四
確かに暫くの間はこの人数でも餓死することはなさそうだ。
南雲は料理の経験が乏しいらしく、主に霜村が作ることになった。
とはいえ料理が得意な訳ではない。生活する上で最低限妥協できる料理がこなせると言ったほうが的確である。
やはり多くは缶詰からなる食事しか用意できない。
霜村は煮付けの缶詰と味噌汁を簡単に作り、レトルトのご飯を人数分用意してそれらを皿に用意しようと考えた。初日から無駄に労力を使いたくなかった。にも関わらず南雲を手助けしようとしたのは教師然とした考えからだったのだろうか。霜村は一瞬だけそう考えた。
食器が思いの外少ない。人数分の大皿と一つだけ余るお椀、あとは大小のカップが食器棚には陳列されているだけだった。
なのでほとんどの場合、この大皿は朝昼晩の食事の際に使われる。(それ以降も他の人が食事を用意する際使っていた)
南雲が食器棚からその大皿を運んできた。霜村はそこにご飯と鯖の煮付けを盛り付ける。
霜村と南雲はほとんど会話をしなかった。
盛り付けられた大皿と味噌汁を入れたお椀を人数分ワゴンに収めると南雲は何故が緊張した面持ちで運んでいった。
時折揺れて溢れる味噌汁に四苦八苦しながら食堂へと消えていく。
霜村も食事にしようと簡単に手を洗っていると、それがふと目についた。
(あれは、何だろう)
食器棚の脇のカウンター、食器用洗剤が立ち並んでいる中に緑色のキャップが転がっていた。
何かヘアスプレーのキャップのようなものに見える。手ぬぐいで洗った手を拭って、間近でそれを確認しようとすると食堂から齋藤と南雲が姿を覗かせた。
「霜村さん、改めて全員揃ったので簡単な挨拶をお願いできますか」
霜村の視線は既に食堂の方へと向いており、そちらに手のひらを向けた齋藤に従ってキッチンを後にした。
「いやあ、初めは独りぼっちでしたが、どうやら賑やかになってきましたね」
背後から齋藤は快活に言った。遭難しているのに賑やかとはなんと不謹慎だろう、と霜村は思った。
◆
三日経った。丁度当番が佐古下が訪れてから六日目となった。
当番が一巡した。朝晩の食事の用意は蒼野が、昼は佐古下が行った。
夜はトマト缶を使ったミネストローネとクリームパスタだった。備蓄されている食品の性質上、食事がパンや乾麺に偏るのはいたし方ないことだった。
霜村は静かに手を合わせてミネストローネを口に運んだ。仄かな苦味に眉をしかめる。中には消費期限切れのものもあるかもしれない。
バリエーションが豊かとはいえない食事も、精神的には辛いものがあるかもしれなかった。
霜村は静かにスプーンを置いてパスタへと食事を移した。
佐古下は周りの人と和やかに会話をしていた。特に高校生二人と蒼野や河野とコミュニケーションを取っている姿をよく見掛ける。と言ってもそんな光景を見るのはこういった食事の際のみだったが。
結局河野の生きた姿を見たのはこのときが最後だった。




