十一
少女の体はオヒシバの長い穂の群集に埋もれる形で横たわっていた。上体は仰向けで苦悶の表情を固めたまま絶命しているのが痛ましい。
星奈は足元にしゃがみ、目を閉じて合掌。
数秒後には何事もなかったかのように立ち上がった。
「――ゾディアックの犯行と見て間違いなさそうなんですね」
「はっ!そのゾディアックっつー大仰な名前はいけすかねえな」
「ですが、犯人が特定できていない以上、呼称がややこしくなります。仕方ありません」
――ゾディアック――世間を震撼させているシリアルキラーだった。
既に四人の犠牲者が出ている。
二〇一五年四月二十五日。四十六歳会社員男性の遺体の一部が焼かれた状態で発見された。
その一部とは頭部だったのだが、首の断面にも焼けた痕が見られたことから、首を切断した後頭部だけを焼いたことが判明。また額には白羊宮――牡羊座――を表す記号の刻印があり、犯人の異常さが世間を騒がせた。
被害者は独身であり、交際相手もいなかった。両親ともに他界し、兄弟もいない孤独な人であった。
建設途中のプレハブ脇に彼の頭部はあり、残る遺体は見つかっていない。
歯の治療痕から行方不明となっていた会社員男性と判明したのだった。遺留品や犯人のものと思われる物的証拠、指紋や髪などは検出されなかった。殺害方法も不明。
ただ、焼かれた日が腐敗の状況から見て四月十九日と断定された。その日にアリバイがない親しい人間はいなかった。
翌年二〇一六年三月十四日。二十二歳フリーターの女性の足先が、釣り堀の水の中から両足分発見された。
両足の裏には双魚宮――魚座――の刻印。前日被害者は誕生日であり、周囲の友人達とカラオケで深夜まで過ごしたあと一人で帰宅したと見られたが、翌日の朝方には亡くなっていた。
足先以外の体は釣り場の木板に乱雑に転がされていた。
死因は溺死と判明。肺の中が釣り堀の水で満たされていた。
黄道十二門になぞらえた特徴のある犯行に、メディアはこぞってゾディアックとまだ見ぬ犯人を呼称し始める。
被害者二人に接点はなく、一つ目の犯行は山口県、二つ目の犯行が栃木県とかなり距離が離れていることから犯人の足取りを掴むことに関しても難航していた。
両方とも付近に防犯カメラは設置しておらず、不審者の特定にすら至っていない。
そこから一年後。
世間が前の二つの事件を忘れかけていた頃だった。
第三の被害者が出た。
二〇一七年二月十八日。
山梨県山中で男性の切断遺体が木に吊るされた状態で発見された。遺体の下半身がノコギリのような刃が粗いもので切断されており、その両足だけが縄でくるぶしを結ばれぶら下がっていた。
残る上体はそのすぐ脇に半ば枯れ葉に埋もれるように息の根を止めていた。
二十二歳男性の行方が三日前から分からなくなっており、二月十七日に家族より捜索願いが出されたばかりだった。
そんな家族の願い虚しく、それを嘲笑うかのように遺体は発見された。




