四
人間は得るものがなければ行動しないのか?否、本能のみで行動する動物であれば損得勘定のみの行動しかできない。彼らは生きることを制限されているのだ。
人間だけが理性を身に着け、欲望を制御し、無駄を行うことが許される。
無駄を好むのは人間だけだ。
霜村は無駄が嫌いなはずだった。事実仕事をする上で不要と理解しているものは徹底的に排他している。
思考をソリューションするために無駄と思われがちな煙草の火を点けるのだ。煙草は無駄ではない。
だが、どうだろう。今の行動は、どう評価できる?
危機的状況かも判然としない佐古下の見えない影を追う。佐古下が高校生のとき社会科の教鞭を執っていただけだ。
通常友人と考えられる人と人の交友関係値を数値化してそれを百とした場合、佐古下との交友関係値は二か三程度のものだ。
その交友関係値は変数であると霜村が解釈するのには、まだ時間がかかった。
せっかくの土日の休みをこんなことに使うなど、今までの霜村であれば考えられなかった。
霜村は無くなりかけの煙草を灰皿に押し付け、空に向かって煙を吐いた。
運転席に乗り込んでエンジンをかける。ハイブリッドならではの滑らかな駆動が始まった。
次いでナビも始動する。霜村は手を伸ばしナビの目的地を黒姫山のスノーパークに設定した。
◆
そこに居たのはザンバラ髪にやや黒ずんだ肌、胸元のボタンが大きく空いておりサーファーを思わせる男だった。
「これはまた美人なお嬢さん。貴女も迷い込んだのかな?」
「ああ、ようやく人に会えた。こんにちは」
佐古下は澄まして普通の面持ちだった。
堂山は崩した姿勢のままだったところから、グッと立ち上がる。
彼の顔からはアルコールを摂取したとき特有の熱みたいなものが見えた。現にテーブルの上には灰皿とウイスキーの入ったグラスが一杯。灰皿には短くなった煙草が七本転がっていた。その内一本銘柄が異なった。
「貴女は何をしに?あーいや、まず名前だよな。俺は堂山だ」
「私は佐古下です。ここには大学のレポートの為フィールドワークに出掛けていました」
「へー、大学生か。専攻は?」
「そんなことはどうでも良いです。それより他に人がいますね?最初だけ貴方と共にいた人がいるはず。貴方は一人ではないんですね?他にもここには人がいる」
堂山の質問を一蹴し、佐古下は質問を被せた。有無を言わせず主導権を握ろとするのは彼女特有のものだった。
堂山は肩を上げておどけると再び腰を下ろして煙草に火を点けた。
「ここまでに誰かに会ったのか?」
堂山の声はワントーン落ちた。
「いいえ。でもそこの灰皿には煙草が七本。その内六本は貴方が今咥えているセブンスターのようだけど、もう一本はクールですか?あまり詳しくないので銘柄が合ってるか分かりませんが、とにかくそれがありますね。他の誰かとここで喫煙して、その人は一服したらどこかへ行った。ということです。ここには誰か他にも居るんですね?」




