再会
推しカプをいちゃつかせるのが難しすぎる
グラーツェに着いたのは朝だった。
南部の都市らしく、空気が少し乾いている。
遠くに山が見えた。
街の外れには魔石の精製所が並んでいる。
アルバートは転移陣を降りる。
同行してきた兵が三人。
現地の警備隊から二人。
全部で六人。
「まず商会?」
「はい。搬入記録の確認からです」
「分かった」
歩き出す。街の様子は案外普通だった。
人がいる。荷車が通る。店が開いている。
……事件の気配はない。
アルバートは周囲を見る。
魔力の痕跡は多い。
鉱石を扱う街だから当然だった。
加工前の魔石。精製中の魔石。
魔道具。術式。色々な痕跡が混ざっている。
その中から、城で使われたものと似た魔力を探す。
……できなくはない、少し面倒なだけで。
アルバートは渋面になった。
*
商会の記録は残っていた。
祭具として納品された三点。
仕入れ元。加工所。担当者。
アルバートは地図を見る。
「ここが出処?」
街の南側にある精製所を示す。
「はい。ただ、三点とも通常品として出荷されています」
「魔石の産出先は同じ?」
「そこまでは。規格として同一のものではありますが」
「なら、直接魔力を見に行った方がいいね」
アルバートは紙を返し、地図にある場所に向かった。
*
精製所でも大きな異常はなかった。
記録もある。在庫も合う。
担当者も嘘をついているようには見えない。
ただ、一つだけ気になるのは魔石だった。
「この魔石」
アルバートが棚の端を指差す。
作業員が見る。
「それが何か?」
「ちょっと違う」
「違う?」
アルバートは近づく。
魔力の流れを触らずに見る。
……微妙に濁っている。
通常の魔石とは違う。
城で見た残留魔力と、少し似ている。
「これ、どこから?」
作業員が記録を見る。
「……旧鉱区ですね」
「旧鉱区?」
「今は使っていません。採掘量が落ちたので」
「人は?」
「ほとんど入りません」
アルバートは振り返る。
同行してきた兵を見る。
「行く」
「勇者殿、まず本部へ報告を」
「しながら行けばいい」
通信術式を開く。相手は城の調査班だ。
――旧鉱区にて事件への関与が疑われる魔石あり。
現地確認へ向かう。
「行こう」
*
旧鉱区は街から少し離れていた。街というよりはどちらかといえば山に近い。
使われなくなった坑道。崩れた倉庫。誰も使っていないはずの搬送路。
異様なまでに静かだった。
アルバートは止まる。
「ここから先、少し離れて。誰かいる」
兵が止まる。
アルバートは少しだけ息を吐く。
――知っている気配だった。でも今は関係ない。
「勇者殿?」
「俺が先に行く」
聖剣を出し、坑道の奥へ進む。
一歩。二歩。
間違いなく知っている。
会いたかったのかもしれない。
会いたくなかったのかもしれない。
どちらでも構わない。使わない情報だった。
*
奥に人影がいた。
背が高い男だ。
肩幅。立ち方。剣の位置。
全て分かる。
「……ルドルフ」
かつての師の名前を呼べば、男が顔を上げた。
最後に見た時と同じ、穏やかな笑顔だった。死んだ人間は歳を取らない。
「アルバート」
嫌なことに、声まで同じだった。
男の周囲に術式がある。
――ネクロマンシー。
死体を動かすための術式。
魔力経路を外から補っている。
生前の魔力残滓。
記憶。動作。
どこまで本人なのかは分からない。
死んだ師匠がここにいて、術式が動いている。
……それで十分だった。
聖剣を構える。
「帰ろう、アルバート。ここはお前がいるべき場所じゃない」
語りかける声も昔のままだ。
剣を持ったばかりの頃。初めて一本取った時。
アルバートが勇者と呼ばれたばかりの頃。
だからこそ、アルバートは返す。
「帰らない。魔王城にいるから」
「魔王のところか」
「うん」
男の表情が変わる。
「なら、なおさらだ」
魔力が動く。アルバートも構える。
「あれを殺せ」
「嫌だ」
昔なら、必要がないから、と答えただろう。
今は違う。嫌だ、殺したくない。
師匠の剣が抜かれる。
速い。知っている軌跡。
右肩が先に動く。次に腰。そして踏み込み。
アルバートは避け、そのまま聖剣を返す。
一合。二合。三合。
……懐かしい。楽しい。
「速くなったな」
師匠の剣は変わらない。
アルバートはあの頃から変わっている。
結果は当然だった。
聖剣を振る。首ではなく胸の術式の核。
見える。切れる。
師匠の身体が止まる。
「……必要だから、死んでくれ」
目が合う。昔と同じ目。
「……上手くなったな、アルバート」
師匠の声が少し掠れている。
アルバートは何も言わない。
師匠の身体が崩れる。
倒れる前に受け止める。
重い。生きていた頃と同じくらい。
「ルドルフ」
返事はない。
脈もない。魔力も消えていく。
アルバートは少しだけ目を閉じる。
嫌だった。殺したくなかった。
会えて嬉しかった。
今はまだ、周囲の確認が先だ。
顔を上げる。
「終わった」
後ろの兵へ言う。
「周辺確認して。術式まだ残ってるかもしれない」
問題ない。そう思った。
アルバートしんじつその1
判断に関係ないことを後回しにするクセが有る




