十
だが、ブラックライトや蛍光塗料は市販でも簡単に手に入る。
蛍光塗料はまだしも、ブラックライトは限りなくコンパクトなものもある。指先ほどの大きさのものもあるから、ほとんど探すのは無理かろうとさえ思える。
堂山は顎髭を撫でた。これが犯人に繋がるかは微妙なところだ。科学捜査ができない以上、成分を分析したり、人員を割いて樹海を探索したりなどできない。
そのまま二人は地下に降り、鉄格子の付近や、梯子周りをルミノール検査薬で確認したが反応はなかった。
館に戻り、館内を行うことも考えたが、居室以外は常灯で常に多少の明るさが確保されている為、ピンポイントで凝視しない限りはルミノール反応を確認することは困難と思われた。
結局玄関ホールでそれによる調査は断念し、佐古下と別れた。
堂山はそこで思い出したように胸ポケットから煙草を取り出して火を点けた。
霜村から貰った煙草である。三箱あるうちの一箱を無償で分け与えてくれたのだ。普段のペースで吸っていたら二日と持たない為、かなりペースは抑えていた。
――全く。
それはイコール解決まで道のりが長く、まだここに留まることを肯定しているからである。そう思ってしまっている自分がいるのだ。全く不甲斐ない。
だが、奴も見つかったことだし。当面はやり過ごすしかない。
堂山は煙を深呼吸と共に盛大に吐きながら、サロンの方へと向かった。
◆
その晩である。
皆が寝静まっていた頃。時間にして深夜三時を回った頃である。もう一つの生命が永遠に現実世界から消滅した。
◆
それは館内を揺らす程の怒号だった。張り詰めた静寂に、針だらけの喧騒がブスブスと穴を開けた音だった。
霜村は飛び起きた。
声がする。瞬時にそう理解した。音源は反対の廊下である。
霜村は棚の上の腕時計を見て時間を確認した。六時七分である。
「――い!――けろ!」
これは堂山という男の声であろう。霜村は寝癖もそのままに部屋の鍵を開けて廊下へと身を乗り出した。
声と音が更に鮮明になる。より大きくなった。
「開けろ!」
開けろとは?胸騒ぎがした。鼓動が普段よりも大きくなった。霜村は小走りで騒音の下へ向かった。
そこには堂山、南雲、蒼野、齋藤、佐古下の五人がおり、堂山の声に紛れて気が付かなかったが、南雲も必死の様子で叫んでいた。彼のそれはもはや慟哭であった。
「何がありました?」
霜村は一番後ろにいた蒼野に呼びかける。彼女は驚いた様子で振り返る。悲痛な面持ちであった。頬が強張っている。
「そ、染島さんの部屋が」
ようやくそれに気が付いた。蒼野の表情の向こう側に、それは濛々と揺らめいていた。
墨汁を透明な水に一滴垂らしたときの様子に酷似している。丁度上下は逆さまだ。扉の隙間からそれは闇出死者の招きのように、見る者に強烈な印象を与えていた。
「くそおっ!」
堂山が肩で体当たりをする。扉はびくともしなかった。




