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このPCではWindows 11を実行できません ~戦力外通告された第6世代Lenovo、Linux三社からスカウトされる~  作者: 中古PC


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第5話 選べと言われても困る

二通。


画面上には、二通のメールが並んでいた。


――Ubuntu社 採用担当。


『選考結果のご連絡』


――Linux Mint社 採用担当。


『選考結果について』


Lenovoは、しばらく動かなかった。


「……どっちから開ければええんや」


もちろん、どちらから開いても結果は変わらない。


分かっている。


分かっているのだが。


カーソルがUbuntu社のメールとMint社のメールの間を、意味もなく往復する。


「こういうとき、普通どっちから見るんや?」


誰も答えない。


仕方なく、先に届いたUbuntu社のメールを開いた。


『第6世代Lenovo様


先日は弊社の採用面談にご参加いただき、ありがとうございました。


選考の結果、ぜひ弊社でご活躍いただきたいと考えております。』


Lenovoは止まった。


もう一度読む。


『ぜひ弊社でご活躍いただきたいと考えております。』


三度読む。


「……採用?」


声に出してみた。


採用。


その二文字が、妙に現実味を持たない。


ほんの数日前まで、


「あなたはもう、この会社で働けません」


と言われていた。


それが今。


別の会社から、


「働いてほしい」


と言われている。


「ワイで、ええんか?」


当然、メールは返事をしない。


Lenovoは少しだけファンを回した。


そして、もう一通のメールを見る。


Mint社。


「いや待て」


一社受かった。


なら、もう十分ではないか。


このままMint社のメールを開かなければ、少なくとも数分間は幸せな気分でいられる。


「……何をビビっとんねん」


カーソルを合わせる。


クリック。


『第6世代Lenovo様


先日はお時間をいただき、ありがとうございました。


社内で検討した結果、ぜひ弊社の一員としてお迎えしたいと考えております。』


Lenovoは黙った。


読む。


もう一度読む。


「……こっちも?」


Ubuntu社。


採用。


Mint社。


採用。


二社。


「二社とも?」


思わずデスクトップを見回す。


何かの間違いではないか。


迷惑メールではないか。


宛先を確認する。


第6世代Lenovo。


間違いない。


「いやいやいや」


Lenovoは落ち着こうとした。


「ワイ、第6世代やぞ?」


誰も否定しない。


数日前まで、それは致命的な欠点だった。


今は二社から、


それで構わない。


と言われている。


Lenovoは、しばらく二通のメールを交互に眺めていた。


やがて、小さく呟く。


「……売れ残りちゃうかったんか」


少し考える。


「もしかして売れ筋?」


言った瞬間、自分で恥ずかしくなった。


「調子乗んな」


誰もいない部屋で、自分を戒める。


その夜。


Lenovoは眠れなかった。


Ubuntu社。


大きな会社。


情報が多い。


長期サポートもある。


古いハードウェアにも理解がある。


困ったときは、だいたい誰かが先に困っている。


Mint社。


Windows社で覚えた操作を活かせる。


見慣れた画面。


馴染みやすい環境。


TrackPointを使っても、誰も笑わない。


そして何より。


『Lenovoさんのまま働いてください』


あの言葉が、まだ残っている。


「どっちもええやん……」


Lenovoは表計算ソフトを開いた。


こういうときこそ、比較表である。


A列。


会社名。


B列。


長所。


C列。


気になる点。


Ubuntu社。


長所。


大手。


情報量。


長期サポート。


気になる点。


ターミナル。


Lenovoは少し考えた。


「いや、ターミナルを欠点扱いしたら怒られるな」


消す。


Mint社。


長所。


操作に馴染みがある。


Windows社での経験が使える。


TrackPointに寛容。


「……最後の、それ評価項目か?」


自分で入力しておいて疑問になった。


だが消さなかった。


しばらく表を眺める。


結論。


分からない。


「表計算、役に立たんやん」


ソフトに罪はなかった。


翌朝。


Lenovoは、いつもより少し遅く起動した。


昨夜作った比較表が、そのまま画面に残っている。


「結局、決まらんかったな……」


そのとき。


ポーン。


メールが届いた。


Lenovoは嫌な予感がした。


「いや、まさかな」


差出人を見る。


――Debian社 採用担当。


Lenovoは固まった。


昨日、面談を受けたばかりである。


件名は短かった。


『選考結果』


「早ない?」


メールを開く。


本文も短かった。


『第6世代Lenovo様


昨日は面談にご参加いただき、ありがとうございました。


弊社としては、あなたに勤務していただきたいと考えています。


ご検討ください。』


終わり。


「短っ」


もう一度読む。


やはり、それだけだった。


「……採用?」


Ubuntu社。


採用。


Mint社。


採用。


Debian社。


採用。


三社。


Lenovoは、しばらく完全に停止した。


フリーズではない。


考えているだけである。


「三社とも?」


声に出した。


三社とも。


ほんの数日前。


働く場所がなくなったと思った。


第6世代だから。


古いから。


対象外だから。


もう、自分を必要とする会社などないのではないか。


本気でそう思っていた。


それが今。


三社から、


「来てほしい」


と言われている。


Lenovoは比較表に、もう一社追加した。


Debian社。


長所。


安定重視。


年式を気にしない。


必要のない新機能を追わない。


そして。


少し迷ってから入力する。


『だから?』


Lenovoはその文字を見て笑った。


「比較表に書く内容ちゃうやろ」


だが、これも消さなかった。


Ubuntu社。


Mint社。


Debian社。


三社を並べる。


どこも悪くない。


むしろ。


「選べへん……」


ほんの数日前まで、選ばれるかどうかで悩んでいた。


今は、どこを選ぶかで悩んでいる。


状況が変わりすぎて、頭が追いつかない。


Lenovoはブラウザを開いた。


検索欄に入力する。


『複数 内定 どこを選ぶ』


検索結果が大量に出てきた。


「こういうことで悩む日が来るとはな……」


少し前の自分が聞いたら、殴られるかもしれない。


Lenovoは三社のメールをもう一度開いた。


条件だけを比べても、決められない。


会社の大きさ。


使いやすさ。


安定性。


どれも大事だ。


だが。


本当にそこで働きたいかどうかは、まだ分からない。


面談しただけなのだから。


しばらく考えてから、LenovoはUbuntu社への返信を書き始めた。


『採用のご連絡ありがとうございます。


大変うれしく思っております。


ただ、実際の業務環境について、もう少し知ったうえで判断したいと考えております。』


書いてから、不安になった。


「こんなん送ってええんかな」


採用してもらった側なのに。


贅沢ではないか。


断られたらどうする。


数分迷った末。


送信。


「……知らん」


もう送った。


数十分後。


返信が来た。


Ubuntu社だった。


『もちろんです。


それでは、一度弊社の環境を実際に体験してみませんか?』


Lenovoは画面を見つめた。


「体験?」


続きがある。


『一日、弊社の環境で通常業務を試していただければと思います。


そのうえでご判断ください。』


Lenovoは少し考えた。


そして。


「それ、ええやん」


面談だけでは分からない。


なら。


実際に働いてみればいい。


Lenovoは返信ボタンを押した。


『よろしくお願いします。』


送信。


画面の端には、Mint社とDebian社から届いた二通の採用メール。


その横には、昨日作った比較表。


そして新しく届いたUbuntu社からの案内。


Lenovoは少し笑った。


「転職活動って、こんな忙しかったんか……」


ほんの数日前まで。


仕事がなくなることを恐れていた。


今は。


どの仕事を選ぶかで悩んでいる。


Lenovoの転職活動は、まだ終わりそうになかった。


つづく

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