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勇者と魔王とお前と俺。  作者: 雪空
必要なこと、やりたいこと
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8/23

鍛冶

翌日の昼過ぎ。

アルバートは城の一角を歩いていた。

隣にはヴァルターがいる。


「どこに行くんだ」

「着けば分かる」

「昨日も似たこと言ってなかった?」

「言っていない」

「そう」


城の奥へ進む。

普段通る区画とは少し雰囲気が違う。

石床には細かな傷が多く、壁際には木箱や資材が積まれている。


人の出入りも多い。

兵士。職人。荷物を運ぶ者。

……それから、金属を打つ音。


アルバートが足を止めた。


「……鍛冶場?」


ヴァルターがこちらを見る。


「分かるか」

「音で」

「そうか」


アルバートは少し先を見る。


開いた扉の向こう。

熱。鉄。火花。金属の匂い。


「入るぞ」


ヴァルターが言う。アルバートはすぐ後についていった。


     *


中は思ったより広かった。

炉がいくつも並び、その周囲で職人たちが働いている。

剣。槍。鎧。金具。

壁には完成品らしい武器も並んでいた。

アルバートの視線がそちらへ向く。


「……」


ヴァルターが気づき、小声で話しかける。


「見たいか」

「別に」

「見ているだろ」

「見てるだけ」

「それを見たいと言うんじゃないのか」


アルバートは少し考えた。


「……見たい」

「そうか」


ヴァルターが少し笑い、そのまま壁際へ向かう。

職人が一人、二人に気づいて頭を下げた。


「陛下」

「少し倉庫を借りる。仕事は続けろ」

「承知しました」


ヴァルターに促され、工房に併設された武器庫へ入る。

扉が閉じると、金属を打つ音が少し遠くなった。

壁には完成品らしい武器が並んでいる。


アルバートは並んだ剣を見る。

形は人間側と大きく変わらない。

ただ。


「これ」

「何だ」

「鍔が小さい」

「そうだな」

「何で」

「魔術を併用する者が多いからだ」


アルバートがヴァルターを見た。


「片手を空ける?」

「それもある。あとは、受けるより逸らす者が多い」


アルバートは剣を見る。


「……なるほど」


一本手に取る。

軽い。柄は少し長い。刃は薄い。


「重心、前だな」

「そうなのか」

「持てばわかる」


剣を軽く振る。

一度。二度。止める。


「振り切る前提で、受け続けるには向かない」

「と聞いている」


ヴァルターが答え、興味深そうな顔をした。


「鍛冶もするのか」

「昔は手伝った」

「今は?」

「勇者だからしない」


答えつつアルバートは剣を戻した。


「でも使えば分かる?」

「ああ」


次の一本。少し重い。


「これは?」

「対大型種用だ」

「大型種」

「体格の大きな魔族や魔獣相手に」


アルバートは握る。


「重い。でも振れないほどじゃない」


ヴァルターが眉を上げる。


「今の身体で?」

「振るだけなら」

「使えるとは」

「言ってない」


アルバートは構えを変える。


「一撃は重い。でも戻しが遅い。当てた後に止まる」

「そこは威力優先の設計だ」

「ふうん」


アルバートは少しだけ楽しそうに剣を戻す。

ヴァルターがそれを見ていた。


     *


さらに奥へ進む。

そこには完成品ではなく、途中の剣が並んでいた。

刃だけ。柄だけ。まだ研がれていないもの。


アルバートは一本を見る。


「これ、変な形してる」


ヴァルターが近づいて説明する。


「魔力を流す前提のものだ」

「どこに」

「刃全体に」

「何のため」

「術式の補助のためだ」


アルバートが眉を寄せる。


「剣に?」

「魔力を流して刃の硬度を上げたり、特定の術式を安定させる機構がある」


アルバートは剣を見る。


「……剣に魔術を乗せる?」

「珍しいか?」

「人間側にもある。でも」


アルバートは少し考える。


「もっと別物」

「別物?」

「剣は剣。魔術は魔術」

「使えるものは組み合わせるべきだろう」


アルバートはもう一度剣を見る。

魔術を使うための剣。剣として使うだけではない。


「これ、振っていい?」


ヴァルターは頷いた。


「壊すなよ」

「壊さない」


アルバートは受け取る。


軽く振る。

重心。返し。柄。

違和感。

もう一度、少し角度を変える。


「……面白い」


ヴァルターがアルバートを見る。


「今何と言った」


アルバートが剣を止める。


「面白い」

「珍しいな」

「何が」

「お前が自分からそう言うのが」


アルバートは黙る。

そうだろうか。分からない。

ただ、


「これ、剣としては少し変」

「気になる?」

「うん」

「何が」

「魔術を使う前提で、形が決まってる」


アルバートは剣を返す。


「人間側なら、まず剣として成立させることが多い」

「こちらは違う?」

「少し」

「悪い意味で?」


アルバートは少し考えた。


「別に」

「良い意味で?」


また考える。


「……面白い意味で」


ヴァルターが笑った。


     *


別の棚。

今度は短剣だった。

アルバートが一本取る。


「これ軽い」

「偵察兵向けのものだ。小柄な者でも扱いやすいようにしてある」


アルバートが握り直す。


「今の身体ならこっちの方が合うかも」


ヴァルターが反応する。


「聖剣ではなく?」

「聖剣は使う」

「なら何故」

「予備」

「必要か?」


アルバートは少し止まる。

言ってからヴァルターも気づいたらしい。

二人とも少し黙る。


「……必要」


アルバートが言う。


「そうか」

「でも」


短剣を見る。


「これ、好きかも」


ヴァルターが目を細める。


「理由は」

「軽い」

「それは性能だ」

「形も」

「形?」

「握りやすい」

「それも性能だろう」


アルバートは眉を寄せる。


「じゃあ分からない」

「別に理由はなくてもいい」

「そうなの?」

「ああ」


アルバートは短剣を見て少しだけ考える。


「じゃあ、好き」


ヴァルターが笑った。


「そうか」


     *


工房を出た後、アルバートは歩きながら言った。


「また来てもいい?」


ヴァルターが止まる。


「今何と言った」

「また来たい」

「必要だから?」


アルバートは少し考える。


「違う」

「何故?」

「見たいから」


ヴァルターがしばらく黙った。


「……そうか」

「何」

「いや」


アルバートは首を傾げる。


「変?」

「いや」

「じゃあ何」

「少し安心した」

「何で」

「お前にも、必要以外で動くことがあるらしい」


アルバートは少しだけ眉を寄せた。


「前からある」

「そうか?」


アルバートは少し考える。

鹿肉の煮込み。紅茶。ヴァルターとの戦闘。今見た剣。

……必ずしも必要ではないが、アルバートを動かしたもの。


「……増えてきた」


ヴァルターが笑う。


「それでいいんじゃないか」


アルバートには、まだよく分からない。

ただ、次に工房へ来たらさっきの短剣をもう一度持ってみたいと思った。


必要だからではなく、そうしたいと思ったのだ。

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