三
「自殺以外で?他殺ってことか?馬鹿な」
堂山が鼻で笑う。だが表情まではそこまで笑っていなかった。
「事故とかもあり得ますよね」
「現場がこれで、事故?いやいや」
「明確な解答が得られない限り、全ての可能性を完全に捨て去るのは検討の材料が少なすぎるってことです」
佐古下は一歩前に出た。
「そもそもここで自殺する、というのもいくつか不可解な点がありますよね。私達は偶然この場所を知りましたけど、河野さんはどうやってこの場所を知ったのか?自室じゃなくわざわざこんな苦労する場所で死ぬこととした心理は一体どういったものだったのでしょうか?常識で図ると何か噛み合わない気がするんです」
「お嬢さんの言いたいことは分かるけどな。でもこの場所じゃあどうすることもできない。俺も警察とはいえ道具も人員も使えない。科学的な検知ができないんじゃお手上げだ。自殺か他殺かなんてこの場で判断することはできない」
佐古下は堂山が首を振ったことで黙ってしまった。この場でこれ以上議論しても無意味と判断したからである。
三人は運び出せない河野の死体をそのままにするしかなく、その場を後にした。
◆
堂山は事件性がないと判断したようだった。佐古下は理由は分からないが納得できなかった。
霜村と共にサロンへと向かってコーヒーを飲むことにした。
「先生はどう思います?」
「残念だったね」
「え?」
霜村はコーヒーを啜った。
「亡くなるなんて、残念だよ」
一拍置いてから、そう口にした。
「そうですね」
佐古下は肯定した。
亡くなるというのは、生物としての活動を停止した。
思考することも、感情を揺さぶることも、他へ影響を及ぼすこともない。文字通り終わりである。最期にいくらかの人間に悲しみと恐怖を与えて。
霜村はそう考えているのであろう、と佐古下は思った。
「先生、あのノートを知っているのは私達だけです」
「それと書いた人だね」
「ああ、はい。河野さんのこととあのノート、関係あると思いますか?」
「結城真織美ちゃんの記事が一緒に挟まっていたね」
「六年前の行方不明事件がその三年後、つまり今から三年前に白骨遺体として発見された。あのときの山ってこの黒姫山だったのでしょうか?」
霜村は煙草の火を点けた。煙を吸って、吐き出す。佐古下にかからぬように顔を背けていた。
「僕の記憶だとそうだったね。黒姫山にあるキャンプ場から数キロメートル離れた人気のない山中で見つかったはずだ。……ちなみにさ、この狭間の世界を肯定することを前提として、この館って現実世界にも実在するのかい?」
霜村は瞳だけ佐古下に向けた。今気付いたが、少し霜村の表情は疲れているように見えた。
「えーと、どうなんでしょう。この狭間の世界って、やっぱり霊的な力が働いて、その土地ごと狭間に誘われているって解釈しているので、現実にはないと思います」




