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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
半色の境界線
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アリバイ、と考えている時点で事件化を意識している証拠であるが佐古下にはどうしても河野が自殺したと思えなかった。

自殺したという可能性を考慮した捜査では判断を見誤ると思ったのである。

それから一時思考は遮断し、ビリヤードに没頭した。

ゲームは一般的に認知度の高いナインボールである。佐古下は得意とまでは言わないが、線は悪くないはずだった。素人同士でルールがエイトボールであれば勝率は高い方である。

ナインボールは運の要素も含まれるため、真剣な勝負をしたことがない。

エイトボールの戦略性が佐古下は好みだった。むろんだからといってナインボールで現在手を抜いている訳でもない。

今は南雲の番である。彼はキューに滑り止めを塗ってから白球に向かってキューの照準を合わせる。その対角線上には七と印された球があった。

勢い良く打ち出された白球は七とぶつかり、小気味よい音を鳴らす。七はクッションに跳ね返され、九を掠めたあとミドルポケットへと吸い込まれた。

「上手い!」

佐古下は目を見開いて手を顔の前で合わせた。お世辞抜きで上手いと思った。

南雲はショットが成功しても眉を下げて苦笑するように目尻に皺を作るだけで、決して白い歯を見せなかった。白いかは知らないが。

染島もまんざらではない様子でそれを見つめていた。

二人の様子はもうほとんど戻っているように見える。

ゲームは続き、南雲が八にショットを当てるが、クッションに跳ね返って止まった。交代した佐古下が続けざまに八と九を落としてゲームは終了した。

二人はキューを置いて、南雲は染島の隣に、佐古下は台に寄りかかってドリンクを飲んだ。

「そういえば」

思い出したように言ったのは南雲だった。

「この山って昔女の子の行方不明事件が起きたところですね」

「え?知ってるの?」

佐古下は驚いた。が、次の瞬間には腑に落ちる。

「地元ですからね。割りと有名ですよ。それよりも佐古下さんもご存じだったんですか?」

「うん。えっとさ、さっき霜村先生と書斎を見てるときに棚にノートが挟まってるのを見つけてね」

佐古下は書斎で見つけたノートの仔細を説明する。

「結城真織美。そうだ。そんな名前でした。確かその子同級生なんですよ」

「え!?」

南雲の意表を突く告白に佐古下は首を反らした。

「ああ、いやでも同い年ってだけで学校は違いますよ。でも楓は知ってたりする?」

話を振られた隣の染島は、見ると顔が青ざめていて一瞬南雲の話を聞いていないような反応だった。

「……楓?」

「え?ああ、知らないなー。……あんまり関わりがあった訳じゃないし」

染島は心ここにあらず、と言った様子だった。少しして彼女は、トイレに立って行った。

「二人はいつから一緒なの?」

残った南雲に質問を投げた。

「高校からです」

「二人が通ってた小学校ってなんてところ?」

「え?小学校ですか?俺は浪江(なみえ)小で、楓は原田西(はらだにし)小だったはずです。……何かありました?」

キョトンとした南雲に、佐古下は慌てて首を振った。

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