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勇者と魔王とお前と俺。  作者: 雪空
やりたいこと、できること
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22/23

仲間

3人組が好きです

翌日の午後、王国側から共同調査への協力者が到着した。


ヴァルターは応接室でその二人を迎える。

一人は魔術師、クラウス・ベルナー。

三十代半ばほどの男で、濃い茶髪を後ろでまとめている。

戦時中は王国軍所属の魔術師として各地を転戦し、後半は勇者一行に同行していた。


もう一人は騎士、レオンハルト・グラーフ。

クラウスより少し若い、背の高い男だった。

鎧ではなく旅装だが、立ち方だけで軍人だと分かる。

こちらも戦争末期には勇者一行へ配属されている。


――二人とも、アルバートと共に戦った人間だった。


「遠路ご苦労だった」

「いえ。こちらとしても放置できる話ではありませんので」


クラウスが答える。彼の前にある机の上には既に、エルマー・ヴェイスに関する資料が置かれている。

資料を元に王国側へ照会したところ、旧鉱区に残されていた術式の解析に協力できる人材として、この二人が推薦された。


理由は単純、二人とも北部戦線でアルバートの指揮下にいた。

そしてそれはアルバートと共にエルマー・ヴェイスと交戦したことを意味する。


「覚えているか?」

「何度か小競り合いをしたことは記憶にあります。ただ、正面衝突時は勇者様が先行されていることが多く……」


クラウスが苦い顔をした。


「俺はあまり覚えてないから、証言してくれると助かる」


アルバートの声とともに、応接室の扉が開いた。

クラウスとレオンハルトが振り返る。


二人とも何も言わなかった。

アルバートも止まった。


ヴァルターは三人を見る。アルバートが先に口を開いた。


「久しぶり」


クラウスが顔を覆った。


「嘘でしょう、貴方そんな顔もできたんですか」

「何が?」

「随分と柔らかい顔じゃないですか、勇者様」

「俺は俺だけど」

「そうでしょうね……」


レオンハルトが笑う。


「生きてたか」

「うん」

「よかった」


短く、しかし喜びのこもったレオンハルトの言葉に、アルバートは少しだけ目を細める。


「そっちも」


それだけで会話が終わった。


     *


クラウスが資料を取る。


「エルマー・ヴェイスについて、でしたよね?」


アルバートが隣から資料を覗き込む。

クラウスがアルバートを見て、ため息を吐いた。


「アルバートにきいても無駄ですよ。人の情報より術式の方が覚えてるんですから」

「そんなことないよ」

「私の得意術式は?」

「多重展開と圧縮」

「私の誕生日は?」


アルバートが止まる。クラウスがヴァルターを見る。


「ほら。こういう男ですよ、アルバートは」


レオンハルトが笑った。ヴァルターも否定できなかった。


「昔からこうなのか」

「昔からです」


クラウスが即答する。


「剣バカなんです。剣と剣で斬れるもの以外のことはすぐ忘れます」

「必要だったら覚えるよ」


アルバートが反論する。


「私の誕生日を思い出してから反論してもらえます?」

「誕生日祝いに剣を渡すから教えて」

「いりません」


クラウスが肩を竦めた。アルバートは少しだけ笑っている。

ヴァルターからすると、彼らの会話は長く一緒にいた人間同士の距離感だった。

――ヴァルターの知らないアルバートが、そこにいた。


     *


エルマー・ヴェイス。

クラウスの記憶では、厄介な魔術師だった。


「前線で衝突したのはそれこそ北部戦線の時くらいでしたね。それ以前から何度か術式は見ましたが」

「前線勤務とは聞いていたが」


ヴァルターが訊く。


「魔術師が接敵する距離にいたのなんて、それこそ北部戦線か向こうが死ぬ時でしたよ」

「俺の剣が届く距離で逃がすこともほとんどなかったし」


アルバートが補足を入れた。レオンハルトが続ける。


「エルマー・ヴェイスは足止めが上手かった」

「基本彼のいる部隊相手だと分断して撃破する方式でしたね」


クラウスが机に簡単な図を描く。


一つ目の術式で進路を限定する。

避けた先に二つ目。解除しようとすれば、三つ目が起動する。

相手を特定の位置へ誘導するための構造だった。


クラウスがアルバートを見る。


「普通ならかなり面倒ですが、アルバートがいましたから」


アルバートは何も言わない。


「最初の一回は、流石にかなり手こずってましたね」

「うん」

「二回目から術式の接続部分を斬り始めた」

「見えたから」

「次からはエルマーの方が距離を取るようになりました」


レオンハルトが笑う。


「三回目には一目散だった。遠くから術式だけ飛ばしてた」


アルバートが思い出すように言う。


「それも斬った」


クラウスが額を押さえた。


「アルバートが味方で良かったですよ。魔術師からしたら最悪な男です、こいつは」

「知ってる」

「自覚が出たんですか」

「ヴァルターにも言われたから」


クラウスとレオンハルトの視線がヴァルターへ移る。


「俺も魔術師だからな」

「そうでしょうね」


クラウスが妙に納得した顔をする。

アルバートが少し楽しそうにしている。


     *


クラウスが真面目な顔をする。


「とはいえ。今回の術式が本当にエルマーのものなら、少し妙です」

「何がだ」

「昔よりずっと複雑になっています」


旧鉱区の術式図を指す。


「ここの魔力供給ですが、外部供給を前提とした造りになってますよね。これはむしろ我々人間側でよく使う手法です」


術者本人から切り離された魔力源。魔石。


「別の人間でも使えるようにするためか」


アルバートが言った。

クラウスが頷く。


「そういうことです」


術者が準備だけ済ませれば、別の誰かが起動できる。

それどころか、条件さえ揃えれば、術式が自動で動くようにすることも可能だ。

ヴァルターは図を見る。


「遠隔制御を拡張しているのか」

「私も同じ考えです」


クラウスが答える。

アルバートは術式図を見ている。


「切りにくいか、アルバート?」


レオンハルトが訊く。


「まだ分からない」

「珍しいな」

「資料は実物じゃないから、判断材料に欠ける」


当然の答えだった。


ヴァルターは資料を閉じる。

エルマー本人の確保。あるいは次の拠点の発見。

どちらが先になるかは分からない。


だが、旧鉱区で見つかったものが、単なる隠れ家ではない可能性は高い。


「しばらく魔王城に滞在してもらう」


ヴァルターの言葉に、クラウスとレオンハルトが頷く。


「こちらもそのつもりです」

「部屋を用意させる」


そこでアルバートが口を開いた。


「夕飯、今日は鹿肉だよ。美味しいから楽しみにしてて」


二人がアルバートを見る。クラウスが少し笑った。


「貴方から美味しいと聞いたのは久しぶりですね」

「?」

「戦争中はそれどころじゃなかったでしょう?」


アルバートが少し微笑んで答えた。


「最近思い出したから」


クラウスが少し微笑み、レオンハルトが笑顔で応えた。


「アルバートのおすすめ、楽しみにしてる」


アルバートが笑う。

ヴァルターはその横顔を見て、少し息を吐いた。

この場合の3人組ってどこになるんだよ

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