三
霜村は佐古下を無視して中庭の方へと向かい、ソファに腰掛けた。彼女も後を追い隣に腰掛けた。子供二人分くらいの距離が空いていた。
見ると霜村の視線はガラスから空へと向いていた。今日も曇天である。
「先生?」
再度佐古下は声をかけた。ようやく霜村の視線がちらりと彼女を一瞥した。と思ったときには視線は再び前に向いていた。
「……君は少し自重したほうがいい」
「え?」
「あんなふうに誰彼構わず推理を披露していたら、いずれ思惑を露呈された、犯人と呼称しようか、犯人から注意されるのは間違いない。身の危険を自ら招くのは愚かだよ」
「齋藤さんが犯人ということですか?」
「違うよ。そうは言っていない。分かるだろう?」
「……はい。すいません」
「……はい。分かればいいよ。……しかし、なぜ君はそんな犯人探しに躍起になるんだ?」
「先生だって今日は直ぐに付いてきてくれたじゃないですか」
佐古下は口を尖らせた。
「ちょっと確認したいことがあってね。だってこの世界を創り出した原因を突き止めないと戻れないんだろう?僕は何事もなく元の生活に戻りたいだけさ。でも君はそれだけじゃない。こう言ったら何だが、まるで刑事のように立ち回ってるじゃないか。……僕にはそれが――」
「――それが?」
「いや、何でもないよ」
霜村の視線は宙空に固定されていた。眉をやや下げて、口は一文字に結ばれている。真剣な表情だったが、同時に寂寥とした側面も覗いた。彼の様子はいつだって二面性である。佐古下は何故かは分からないが胸が締め付けられる思いだった。
――彼の視線の先には私はいない。私のいないところで彼は苦しんでいる。
そんな思いに駆られてしまう。
「先生、そういえばお聞きしたいことがあります」
佐古下は得体の知れない気持ちを封じ込め、現実に向き合った。
「何?」
「結城真織美さんの小学校って覚えていますか?」
「中野市立原田西小学校。……何故?」
「よく覚えていますね」
「僕が覚えていると思って聞いたんだろう?神隠しとか、地方の宗教や文化伝統とか言われるものは大抵独自に調査して纏めちゃうからね」
「染島さんと同じ小学校で、同級生です」
「……なるほど」
「偶然とは思えません。何かあります。この館自体、結城真織美さんと深い繋がりがあるように思えます」
「南雲くんは?」
「違う学校でした」
「彼女だけか。……だが河野さんの自殺偽造は彼女じゃないと思うね」
霜村は視線を落とした。
「犯人は別にいるということですか?」
「あるいは複数か」
「まさか」
佐古下は驚いた。
「君が言ったんだ。この空間に関わりのある者が必ずいると。それが単独なのか複数なのかは分からないだろう?……自殺偽造についても疑問が残る」
「何故ですか?」
「あまり具体的に言うのが憚られるけどいいかな?」




