五
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星奈は一人腰を深く座面に押し付け、事件概要を大雑把にまとめたホワイトボードを眺めていた。
二〇一九年一月十日
去年の五月十七日に殺害された山路玲香の事件から幾らか時間が経過していた。
五人目の被害者が出たときは稀代のシリアルキラーと世間では言われ、全く捜査が進まないことに警察へのバッシングも鳴り止まなかった。
こと県警宛への頻繁な電話はストレス以外の何物でもなかった。
だがそれも時が経てば風化し始め、世の中はそんなシリアルキラーのことなどほとんど意識せずそれぞれの生活を取り戻していった。
――殺害された被害者、そして遺族ら以外は
特に山路玲香の件は辛かった。
まだ未成年ということもあり、葬儀には多くの方が参列していた。若年層の葬儀には尋常じゃない痛哭が響き渡る。
彼や堂山にも再三反対されたが、葬儀にはどうしても参列したかった。
手を合わせ、死者に黙祷すれば何か変わるわけでもない。
それは承知の上で警察として何もできていない不甲斐なさを噛み締めて葬儀に参列した。
隣には心配してくれた彼もいた。
――あくまで彼女の死を嘆く一人の参列者でいること。警察の者と感じられるような行動はとらないように――
今まで、遠縁の高齢だった親戚、学生の時多少お世話になった人、少なからず葬儀に参列したことは何度かあった。そのいずれでも涙を流した記憶はない。
でも山路玲香が白い棺桶の中で静かに目蓋をおろしている姿と、大きく提げられた屈託のない笑顔の遺影を見比べている内にボロボロと涙が溢れて止まらなかった。
まだ十五歳だったのだ。
これからまだ何でもできて、家族や友人と築き上げていく時間が無数にあったはず。
この葬儀に参列して嘆いている人の数だけ間違いなくそれはあったはずだ。
それなのに、理由も分からずこの世から去ることとなってしまった。
親の苦しみ悲しみ憤りは計り知れない。
親なんてものは子供のくだらないような出来事でも感情を高ぶらせたりする。
星奈が幼少の頃の運動会や学芸会で、そのときは理解できなかったが、母親がうっすら涙を目の端に溜めていたのに気がついていた。
子供のちょっとした成長でも親は涙して喜びを感じるのだ。
それが――
星奈は半年以上前の出来事から記憶を今に戻して、湧き上がりかけた哀しみの感情を溜飲ごと飲み込んだ。
ふとデスクの上のスマホが震える。
彼からの着信だった。
「どうしたの?」
〈まだ仕事中かな?〉
「ううん。勝手に署に残ってボーっとしてただけ。もう帰ろうと思う」
〈そっか。僕もさっき仕事が終わったところなんだ〉
「ここのところ徹夜だったのに、今日は早いんだね」
〈ああ。委員会もようやく一段落したからね。……あの事故も纏まったし〉
「そっか。……結城真織美ちゃんって断定されたんだもんね」
〈……また、山路さんのこと考えてる?〉
「え?ああ、そんなことないよ」




