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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
鈍色の怪人
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霜村は河野が横たわっていた箇所で跪き、手のひらを床にかざしていた。

「誰かが連れ去ったのでしょうか?」

「そうみたいだね。……一応聞くけど、この世界では死体も歩く。なんてことはないよね?」

「ありません」

そう答えたものの、実際は本当に歩いて移動したのではないかと思うほど不可解である。

なぜなら

「仮にこの扉から連れ去ろうとすると、一度ここから河野さんの身体を投げ落としたってことですよね?」

「ああ」

目算だが扉の幅は六十センチメートルほどである。概ね現実世界のマンホールと直径が同じだと思えた。つまり紐などを使い背負って梯子を降りることは不可能である。

「だけど」

「はい。仮にそれで地下まで運ぶことができても、もう一度梯子を登って地上に上がることが不可能、ということですね?」

地下道は基本一本道である。途中地下水脈に繋がる箇所があるが、厳重に鉄格子が嵌められており、せいぜい腕を差し込むことしかできそうにない幅であった。子供の頭も入りそうにない。

その途中で当然河野の姿を見てはいない。

梯子を登るのが不可能にも関わらず、河野は一体何処へ消えたのだろうか。あるいは滑車でも使えばロープに括り付けて地上まで運べるだろうか。

「滑車を使っても地上まで持ち上げることは不可能だろうね」

まるで佐古下の心の内を読んだかのように霜村が呟いた。

「なぜですか?」

「一番安定して持ち上げられる腰に縄を通した場合、体は腰を起点に折れ曲がるから扉の直径を超えてしまう。梯子の段差も含めると、そもそも通せる幅は更に十センチメートル以上狭いからね。次に安定するであろう脇を通した場合も同じだ。そこで縄を巻くと自然と腕が上がってしまうからやはり幅の問題が出てくる。いずれにしても地下を通して河野さんを運んだ、というのはほとんど不可能だと思うね」

「天井はどうですか?」

「バルコニーに通じるところがあるか?ってことかな。下の音が聞こえるくらいだから、床と天井は薄い造りだろうけどどうだろうね。その場合は一方通行ではなく両方から行き来できなければいけない。河野さんを運ぶ事を想定すると大きな脚立や滑車を使う必要があるけど、それを地下から持ってくるのは荷物の重さ的にほとんど不可能だろうね。バルコニー側から床を開けて、河野さんを運べる機器を下階に落とす。その上で自らも降りてそれを使い河野さんをバルコニーに運び出す。運び終わったら再び床を元に戻す。この作業でなければならない。だけどそんな大掛かりなことを寝静まった夜に敢行したのかな?」

「物音がするはず、ということですね」

「そう。ある程度音を立てずにやろうとしても僕の部屋はバルコニーのすぐ隣だからね。流石に気が付くと思うんだ。まあそもそも気が付くかどうかはあまり問題じゃない。気が付くと直ぐに考えられるかどうかってことだ。河野さんを運んだ人物が彼を殺害したとして、自殺に見せかける偽装工作まで施したのにわざわざ他の人間に発覚する可能性の高いやり方で死体を運ぶとは思えない。行動が矛盾しているよ」

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