十二
脚には宝瓶宮――水瓶座――の刻印だった。
世間は再び戦慄した。
十二星座になぞらえた被害者が出てしまったからだ。
ワイドショーはこぞってゾディアックの変態的性質の心理分析や、十二星座の日付や性別などの占星術に基づいた特集を組んでいた。
更に半年後。
二〇一七年八月十七日。
獅子宮――しし座――の男性が、神奈川県の廃ビルの一階フロントで背中の皮を剥がれた状態で発見された。
死因は頭部殴打による失血死。頭蓋骨が陥没し、顔面が飛び出している惨い状況だったという。
男性の背中の皮は男性が発見された部屋の壁に釘で打ち付けられており、獅子宮の刻印が真ん中に付けられていた。
警察は特捜を組んで全力で捜査に当たってはいたが、いまだ尻尾の見えないシリアルキラーに悪戦苦闘。
世間からも大きなバッシングを受けることになった。
報道では犯人に関する情報が出ないからか、残る星座の特徴を持つ人は注意するように、と喚起を促していたが、果たして意味があるのか。
星奈は五人目の犠牲者が出てしまったことに独り唇の端を噛み締めていた。
尻尾すら掴めない犯人に無性に神経が逆撫でられる。
被害者、遺族の気持ちを考えるととても我慢できそうにない。星奈は堂山の言う通り、ゾディアックという高尚な名称にも段々と腹が立っていた。
星奈は感情移入し過ぎる。何度も課内で言われ続けていた。
たった十五年。
たった百八十ヶ月。
たった五千五百日。
たった十三万二千時間。
たった……。
山路玲香の生きた時間はたったそれだけだ。
星奈は現場を後にした。
◆
翌朝、佐古下は改めて現場を再度確認しに行くことにした。霜村を再び呼び出し、現場まで向かう。断られることを覚悟で伺ったものの、意外に返答は「うん」であった。
山中にある金属の蓋も今は閉ざされている。地下に潜って再度河野が横たわる空間へと訪れた。
好奇心が勝るものの、あの幽世の瞳に飲まれてはいけない。心を落ち着かせ、必要な事を的確に調査するのだ。佐古下は何度もそう自答した。あのときとは違い、先を行くのは霜村である。彼は扉を開け放ち、そこに降り立つ。次いで佐古下が梯子を登り首を覗かせたとき、灯りが点いた。
それは異常な光景だった。
「え?」
そう。昨日ここで見た光景が自覚している正常な状態と仮定した場合、眼前の光景が異常ということである。境界線の定義が崩れ、混じり、混沌とする。
つまり、そこには在るべきはずのものがなかったのである。
「先生……」
佐古下は怖くなり霜村へ寄り添うように歩み寄った。
「河野さんは何処に行ったのだろう」
霜村が口にすることで、それは確実なものとなる。佐古下の幻覚などではない。
見間違いでもない。昨日までは確実にここに居たはずの河野の遺体が忽然と消えているのである。
部屋の中を見回す。梁にロープはまだ掛かっており、あとは空の棚が右側の壁面の一番奥に設置してあるだけである。
それ以外は何もない。
佐古下は少しして霜村から離れ棚を思い切り引いてみる。床と壁面に固定されているようでそれはびくともしなかった。




