
五回目でようやく僅かな穴が空く。と同時に黒煙が先程までとは比べ物にならないほど吹き出してきた。
堂山は顔をしかめ、蒼野は最後尾まで下がった。佐古下はそのままの位置で身を固くしていた。南雲の表情は脱力して半分気が抜けているようだった。齋藤は真剣な面持ちでジリジリと扉に近づいていた。
堂山は空いた穴に向かってバールを更に何度か打ち付けて、人の腕が僅かに通るくらいの穴まで拡張した。
「私がやります!」
佐古下が堂山の前に入り、左袖を捲くって穴に腕を入れた。顔は廊下側へ背けており、右腕でそれを覆っていた。
暫時を置かず、解錠の音がする。佐古下はそこから離れた。堂山が間髪入れず扉を手前に開く。中からは行き場のなかった死を齎す黒色が大気に伝染せんと圧し広がっていく。
「私が行こう!」
齋藤は袖で顔を覆いながら部屋へと進入していった。霜村は扉の前にいた佐古下の右腕を掴んで引っ張る。彼女はよろめきながらも後退した。部屋へ進入した齋藤と扉前で待機している堂山以外は全員扉から離れて、煙を吸わないように姿勢を低くしている。
一酸化炭素を多めに吸うと、一瞬で意識を失ってしまうからだ。
ややあって齋藤が部屋から出てきた。全身がやや黒くくすんでいた。彼は普段は見せない鬼のような表情のまま廊下を大股で歩くと、煙が届かないくらいの距離で止まってから、壁に勢いよく背を預けた。
霜村はそれ見て悟った。
◆
それから十分ほど経過した。齋藤により開け放たれた扉と部屋の窓から、黒煙はほとんど拡散していった。ようやく部屋に入れるようになり、堂山、南雲、佐古下、霜村の四人が部屋の中央まで行く。
煙の原因は四人の足元に置いてある七輪だった。火は既に消えており、炭が白くなっていた。
霜村はベッドに視線を向けた。染島は仰向けのまま絶命していた。口の端からは吐瀉物が流れており枕とシーツを汚していた。
南雲が染島に駆け寄り嗚咽しながら言葉にならない言葉を吐き出していた。彼に抱きつかれ揺さぶられる彼女の体は無情なほど無機質に揺れる。
死後硬直はまだ始まっていないようだ。ベッド脇の棚の上に、主張の強いメモ紙が置いてあった。
霜村は遠目から冷静にそれを読み取った。
――ごめんなさい。
そこにはガタガタに揺れた字でそう書かれていた。
視線を戻すと堂山が南雲を引き剥がして、首元の脈を診ていた。




