二
時間帯的にそれができる人物は誰だろうか。
死亡推定時刻を確認する必要がある。今はあまり死体にも触れない方が良さそうだ。現場を保存すると言ってもこの空間に意味があるかは微妙なところだが、霜村の見解を聞きたいというのもあった。
死体には触れずに壁面を確認する。とくに変わったところはない。古びた木板がストライプ柄のように縦に走っているだけである。試しに叩いてみてもどの方向の壁も乾いた音が響いた。
◆
数分後に駆けつけたのは齋藤と堂山、そして霜村の三人だった。
「先生!」
霜村は複雑そうな表情で一瞬佐古下を見たあと、河野の死体を睨んだ。
「これは……」
齋藤が唖然として呟く。
「おいおいマジかよ……」
堂山は苦虫を噛み潰したように口を歪めた。彼は辺りを見回したあと死体に近づいた。
佐古下は霜村の胸の前まで接近して止まった。
「君は、本当に」
「本当に?」
「……いや、何でもない」
「お前ら」
堂山がその場の人間全員に呼びかけた。
全員が堂山に視線を移す。堂山はそれを確認すると頭を搔いてから嫌そうに胸ポケットから黒い手帳を取り出した。
「全くよ、一応こんな事態になったからには黙ったまんまって訳にもいかないだろう?」
「堂山さん、警察だったんですね」
佐古下が言った。
「埼玉県警捜査一課所属だ」
その言葉を聞いて、霜村は内心驚いた。それは誰にも悟られることはなかった。
堂山は身分を証したあと、片膝をついて河野の状態を確認していく。三人は暫くそれを眺めるしかなかった。
「現在十七時四十二分。……死後硬直の具合から見て死亡推定時刻は昨日二十二時から今日の二時の間の四時間と見て間違いないな」
堂山は慣れた手付きで河野の関節の稼働や顎の稼働を入念に調べていた。手には持参のビニール手袋をしている。
「死因は、これか」
首には絞められた痕があり、一瞥してそれが河野を死へと追いやったことを表していた。
眼球結膜も表情同様青白く、血の気がない。
昨日まで生きていた河野の姿が遠い過去のようだった。まるで精巧に作られた河野の顔を、マネキンの身体に取り付けたような、そんな不自然さが河野の死体からは感じられた。
無機質である。これはもう物体なのだ。佐古下はそう感じた。
堂山は次に梁に括られたロープを見上げた。
「自殺か。あれで首を括っていたのが、解けてここに落ちたってことか。お嬢さん、あんた達がここに来たときにはこうなってたんだろ?」
佐古下は頷く。
「何故河野はこんなところで。誰か昨晩コイツの姿を見た人は?」
その場の三人は、首を使ったジェスチャーで、首を縦にも横にも振らなかった。無言を返答としたのだった。
堂山は下を向いて溜息をついた。
「まあ、そうだよな」
「本当に河野さんは自殺なのでしょうか?」
佐古下が言った。堂山は佐古下へ振り返った。
「何?」
「自殺以外で考えられることがないか、ということです」




