九
使える箇所は極端に少ないし、調達もできない。
今ある全てで効果的に使用するしかない。堂山は部屋の灯りを消した。明るかった室内には一切の光が残らず、消滅していった。視界にはその残像のように室内の構造が一瞬残ったが、何度かの瞬きでそれすら消えてしまった。堂山は深呼吸してルミノールをまず部屋の中央に吹き掛ける。
咥えていたライトを手に持ち替えて、ブラックライトに切り替える。吹き掛けた箇所を睨んだ。
ぼんやりと床が青紫に点々と光る。これは河野が口から垂れ流していた吐瀉物が反応しているのだろう。堂山はそのまま暗闇を見回した。ふと視線がそこに固定された。
ブラックライトをそこへ向ける。
そこには片足分の擦れた靴底の跡が浮かび上がっていた。
丁度金属の蓋の縁である。間近に寄り、観察する。
「堂山さーん!」
その覗いていた穴の下から女の声が洞窟に反響した。
「お嬢さんか」
下から懐中電灯の灯りが上に向かって伸びてきた。
「お嬢さん、一回上がって来な。ちょっとこれを見ろ」
佐古下が部屋までやってきた上で再度そこにブラックライトを照射した。
「これは、靴底の跡?」
「そうだ。今ルミノール反応が不審な箇所にないか調べてたんだが」
「つまり殺人犯の靴底に血液が付着してここに残ったということですか?」
「いや、違うな。俺はここにはまだルミノール検査薬を吹き掛けてねーんだよ」
ブラックライトの光源でほとんど見えなかったが、佐古下が振り向いたことだけは分かった。
「俺は部屋の中央、河野が死んでた周辺にしかルミノールをかけてない。ここには元からブラックライトに反応する何かが付着してんだよ」
「何か……」
佐古下は何やら思案しているようだった。
「そうだな……」
堂山もそれに倣ってみた。
「蛍光塗料でしょう」
「ああ。さすがお嬢さんだ」
堂山は不敵な笑みを浮かべた。当然佐古下には見えていない。彼はもう少し地下へ身を乗り出し、梯子二向かってブラックライトを照射した。
「……見えにくいが、ちらほら付いてるな」
梯子の足掛かりに点々と紫外線に反応した青紫の明かりが見えた。肩を寄せるように佐古下も覗き見る。
「ここの床には付いていませんよね?」
「ああ。ないね。……ほら」
堂山は振り返り床全面に向かってライトを振る。反応を示しているのは部屋の中央付近だけだった。
「つまり靴底の、それも土踏まずの部分。平行な場所に立ったときには接地しない箇所に塗料が付いていることになります。ということはまだこの跡を残した靴底には塗料が残っているかもしれませんね」
「なるほどな。でも蛍光塗料なんて何の為に使ったんだ?」
「もちろんここに元からあった物ではないでしょう。誰かが持ち運んだんです。何かを印すために。そして印したものを他の人に悟られないように」
「他のやつに悟られないように?」
「ええ。でなければわざわざこのような物を使うことはないでしょう。でも蛍光塗料を使っていると分かれば、少なくとも殺人犯もブラックライトを持参しているということです」




