第1話:攻撃魔法の使えない調合師
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「アルス、貴様は今日限りで我が『新星の光』をクビだ」
王都の豪華なギルドサロンに、冷ややかな声が響いた。
声をかけたのは、ゴールドの甲冑に身を包んだ男――Sランク冒険者パーティ『新星の光』のリーダー、勇者クラウスだ。
彼の後ろには、仲間の魔法使いや聖女が、まるで汚い物を見るような目で俺を見下ろしている。
「……クビ、ですか? クラウスさん、急にどうして」
「急でもなんでもない。理由なら明確だ。貴様が【調合師】だからだよ」
クラウスは腰の聖剣の柄に手を当てながら、吐き捨てるように言った。
「俺たちはこれから、魔王軍の幹部が潜む深層ダンジョンに挑む。必要なのは圧倒的な火力と戦闘力だ。攻撃魔法一つ使えず、後ろでポーションを混ぜているだけの薬売りなど、足を引っ張る以外の何物でもない」
「ですが、僕が作る特製回復薬があったからこそ、今までの過酷な遠征も誰も欠けずに乗り越えられたはずです。深層では市販のポーションじゃ効き目が追いつきません」
「ははっ! 買いかぶるなよアルス!」
クラウスが大笑いした。
「ポーションなど、街の薬屋で買えば済む話だ。それに、新しい回復役として、Bランクの薬術士を雇うことが決まってな。彼女は攻撃魔法も使える。貴様のような『戦えない雑用係』に払う給料は、もう一銅貨だってないんだよ!」
周囲の冒険者たちから、クスクスと忍び笑いが漏れた。
『新星の光』は今、王都で最も勢いのあるパーティだ。そのリーダーに睨まれれば、この街で冒険者として生きていくことはできない。
「……分かりました。今までお世話になりました」
俺は深く頭を下げた。
反論しても無駄なことは、クラウスの目を見れば分かったからだ。
俺は背負っていた巨大な調合リュックを背負い直し、ギルドをあとにしようとした。
「待て、アルス」
クラウスが呼び止める。
「俺たちも鬼ではない。長年の功績(笑)に免じて、開拓地として王家から下賜された土地の権利書をやる。……まあ、あそこならお前のような無能でも静かに暮らせるだろう」
差し出された羊皮紙を受け取る。
そこに書かれていた地名を見た瞬間、周囲の冒険者たちが息を呑んだ。
『最果ての地――死の毒沼』
「クラウス様、そこは……! 人間が踏み込めば数分で肺が腐るという、あの禁忌の地ではありませんか!」
聖女がわざとらしい悲鳴をあげる。
「なあに、土地は土地だ。文句はあるまい?」
クラウスは下劣な笑みを浮かべていた。実質的な追放、いや『死ね』と言っているようなものだ。
「……いえ、感謝します」
俺は静かに権利書を懐に収め、ギルドの扉を押した。
王都の冷たい風が頬を撫でる。
俺は一人、街道を歩きながら小さく息を吐いた。
(……やれやれ。やっと解放されたか)
実は、悲しさなんて微塵もなかった。
むしろ、胸を撫でおろしていたのだ。
クラウスたちは知らない。
俺が毎日、彼らの無茶な戦い方に合わせて『即効性・毒無効・全回復』の最高級ポーションを、睡眠時間を削って大量生産していたことを。
市販のポーションで深層モンスターの攻撃が癒せると思っているなら、痛い目を見るのは彼らの方だ。
そして――彼らはもう一つ、重大な勘違いをしている。
(『死の毒沼』か……)
俺は自分のステータス画面をそっと開いた。
【名前】アルス
【職業】調合師
【固有スキル】《万物錬成・極》
・あらゆる物質の構造を把握し、分解・再構築・浄化する。
・素材の持つ潜在能力を1000%引き出して調合可能。
「毒沼か……最高の素材の宝庫じゃないか」
普通の調合師なら、毒はただの害悪だ。
しかし、俺のスキルにかかれば『高濃度の毒』ほど、強力な薬を作るための希少なエネルギー源になる。
「よし。誰にも邪魔されない俺だけの工房を作るとしよう」
俺はリュックを担ぎ直すと、誰も近づかない最果ての地を目指して、足取り軽く歩き出した。
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