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第2話:『死の毒沼』の浄化と最初の客人

ご覧頂きありがとうございます!

楽しんで頂けましたら幸いです!


王都を出てから三日。

俺は鬱蒼とした広大な森を抜け、ついに目的の地にたどり着いた。


「ここが……『死の毒沼』か」


目の前に広がっていたのは、人界の常識を拒絶するような恐ろしい光景だった。

地面はどろどろとした紫色の泥に覆われ、あちこちで不気味な泡が弾けている。空間には目を刺すような濃い紫色の毒気が充満し、立ち枯れた木々がまるで墓標のように立ち並んでいた。


呼吸をするだけで肺が焼け焦げ、数分で命を落とすと言われる最悪の禁忌地帯。

普通の人間の感覚なら、一歩足を踏み入れることすらためらうだろう。


だが、俺は思わず破顔した。


「すごい……! 毒素の濃度が王都の地下薬草園の百倍以上あるぞ!」


俺にとって、この空間はまさに宝の山だった。

毒とは言わば、高濃度に凝縮された『極端な属性魔力』の塊だ。精製し、成分を分解して再構成すれば、あらゆる特効薬の超強力な原材料になる。


「さて、まずは拠点作りと……足場の確保だな」


俺は足元に漂う紫色の毒気へ向かって、静かに右手をかざした。


「固有スキル――《万物錬成・極》、発動」


刹那、俺の手のひらから淡い琥珀色の光が放たれた。

光は波紋のように半径十メートルの範囲へ広がり、どろどろとした毒沼を包み込む。


『構成成分を解析――【致死性腐敗毒素】【強酸性魔力結晶】【空気中の不純物質】を感知』

『分解および再構築を開始します』


頭の中に、スキル特有の澄んだアナウンスが響く。


次の瞬間、奇跡が起きた。


ジュッ、と爽やかな音が鳴り響き、足元のどろどろした泥が、一瞬にして『きめ細やかな漆黒の腐葉土』へと変貌したのだ。

さらに、空間を覆っていた毒気は清涼な風へと変わり、ハーブのような甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。


「ほう……毒素を分解して酸素と純粋な魔力に変換し、泥の中の強酸を中和したら、最高級の畑の土になったな」


俺はしゃがみ込み、ふかふかの土を手に取った。

植物が飛躍的に育つ、極上の土壌だ。


「よし、この調子で広げていこう」


俺は周囲の毒沼を次々と浄化していった。

十メートル、五十メートル、百メートル――。

俺が歩く先から、どろどろとした地獄の沼が、青々と澄み渡る美しい平原へと姿を変えていく。


中央に湧き出ていた毒の泉は、ろ過機能によって『超高濃度超純粋ミネラルウォーター』の湧き水へと変わった。一口飲むと、全身の疲れが一瞬で吹き飛ぶような極上の味がした。


「ふう、汗をかいたな。次は住む場所だ」


周囲の立ち枯れた木々を集め、木材に含まれる毒素を完全に抜き取る。

そして、分解した鉱物成分を混ぜ込んで強度を補強し、しっかりとした木造のログハウスを一棟組み上げた。


外見は素朴な平屋だが、壁には魔法攻撃を弾く『高強度鉱石成分』をコーティングし、室内は常に一定の気温と湿度が保たれる極上の住環境だ。


「よし、半日でとりあえずの拠点はできたぞ!」


満足して頷いた、その時だった。


『……グルゥゥゥ……』


浄化した平原の境界線――まだ深い毒気が残る森の奥から、低く重い呻き声が聞こえた。


「ん? 魔物か?」


身構える俺の前に、ズシンと音を立てて巨体が倒れ込んできた。


それは、体長四メートルを超える巨大な狼だった。

全身を覆う美しい銀色の毛並み。だが、その毛並みは血と泥で汚れ、腹部には痛々しい巨大な裂傷が刻まれている。さらに、傷口からは紫色の毒が回り、息も絶え絶えだった。


「これは……神獣と称されるSSランク魔獣《幻銀狼シルバーフェンリル》か?」


なぜこんな伝説級の魔獣がこんな場所に?

おそらく、人間(冒険者)との戦いで深い傷を負い、追っ手を逃れるために誰も入ってこないこの毒沼へ逃げ込んできたのだろう。だが、毒沼の毒に侵され、いよいよ命が尽きかけているようだ。


『……クゥン……』


シルバーフェンリルは、力なく黄金の瞳を俺に向けた。

「殺すなら殺せ」と諦めたような、悲痛な光が宿っている。


「かわいそうに。人間との争いは俺には関係ないが、目の前で死にかけられたら見過ごせないな」


俺は腰のポーチから、先ほど湧き出た純水と、道端で採取して精製した『高純度ポーション』を取り出した。


「暴れるなよ。痛いのを治してやるからな」


俺は倒れたシルバーフェンリルの傷口に、精製したてのポーションを惜しみなくふりかけた。


ジュワアアッ!


「グオオオン!?」


シルバーフェンリルが驚愕の声を上げる。

傷口から猛烈な勢いで黒い煙が立ち上り、一瞬で腐敗した肉が浄化されていく。

さらに、俺が作った特製ポーションは『超即効性の細胞活性化』を付与してある。


みるみるうちに巨大な裂傷が塞がり、失われた筋肉と皮膚が再生していく。

仕上げに、純水を口元へ注ぎ込んでやると、体内の毒素が綺麗に排出され、銀色の毛並みが太陽の光を浴びて神々しく輝き始めた。


「よし、これで大丈夫だ。体力が戻るまで、ここでゆっくり休むといい」


俺が笑顔でそう言って背を向けようとした瞬間――。


ズシン!


背後で大きな音がした。

振り返ると、すっかり元気になったシルバーフェンリルが、俺の目の前で前脚を折り曲げ、頭を地面に擦りつけるように深く伏伏ふくふくしていた。


「え? なに、感謝してくれてるの?」


『……キューン(主よ、生涯の忠誠を……)』


言葉は伝わらないはずなのに、頭の中にそんな意思が直接流れ込んできた気がした。

幻銀狼は、俺の脚に巨大な頭をすりすりと擦り付け、まるで懐いた子犬のように尾をブンブンと振っている。


「おいおい、そんなに擦り寄ったら毛がつくだろ……まあいいか。お前、名前はあるのか?」


首を振るシルバーフェンリル。


「じゃあ、銀色の毛並みだから『シルバ』でいいか?」


『バウッ!』


シルバは嬉しそうに吠えると、俺の護衛をするかのようにログハウスの入口前に座り込んだ。


こうして、俺の『死の毒沼』でのスローライフ初日は、伝説のSSランク魔獣をペット(用心棒)にするという、予想外の展開で幕を開けたのだった。


一方その頃――王都では、アルスを追い出した『新星の光』が、早くも最初の「異変」に直面していたのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

皆様に楽しんで頂けるよう今後も頑張ります!


評価や感想など是非いただけますと活動の励みになりますのでよろしくお願いいたします!


次回もお楽しみに!

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