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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
半色の境界線
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蒼野は気恥ずかしそうにはにかんだ。それも相手の気を和らげるという効果は生み出せなかった。

「佐古下さん、どうしたらここから出られるの?」

「この狭間の世界を生み出した原因を突き止める。そして怨念を解放する。それしかありません」

「でもそんな都合よく原因を突き止めて、……なんてできるの?」

「私の経験上ですけど、……この世界に呼ばれた人達の中には必ずそれに関わりのある人が紛れています」

そう。必ずいる。だからこそ誘われたのだ。偶然ではない。

齋藤、染島、南雲、塩原、蒼野、堂山、あるいは河野、……あるいは霜村、若しくは……



紫陽花の色はアントシアニンという色素で決まる。

このアントシアニンは通常赤色だが、土壌から溶け出してきたアルミニウムのイオンと反応し青色へと変化する。従って、アルミニウムをたくさん吸収した紫陽花は青色、そうでないものは赤色となる。

アルミニウムが溶け出す量は、水の酸性度によって決まり、酸性であればあるほどよく溶ける。つまり紫陽花が青色であればその土壌は酸性である。ということだ。

ただ、そもそも日本は火山が多く、酸性の土壌もまたその分多い為紫陽花はその多くが青色である。

玄関ホールから入れる中庭には所狭しと紫陽花がその花を咲かせていた。小川に橋が掛かっており、それは石造りだった。水の中に生物は確認できなかった。

この世界には微生物含め動物は存在するのだろうか?いたとしてこの世界では独自の生態系を築くことになりそうだ。だが生物として変化をもたらすには、当たり前だが人が生きている間の時間では到底足りない。

図鑑に載せるには、あと数万年はかけないといけなそうだ。

霜村はそこでも煙草に火を点け上空を見上げた。四方を館に囲まれたそこは、見上げると額縁のように見えた。曇天だけで塗り潰されたそれは決して良い作品とは言えなかった。

玄関ホールの反対側、つまり制御室側にも中庭と行き来できるガラス戸があった。ここからは一階と二階の廊下の様子が見渡せる。

反対に向こうからも中庭は一望できるだろう。

霜村はある一角を見て立ち止まる。

煙草を咥えたまま瞼をやや閉じる。目を細くしたままそれを見つめた。

中庭の角、丁度霜村が使っている居室を出て真下の位置である。そこに生えた紫陽花だけが、臙脂(えんじ)色として霜村の眼球内の錐体が信号を受信していた。

暗い発色をしたそれは、まるで流れ出た血液が凝固したときのような、暗い色をしていた。



二階へ向かうには玄関ホールから延びる両端の階段を使う他ない。

霜村はサロンから先に出ていき、佐古下と蒼野を残した。二人は染島と南雲を探しに玄関ホールに出ていった。そこでここでの生活の中では割合珍しい人物と出会した。

「塩原さん」

黒いティーシャツに十字架の金のネックレスが目立つ。小汚い金髪の、無理やり染めたような髪の色が、佐古下にはやや不快に見えたが、もちろん言わないし表にも出さない。

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