二
佐古下は霜村の言う通りであると考えた。
「………この部屋なんだけどさ」
そのときだった。
地下から梯子を上がる金属音が響く。佐古下は咄嗟に霜村の後ろに半身を隠し、両手で彼の左袖を掴んだ。視線は金属の扉へと向いている。
そこから顔を出したのは齋藤だった。
「おや?お二人だったんですね」
齋藤は息をついて床に降り立った。体が実に重そうである。
「館から出ていく人影が見えたもんですから、何かあるかと思いましてここまで来ちゃいましたよ」
齋藤は膝を払って、苦笑した。
「何かありましたか?」
齋藤は辺りを見回している。佐古下は、彼は気が付いていないと思った。正常と異常が混濁しているのだろう。
「いえ、齋藤さん。逆なんです」
「え?逆?」
齋藤は佐古下へ振り向いた。
「逆ってどういう……」
「いないんです。……河野さんが」
「あっ!」
不意に齋藤が叫んだものだから、反対に佐古下も驚いてしまって肩を竦める羽目になった。
齋藤は焦ったような面持ちで、急に不安そうな表情になる。
「ちょちょ、ちょっとどういうことですか?河野さんは生きていたんですか?彼は何処へ?」
佐古下は首を振った。いくつか同時に投げられた疑問をそれで応える。
そして齋藤にも経緯を簡単に説明し、先程まで議論していた内容を言って聞かせた。
「なるほど」
齋藤もいくらか落ち着いたようであった。
「あの地下水脈へ投げ落としたってことはないですか?」
齋藤が一つ仮説を立てる。
「まず河野さんをここから落とします。自分も降りて河野さんの体をバラバラにします。グロテスクですが、鋸のような刃物があれば可能でしょう。それで彼を細かくした後、あの鉄格子の隙間から地下水脈へ投げ落したのです」
「でもそれでは河野さんがいくら亡くなっているとはいえ血液や体の一部が辺りに飛び散ってしまうと思います。更にあの鉄格子から直ぐに地下水脈が見えるわけではありません。あの隙間から投げ入れなければいけません。河野さんの体を鉄格子の隙間を通るほど細かくするには相当な労力と時間がかかります。その上、おそらく何十個にも分かれた彼の体を一つ残らずあの隙間から地下水脈に投げ落とすなんて相当な技術と運がなければできません。それを実行する事自体リスクが高すぎます。河野さんの死体を隠した。最初は自殺に見せかけて殺害したのが、後々になって彼の身体に重大な事実が見つかった。自殺と見せかけてこの場に放置するよりも、殺人と思われても彼の体を隠す方が自らの安全を確保できる。そう判断したんだと思います。河野さんは自殺じゃない。殺人犯がこの中にいます。……先生どうですか?」
「どうだろうね」
霜村は曖昧に答えた。
「佐古下くん。もう行こう」
霜村はそそくさともと来た道を戻っていく。佐古下も慌てて後を追った。間髪入れず齋藤も続いて、結局三人で館へと戻ることとなった。玄関ホールで彼とは別れた。
霜村は齋藤が二階へ消えていくのを見届けてから、煙草を取り出し火を点けた。
「先生?」




