八
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衝撃の後、飛んでいたらしい意識がようやく回復していく。
それと同時に痛みが目蓋の裏の神経を逆撫でた。
星奈はその身を雪原に投げ出しており、腹部には折れた木の枝が突き刺さっていた。
左足は膝を起点に関節を逆に折り曲げている。
視界の左半分が潰れているように感じるから、血で濡れているのか潰れているのか判別がつかない。
全身が痛みで叫んでいた。
だが、腕の中にいる彼女は無事のようだった。
幾分ホッとして動くだけ首を動かし彼を探した。
彼はすぐに見つかった。こちらに駆け寄っているようだ。
「――!」
何か叫んでいるようにも見えるが、もはや音が感じ取れない。
でも、彼が無事でいることが何よりも星奈を安堵させた。
彼も、腕の中のこの子も無事そうだ。
星奈はもう首を起こしているのが辛くて、雪原に頭を預けた。
彼は星奈の脇に跪き、手を握った。
多分血で濡れている。それでも彼は構わず星奈の手を強く握った。
――ごめんなさい。――愛してるよ。
星奈は消えゆく灯火の中、彼の悲痛な表情を見据え、そう口にした。
星奈の手は彼から零れ落ちていった。
◆
河野の死体が消えた。
佐古下と霜村から知らせを受けた堂山は一人裏の部屋へと駆け出して行った。地下を通って、梯子を登る。刑事愛用のLEDライトの灯りを咥えながら登っていく。
金属の蓋を押し上げて、身を乗り出した。
立ち上がり壁のスイッチをつけて、室内の灯りを確保する。
二人の言う通りだった。
「何故だ」
堂山は一人呟く。
「これは自殺って山じゃないのか?」
唇の端を知らずの内に噛んでいた。堂山は髪を掻き上げ、床に跪く。床には何もない。続いて辺りを見回す。
古びた木板が四方を囲むだけ、天井も同様の木材で構成されており、数本渡っている梁の一本に縄が架かったままである。右奥の壁際には棚があるだけ。
もちろんその棚の上にも中にも何かがあるわけではなかった。棚を引こうとしても動かない。それは壁に固定されているようだった。
四方の壁を順繰りに叩いて回った。床も同様に。
だが、何もない。
堂山はそこで行動を止めた。考えるときは行動の一切が停止してしまう。
河野は間違いなく死んでいた。あれはマネキンでも死んだふりでもない。何十体もの死体を見てきたのである。間違いようがなかった。
それがこの部屋から消えた。その意味を考えるんだ。堂山は軋んだ歯車がゆっくり回りだすように思考を開始した。
河野の体重は凡そ六十五から七十キロ。地下道は幅が狭いから落とすしかない。死んでいたからか目立った血液が飛散しなかったのだろうか?灯りがなかったから気が付かなかっただけかもしれない。
堂山はルミノール液の入った手のひら大のスプレーを持参していた。刑事が持つ道具の一つである。だが、容量が圧倒的に少ない。
本来ならば鑑識がもっと大きな容器で広範囲吹きかけ手作業をする為、刑事である堂山らがそこまでの物を持ち合わせることはなかった。




