十
辺りを見回す。
丸テーブルがいくつも設置してあり、バルコニーの建物側の両端には観葉植物が二メートルほどの高さまで成長した状態で三人を見下ろしていた。
柵の向こうにはそれをも圧倒的超越した緑で作られた闇が広がっているように見えた。
この館の入口側よりも、このバルコニー側の方が森は深く密度が濃いように思える。
それ以外は何もなかった。当然音源になり得るものはなかった。
「ドサっ、なんでしょう?」
「そうです。ドサっです。ドン、かもしれません」
「それって例えるならどんな音?」
「ええと、何ていうかな。……重いものが落ちる音?ホームセンターとかにある花壇用の土が入った袋を落とす音、みたいなそんな感じです」
南雲の例えは分かりやすかったが、佐古下も当然ピンとは来ない。
続いて階下の制御室へ向かった。
制御室は一転採光用の窓もなく、外部との繋がりは換気用のダクトが上部で口を開けているだけだった。そのダクトは制御室に入って左壁面の上部に設置してある。中は壁紙はおろか石膏ボードなどもなく、本来壁内に収まっている筋交や柱などが剥き出しになっていた。
照明も小さな電球が中央にぶら下がっているくらいで昼間でも暗かった。もっとも窓がないから昼も夜もほとんど変わらないはずだった。
右側の壁一面に分電盤や制御盤を一緒にまとめた配電盤がほとんど壁となって押し込められていた。正面左半分にも制御盤が収まったような蓋があったが、こちらは表側に取手が付いておらず、何の為にあるかは理解できなかった。
右側の制御盤の蓋をあけると各部屋のブレーカーがあった。それぞれに茶色く変色したシールが貼ってあり、文字はまだ読める。
「例えばブレーカーが落ちる音は?」
佐古下は言ってからそんなわけないと思った。
「それは、ないと思います」
染島も首を振った。
佐古下は人差し指を唇に充てて足元を見た。染島と南雲は黙って彼女を見ている。
「外も見てみましょう」
佐古下の提案でバルコニー下の外壁へと回る。
ベージュのモルタル仕上げの防火壁である。長い年月を感じさせるような原因の不明な黒い炭のような汚れが至るところにあった。指でなぞると指先が黒くなる。
佐古下は腕を組みながら、バルコニーを見上げる。柵と、際に設置してある丸テーブルの端が見えるだけである。
視線をゆっくり下ろして再びモルタル壁を見つめた。そのまま後退りして俯瞰で眺めてみた。視界の端に不安そうな二人が見える。
佐古下はそのまま横に回って、側面からバルコニーと階下の外壁を交互に見比べる。
「あ、あの」
堪らず染島が声を上げた。
「これ、貴女はどう思う?」
「何ですか?」
染島が佐古下の隣に並んで、同じように視線を向けた。
「何かありますか?」
「うーん。貴女達ここに来る前に周辺で建物見たりとかした?」
「え?いや、見てません」
「そうだよね。……ちょっと付き合ってもらえる?」
そう言って佐古下は二人の返事を聞かずに歩き出した。
建物から二百メートルは離れた、いくらか森の中に踏み込んだ場所だった。
「これ、ですか?」




