六
中には結末を迎えた事件も数多くあります。むしろ大半の事件は何かしらの形で決着するでしょう。でも中には事件が進展を見せず風化していくものもあります。更にその中には強烈な悪意や怨念めいた事件もあるでしょう」
淡々と語る佐古下に堂山は顔には出さないが呆気に取られていた。
「そんな事件が起こるとその場その土地は現世から隔離され、一種の霊界のような場所へと転移してしまうのです」
「霊界?なんだそりゃ?」
堂山は耐えきれず吹き出した。
「ね、可笑しいでしょう?笑えるくらい」
「いやあ、お嬢さん、君は面白いね。その初対面での態度、話しぶり、それに容姿端麗ときた。大物だな」
堂山は煙草に火を点ける。
佐古下は彼が一つ煙を吸って吐き出すのを待った。
「死んだとお思いですか?」
「いや、死んでいないね。煙草が美味いからな。煙草が短くなる速度で寿命も短くなると思ってる。煙草が美味い、ってことは死に近づいている。まだ死んじゃいないってことだ」
佐古下は発想が面白いと思った。それには鼻の奥で笑った。
「つまりこの屋敷周辺から出られないっていうのは、過去に怨念めいた事件が発生したことで、周囲を現世から隔離し、あまつさえ俺ら普通の人間たちを取り込んでしまった。そういうわけか」
佐古下は目を丸くした。
「ここにいる連中は口を揃えて出られない、とか言いやがる。俺ももちろん試した。だが、駄目だ。何かこう物理的に出られる感じじゃないんだ。それは痛感し始めてる。電波も入らない。どれだけ山入っても登山道に戻れない。自分の目で見て判断した状況と、君が話す情報が合致するんだ。割合嘘じゃないと考えてもいいか、ぐらいには思ってるさ」
「そこまでご理解いただけるとは思いませんでした」
「別に理解した訳じゃない。まだ話半分、ってとこだ。ひとまず君が悪者でないなら俺を家に返してくれってことだ。君は霊能力者か何かか?」
「そうなら面白いかもしれません」
◆
この洋館は一階から左手にサロンとその奥に食堂、その奥がキッチンと蔵。反対側の右手はビリヤード台を中央に配置した娯楽室と書斎、サロンを小さくしたようなラウンジ、その奥は従業員や執事室のような質素な部屋があった。従業員や執事はいない。
廊下の奥は左右の廊下が合流して、一つだけ制御室のような、配電盤が並んだ空間となっていた。
二階は全て居室であり、ほとんど同じ造りで左右にそれぞれ五ずつ配置されていた。居室にはデスクとベッド、椅子一脚と二人がけのソファ、洗面室とシャワールーム、トイレがあった。生活する上で居室のみで食以外は完結できる。
廊下奥はバルコニーになっていた。丁度制御室の真上である。
バルコニーに一応出て見たが、闇と同化した樹海を前に、何がどう境界になっているか視力が優れている佐古下にも映らなかった。眼前は闇そのものである。
堂山に促され食堂に行くと見た顔ぶれが揃っていた。




