仲間
3人組が好きです
翌日の午後、王国側から共同調査への協力者が到着した。
ヴァルターは応接室でその二人を迎える。
一人は魔術師、クラウス・ベルナー。
三十代半ばほどの男で、濃い茶髪を後ろでまとめている。
戦時中は王国軍所属の魔術師として各地を転戦し、後半は勇者一行に同行していた。
もう一人は騎士、レオンハルト・グラーフ。
クラウスより少し若い、背の高い男だった。
鎧ではなく旅装だが、立ち方だけで軍人だと分かる。
こちらも戦争末期には勇者一行へ配属されている。
――二人とも、アルバートと共に戦った人間だった。
「遠路ご苦労だった」
「いえ。こちらとしても放置できる話ではありませんので」
クラウスが答える。彼の前にある机の上には既に、エルマー・ヴェイスに関する資料が置かれている。
資料を元に王国側へ照会したところ、旧鉱区に残されていた術式の解析に協力できる人材として、この二人が推薦された。
理由は単純、二人とも北部戦線でアルバートの指揮下にいた。
そしてそれはアルバートと共にエルマー・ヴェイスと交戦したことを意味する。
「覚えているか?」
「何度か小競り合いをしたことは記憶にあります。ただ、正面衝突時は勇者様が先行されていることが多く……」
クラウスが苦い顔をした。
「俺はあまり覚えてないから、証言してくれると助かる」
アルバートの声とともに、応接室の扉が開いた。
クラウスとレオンハルトが振り返る。
二人とも何も言わなかった。
アルバートも止まった。
ヴァルターは三人を見る。アルバートが先に口を開いた。
「久しぶり」
クラウスが顔を覆った。
「嘘でしょう、貴方そんな顔もできたんですか」
「何が?」
「随分と柔らかい顔じゃないですか、勇者様」
「俺は俺だけど」
「そうでしょうね……」
レオンハルトが笑う。
「生きてたか」
「うん」
「よかった」
短く、しかし喜びのこもったレオンハルトの言葉に、アルバートは少しだけ目を細める。
「そっちも」
それだけで会話が終わった。
*
クラウスが資料を取る。
「エルマー・ヴェイスについて、でしたよね?」
アルバートが隣から資料を覗き込む。
クラウスがアルバートを見て、ため息を吐いた。
「アルバートにきいても無駄ですよ。人の情報より術式の方が覚えてるんですから」
「そんなことないよ」
「私の得意術式は?」
「多重展開と圧縮」
「私の誕生日は?」
アルバートが止まる。クラウスがヴァルターを見る。
「ほら。こういう男ですよ、アルバートは」
レオンハルトが笑った。ヴァルターも否定できなかった。
「昔からこうなのか」
「昔からです」
クラウスが即答する。
「剣バカなんです。剣と剣で斬れるもの以外のことはすぐ忘れます」
「必要だったら覚えるよ」
アルバートが反論する。
「私の誕生日を思い出してから反論してもらえます?」
「誕生日祝いに剣を渡すから教えて」
「いりません」
クラウスが肩を竦めた。アルバートは少しだけ笑っている。
ヴァルターからすると、彼らの会話は長く一緒にいた人間同士の距離感だった。
――ヴァルターの知らないアルバートが、そこにいた。
*
エルマー・ヴェイス。
クラウスの記憶では、厄介な魔術師だった。
「前線で衝突したのはそれこそ北部戦線の時くらいでしたね。それ以前から何度か術式は見ましたが」
「前線勤務とは聞いていたが」
ヴァルターが訊く。
「魔術師が接敵する距離にいたのなんて、それこそ北部戦線か向こうが死ぬ時でしたよ」
「俺の剣が届く距離で逃がすこともほとんどなかったし」
アルバートが補足を入れた。レオンハルトが続ける。
「エルマー・ヴェイスは足止めが上手かった」
「基本彼のいる部隊相手だと分断して撃破する方式でしたね」
クラウスが机に簡単な図を描く。
一つ目の術式で進路を限定する。
避けた先に二つ目。解除しようとすれば、三つ目が起動する。
相手を特定の位置へ誘導するための構造だった。
クラウスがアルバートを見る。
「普通ならかなり面倒ですが、アルバートがいましたから」
アルバートは何も言わない。
「最初の一回は、流石にかなり手こずってましたね」
「うん」
「二回目から術式の接続部分を斬り始めた」
「見えたから」
「次からはエルマーの方が距離を取るようになりました」
レオンハルトが笑う。
「三回目には一目散だった。遠くから術式だけ飛ばしてた」
アルバートが思い出すように言う。
「それも斬った」
クラウスが額を押さえた。
「アルバートが味方で良かったですよ。魔術師からしたら最悪な男です、こいつは」
「知ってる」
「自覚が出たんですか」
「ヴァルターにも言われたから」
クラウスとレオンハルトの視線がヴァルターへ移る。
「俺も魔術師だからな」
「そうでしょうね」
クラウスが妙に納得した顔をする。
アルバートが少し楽しそうにしている。
*
クラウスが真面目な顔をする。
「とはいえ。今回の術式が本当にエルマーのものなら、少し妙です」
「何がだ」
「昔よりずっと複雑になっています」
旧鉱区の術式図を指す。
「ここの魔力供給ですが、外部供給を前提とした造りになってますよね。これはむしろ我々人間側でよく使う手法です」
術者本人から切り離された魔力源。魔石。
「別の人間でも使えるようにするためか」
アルバートが言った。
クラウスが頷く。
「そういうことです」
術者が準備だけ済ませれば、別の誰かが起動できる。
それどころか、条件さえ揃えれば、術式が自動で動くようにすることも可能だ。
ヴァルターは図を見る。
「遠隔制御を拡張しているのか」
「私も同じ考えです」
クラウスが答える。
アルバートは術式図を見ている。
「切りにくいか、アルバート?」
レオンハルトが訊く。
「まだ分からない」
「珍しいな」
「資料は実物じゃないから、判断材料に欠ける」
当然の答えだった。
ヴァルターは資料を閉じる。
エルマー本人の確保。あるいは次の拠点の発見。
どちらが先になるかは分からない。
だが、旧鉱区で見つかったものが、単なる隠れ家ではない可能性は高い。
「しばらく魔王城に滞在してもらう」
ヴァルターの言葉に、クラウスとレオンハルトが頷く。
「こちらもそのつもりです」
「部屋を用意させる」
そこでアルバートが口を開いた。
「夕飯、今日は鹿肉だよ。美味しいから楽しみにしてて」
二人がアルバートを見る。クラウスが少し笑った。
「貴方から美味しいと聞いたのは久しぶりですね」
「?」
「戦争中はそれどころじゃなかったでしょう?」
アルバートが少し微笑んで答えた。
「最近思い出したから」
クラウスが少し微笑み、レオンハルトが笑顔で応えた。
「アルバートのおすすめ、楽しみにしてる」
アルバートが笑う。
ヴァルターはその横顔を見て、少し息を吐いた。
この場合の3人組ってどこになるんだよ




