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第4話:行商人の驚愕と、初めての『神薬』取引

ご覧頂きありがとうございます!

楽しんで頂けましたら幸いです!


「おい、大丈夫か!?」


俺は慌てて男――ボロボロの服を着た中年行商人に駆け寄った。


男の肌は紫色に変色し、呼吸は浅く荒い。毒沼の猛毒に侵されているのは一目瞭然だった。さらに、引きずってきた大きな荷車には無数の切り傷があり、山賊か強い魔物に襲われてここまで逃げてきたようだった。


「ひ、水……毒が……体が燃えるように……」

「今助ける! シルバ、男をログハウスの前まで運ぶのを手伝ってくれ!」


『バウッ!』


シルバが大きな背中で男を優しく支え、ログハウスの前のふかふかした芝生の上へと運ぶ。


「待ってろ、今薬を飲ませるからな」


俺は先ほど作ったばかりの【神聖超回復薬ディバイン・エリクサー】の小瓶を取り出した。本当は一滴でも十分すぎる効果があるのだが、男の容態が深刻だったため、小瓶の三分の一ほどを口元へ注ぎ込んでやる。


その瞬間――。


シュオオオオオッ……!


男の体内から、眩いばかりのエメラルドグリーンの光が溢れ出した。


「な、なんやこれ……!? 体が……温かい……!?」


男が目を見開く。

紫に変色していた肌は、瞬く間に健康的な小麦色へと戻り、擦り切れていた衣服の隙間から覗く無数の切り傷が、まるで時間を巻き戻すかのように綺麗に消え去っていく。


それだけではない。

長年の行商生活で蓄積していたであろう腰の曲がりや皮膚のたるみまでシャキッと伸び、男は十歳以上若返ったかのような活力に満ち溢れていた。


「ふ、呼吸が楽や……! 痛みが……全部消えた……!?」


男は自分の両手を何度も握ったり開いたりしながら、信じられないという顔で立ち上がった。跳ねたり腰を捻ったりしてみている。


「おじさん、気分はどうだ? 頭痛や吐き気は残ってないか?」

「ぜ、全然ない! どころか、生まれ変わったみたいに体が軽いんや! ボクは一体……そうだ! ボクは山賊に追われて、命からがらこの『死の毒沼』へ逃げ込んできて……」


男はハッと周囲を見回した。

そして、二度、三度と目を擦る。


「……は? 死の毒沼……?」


男の視界に飛び込んできたのは、紫色の毒気など微塵もない、澄み渡る青空と爽やかな風。

足元にはフカフカと柔らかい緑の絨毯のような芝生。

そして、立ち並ぶ立派なログハウスと、見たこともないほど瑞々しい果実が実る家庭菜園だった。


「な、なんやここは……!? ボクは死んで天国に来てしもたんか!?」

「いや、ここは生きてる人間が住む場所だよ。確かに元は『死の毒沼』だったけど、俺がちょっと浄化して住みやすくしたんだ」

「『ちょっと浄化』ぁ!?」


男が裏返った声を上げた。


「あ、自己紹介が遅れたな。俺はアルス。しがない調合師だ」

「ボ、ボクは行商人のヴォルフと言います……。ちょっと待ってください、アルスさん。ここが本当にあの『死の毒沼』なんですか!? 数分で肺が腐ると言われる、あの禁忌の地が!?」

「ああ。毒素を分解して土と空気と水に還元したら、すごく良い環境になったんだよ。ほら、喉が渇いてるだろ? この水でも飲んで落ち着いてくれ」


俺はろ過したての湧き水を木製のコップに注ぎ、ヴォルフさんに手渡した。


「は、はあ……いただきます……」


半信半疑でコップに口をつけるヴォルフさん。

次の瞬間、彼の目が落ちそうなほど大きく見開かれた。


「――っ!? なんやこの水はぁぁぁっ!?」

「え? 苦かったか?」

「苦いどころか! 染み渡る! 全身の魔力が底上げされる感覚……これ、ただの水やない! 王都の聖堂で一杯金貨百枚で取引される『神聖水』以上の純度と魔力を含んでますやんか!!」


ヴォルフさんはコップを両手で大切に抱え、震えながら最後の一滴まで飲み干した。


「はぁ……はぁ……信じられへん。そして何より……」


ヴォルフさんの視線が、ログハウスの横で優雅に寝そべっているシルバへと向かう。


「あ、あの……アルスさん。あそこに居座ってる巨大な銀の狼さん……あれって、どう見ても伝説のSSランク魔獣シルバーフェンリルですよね? なんで普通に日向ぼっこして、尻尾振ってるんですか……?」

『バウッ(不審者じゃなければ噛みつかないぞ)』


「ああ、シルバか。昨日怪我をして倒れてたから手当てしてあげたら、ここに住み着いちゃってさ。おとなしい奴だから安心するといいよ」

「SSランク魔獣を手当てしてペットにする調合師がどこにおるんですかー!?」


頭を抱えて叫ぶヴォルフさん。

ひとしきり驚いたあと、彼はハッと正気に戻り、自分の引いてきた荷車へと駆け寄った。


「そうだ、荷物が……! ああっ、山賊に襲われた時に商品や売り物の種がメチャクチャに……」


荷車の中身は惨状だった。

仕入れていた塩や調味料の袋は破れ、小麦粉は散らばり、わずかに残った野菜の種や農工具だけがなんとか無事という状態だ。


「これじゃあ、次の街に行っても商売にならん……ボクの全財産が……」


落ち込むヴォルフさんを見て、俺は考えた。


(そういえば、俺も王都を出てきたから、日常的な調味料や日用品のストックが足りないんだよな。それに、もっと色んな種類の作物の種も欲しい……)


「ヴォルフさん。もしよかったら、取引をしないか?」

「取引……ですか?」


「ああ。俺はここに住み始めたばかりで、塩や醤油みたいな調味料、それと新しい野菜やハーブの種、頑丈な農工具が欲しいんだ。もしヴォルフさんの荷物の中に使えそうなものがあれば、俺の作ったポーションや作物の実と交換してほしい」


「えっ! アルスさんのポーションと!? 良いんですか!?」


ヴォルフさんの目が輝いた。

さっき自分が飲まされた薬の異常な効き目を、彼は身をもって知っているのだ。


「もちろん。商売になるなら、さっき飲んでもらったポーションを小瓶で五本。それと、庭で採れたこの『元気が出るトマト』を十個渡すよ」


俺は家庭菜園から真っ赤に熟した特大トマトを十個収穫し、ポーションの小瓶五本と一緒に麻袋に詰めた。


ヴォルフさんは恐る恐るポーションの小瓶を受け取り、光にかざして観察した。


「な、なんという美しい透明感……濁りが一切ない……。これ一本で、王都の最高級エリクサー十本分……いや、命を救うレベルの国宝級の薬ですよ……! ほんまにこれ、塩や種と交換でええんですか!?」

「うん。俺にとっては身近な素材で作ったものだし、何より困った時はお互い様だからね。むしろ、壊れた荷車の修理もしてあげようか?」


「えっ、荷車の修理まで!?」


「《万物錬成・極》――転換」


俺が壊れた木製の荷車に手をかざすと、砕けていた車輪と軸が綺麗な光に包まれ、一瞬で元通りの――いや、頑丈な魔導木材へと強化された状態で修復された。


「ひええぇぇ……魔法職の職人でも数日かかる修理を一瞬で……! アルスさん、あんた一体何者なんです……?」


「ただの追放された調合師だよ」


俺が爽やかに笑うと、ヴォルフさんはガバッと深く頭を下げた。


「アルスさん! ボクは決めました! これからボクは、アルスさん専属の『御用商人』になります!」

「え? 専属?」

「はい! 王都や大都市で最高の調味料、最高の種、最新の調理器具や本を仕入れて、定期的にここへ運びます! だから、どうかボクと優先取引をしてください!」


ヴォルフさんの目は真剣そのものだった。

商人としての鋭い嗅覚が告げているのだろう。この場所が、これから世界で最も価値のある『宝の山』になるということを。


「それは助かるよ。一人だと買い出しに行くのも大変だからね。よろしく頼むよ、ヴォルフさん」

「こちらこそ! お任せください!」


ヴォルフさんは大切そうに神薬とトマトを荷車に積み込むと、新品同様になった荷車を押して、意気揚々と帰路についた。


「へへっ、これでボクも大商人や! あの『死の毒沼』が、まさか神々の住まう奇跡の聖地になっているなんて、誰も信じへんやろなぁ……!」


ヴォルフさんは、街へ戻ったらこの『奇跡の神薬』と『聖地の噂』をどう広めるか、興奮で胸を躍らせながら去っていった。


行商人のヴォルフさんが去った後。


「ふう、調味料と新しい種が手に入ったな。よし、次は……」


俺は庭の奥――まだ未ろ過の毒気が渦巻く、毒沼の源泉へと視線を向けた。


「あの毒泉をろ過すれば、すごく良い温泉ができるんじゃないか?」


疲れを癒し、肌をすべすべにし、魔力を充填する『至高の万能温泉』。

俺の新しい拠点開拓は、さらに加速していくのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

皆様に楽しんで頂けるよう今後も頑張ります!


評価や感想など是非いただけますと活動の励みになりますのでよろしくお願いいたします!


次回もお楽しみに!

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