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勇者と魔王とお前と俺。  作者: 雪空
やりたいこと、できること
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16/23

優先

最初に異常へ気づいたのは、アルバートだった。


――空気が変わった。


ほんの少し、魔力の流れがずれた。


「ヴァルター」


ヴァルターも同時に顔を上げた。


「分かっている」


広間には人が多かった。


魔族。人間。

和平後に始まった交易のため、両国の関係者が集まっている。

……その中央。

何もないはずの空間に、細い線が浮かんだ。

一本、二本、三本。


「術式?」


アルバートが訊く。


「そうだ」


ヴァルターの声が低くなる。


「下がれ!」


声が飛ぶ。周囲が動く。遅い。

術式が開く。

アルバートは聖剣を抜いた。


光。魔力。攻撃が二つに分かれる。


一つは、自分へ。

一つは、ヴァルターへ。


見える。どちらも処理できる。


アルバートは踏み込んだ。


自分へ来る術式を斬る。

残った魔力を身体を捻って逸らす。


次。ヴァルター側。


聖剣を返す。斬る。

大半は消えた。残りが、ヴァルターへ届く。


その瞬間。

ヴァルターの魔力が広間全体へ広がった。


壁。天井。人のいる場所。

周囲を覆うように、防御術式が展開される。


アルバートが見る。


「ヴァルター」


返事はなかった。攻撃が炸裂した。


     *


音が遠くなった。ヴァルターが倒れる。


「……」


床に血が落ちる。


多い。

アルバートは聖剣を収納した。

近づく。


「ヴァルター」


返事がない。

しゃがむ。

呼吸。

浅い。


「ヴァルター」


もう一度。

返事がない。


胸。腹。どこまで通った。


アルバートは自分の手を見る。

自分へ来た術式は処理した。ヴァルターへ来たものも斬った。


――同じくらい。同じように。

それなのに。


「……」


視線を上げる。


広間。人が倒れている。でも、死者はいない。

重傷者も少ない。壁に残る魔力の痕跡。

ヴァルターの術式が場全体を守った。

ヴァルター自身ではなく。


「……ヴァルター」


誰かがこちらへ来る。


治療師。魔術師。兵士。


「勇者殿」

「ヴァルターが」


治療師が頷く。


「最善を尽くします」


アルバートはヴァルターを見る。動かない。


「……お願い」


     *


治療には時間がかかった。


アルバートは部屋の外にいた。壁にもたれている。

自分の腕にも傷があった。

誰かに言われて、布を巻かれた。


頭の中に残っている。

攻撃。二つ。自分。ヴァルター。

自分は立っている。ヴァルターは倒れた。


何故。

自分への攻撃。

威力。速度。軌道。切断位置。問題ない。


ヴァルターへの攻撃。

威力。速度。軌道。切断位置。問題ない。


違いは何か。

アルバートは目を閉じる。


最後に見えたもの。

ヴァルターの魔術が自分の周囲ではなく広間全体へ広がる。


人。壁。天井。

全部守った。


「……」


自分は、自分とヴァルターを守った。

ヴァルターは、場を守った。

だから、ヴァルターだけが足りなくなった。


扉が開く。

アルバートは顔を上げた。

治療師が出てくる。


「命は繋ぎました」

「いつ起きる?」

「しばらくかかるかと」


アルバートは扉を見る。


「会える?」

「短時間なら」


     *


ヴァルターは寝台にいた。

見慣れない様子で静かに横たわっている。

胸元には治療術式が走っている。

顔色も悪い。


アルバートは椅子を引いて座った。


「ヴァルター」


返事はない。


「生きてる?」


アルバートは手を伸ばす。


手首。脈がある。

呼吸。ある。


「そっか」


少しだけ息を吐く。


「死ななくてよかった」


返事はない。


さっきは同じくらい守った。

足りなかった。ヴァルターは場を守った。

自分を後にした。

なら、次はどうする。

簡単だった。

次は自分がヴァルターを先にする。


そうすれば、ヴァルターが場を守っても足りる。


「……」


アルバートはもう一度、脈を取る。


「次は大丈夫」


返事はない。


「俺が先に守るから」


そう決めた。


ここまでやりたかった

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