五
同じだと思った。何なら佐古下は未だに頭に鈍痛が走る。
河野の姿を見てからではない。今朝起きてからずっとそうだった。霜村は一ミリも気が付いていないようだが顔もむくんでどうしようもないし。
「ちなみに昨晩の二十二時頃から二時の間は何をしていました?」
「え?……その時間なら、流石に部屋にいたと思う」
「一人で?」
「ええ。え?……私?」
蒼野は口を僅かに開けて、固い笑みで佐古下を見返す。
「皆さんに同じことを聞こうと思ってます。現に霜村先生にも同じ質問をしました」
佐古下は咄嗟に嘘を付く。彼女の意図を汲み霜村はそのことを追及するつもりはなかった。
「僕も部屋に一人でいたよ」
霜村はゆるりと首を振る。
蒼野はそれを見てため息混じりに前傾姿勢になった。テーブルに肘をつき左手のひらに顎を乗せた。
「ねえ、河野さんは自殺なんでしょ?」
それも染島と南雲に聞いたことだろう。
「それはなんとも言えません」
「え?」
「ひと目見た段階では自殺と思われるような状況だった。という意味です」
「そうじゃないかもってこと?」
佐古下は顎を一回縦に振った。
「嘘でしょう!」
蒼野は一段と大きい声で眉をしかめた。佐古下を見ていた瞳は次に霜村へと向いた。
「霜村さんも自殺じゃないと考えてるんですか?」
「判断する材料がありません。肯定も否定もしかねます」
霜村は無表情だった。
「ここに来てから、何か怪しいことはありませんでしたか?些細なことでも良いです。気のせいかも、と思われるようなことでも良いのですが」
佐古下は次の質問をした。
「怪しい、こと?……そういえば今朝は寝覚めが悪くて気分が悪かった。もしかして河野さんが殺害されたから睡眠に影響とかしたのかな?」
少しオカルトが過ぎる話だが、理解はできる。
人が同じ空間で殺害されたのだ。その強い殺意と殺された怨念のようなものが入り混じって他者に影響を与える。
それが一種の悪夢となって無意識に悪影響を与えたのではないか。つまりそういうことだろう。
この狭間の世界を肯定するならば、世の中にある数多の心霊現象や怪談、不可思議な出来事を無下に否定するべきではないだろう。数学や物理学では到底推し量れない事象の只中にいるのだ。
「あと、全然関係ないかもしれないけど、私の腕時計が壊れてしまって――」
「腕時計?」
「そう。私の腕時計は文字盤の中に日付だけ数字が出る仕様になっているんだけど」
そう言って蒼野は腕に取り付けられたそれを二人にに向けた。身を乗り出して見てみると彼女の言う通り、今日六月九日の九という数字だけ文字盤の中に表示されている。
「これがどう壊れたんです?」
「壊れた、というとまた語弊があるけど、この日付って零時を跨ぐと自動で数字が次の日付に切り替わるようになっているの。それが今朝起きたら十になっていて。スマホの充電がないから、ここに来てから腕時計のこれで今が何日か把握するようにしていたんだけど、確か前日が八日だったはずなのに、あれ?って、そう思って。今は竜頭を巻いてもとに戻しちゃったけど。ごめん。関係ないか」




