九
今朝の一件にはずっと腹が立っていた。久しぶりの告白にも関わらず(そもそも何度も同じ人に告白すること自体異常であるが)、霜村は素っ気無い態度だった。
本を読み、意識を反らしていても数分に一度回顧してしまう。
また、何度目かの怒りが沸々と湧き上がってきたとき扉が叩かれた。
「あの、佐古下さん。いますか?」
その声は染島のものだった。佐古下は本を閉じてサイドテーブルに置くと、ソファから立ちあがって扉を開けた。
そこには染島と、その二歩後ろに南雲の二人が立っていた。表情がいつもより固い。南雲は普段から無口で感情が出ないようなポーカーフェイスだが、染島の方は臆病ではあるものの、打ち解ければ談笑もできる。その染島も今は臆病モードになっているようだった。
「どうしたの?」
佐古下は怪訝に問いかけた。
「あの、聖とさっき二階のバルコニーにいたんです。その変なことがあって」
二階の一番奥の空間である。古びた丸テーブルがいくつかとそれぞれに二脚ずつ椅子が並んでおり、時折そこで時間を潰している人がいるのは知っていた。
「変なこと?ええと、分かった。入って」
佐古下は扉を開け放つと、下がって椅子に腰を下ろした。
二人は緊張した面持ちで、扉を閉めてから二人がけのソファに座った。
肩が触れ合う間隔にも関わらず、二人はなんの弊害を感じることなく、お互いのパーソナルスペースに入っている。それは家族とも相容れないスペースだと思った。
もっとも佐古下には家族と呼べるほどの関係性の人は存在しないのだが。と彼女は認識している。
そのスペースに入れるのが羨ましと思った。
「変なことって?」
改めて聞き直す。横に反れた思考を振り戻した。
「ねえ、聖」
染島は中々その先を言いたがらず、南雲に促した。彼も彼女のその視線と言葉を受けて、重い口を開く。
「さっき、バルコニーで二人で飲み物飲んでたんです。そしたら下からドサって音がしました」
「ドサっ?」
南雲は頷く。
「あそこ静かだし、二人して丁度黙ってたから、音が妙に響いたんです」
バルコニーの下。バルコニーには石のタイルが敷き詰められてはいるが、木造の建築物である。隣同士や上の音が聞こえることは十分あり得た。
当然バルコニーなので、そこがその建物の端である。階下は制御室である。
「制御室から物音が聞こえたってこと?」
佐古下のその問いかけには、二人とも押し黙って眉を寄せた。
「試しに行ってみたんです。でも何も無くて」
「でも確かに物音がしたんです。二人ともそれを聞きましたから」
染島は懇願するように前かがみに佐古下を見つめた。
話はそれだけだった。
佐古下は二人と一緒にまずバルコニーへ向かった。
二人がいたのはバルコニーの柵寄り、扉から一番離れた丸テーブルだった。飲み物のグラスがまだ置いてある。
「どれくらい前なんだっけ?」
「えっと、時間が分からないですけど、多分二十分前とかだと思います」
染島は上を向きながら答えた。




