第14話:広がっていく聖域と、追放者たちの絶望
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勇者クラウスたちが近衛騎士団によって門外へ叩き出され、ルナリア王国から永久追放されてから、数ヶ月の月日が流れた。
王都から遠く離れた、不毛な岩場が広がる国境の強制開墾地。
そこには、泥と汗にまみれながら、重いツルハシを振るう哀れな者たちの姿があった。
「はぁ……はぁ……くそっ……! なぜ勇者であるこの俺が、こんな泥拾いをしなければならないんだ……!」
ボロボロのボロ布を纏い、顔を泥で汚したクラウスが怨嗟の声を漏らす。
オークションで借り集めた金貨五百枚という途方もない借金、さらにはSランク資格の剥奪と王国からの追放。身ぐるみを剥がされた彼らに残されたのは、過酷な肉体労働という現実だけだった。
「クラウス様……もう手が動かないわ……。お腹もすいたし、全身が痛いの……」
「黙れ! 俺に泣き言を言うな!」
魔法使いの女も、かつての華やかさは見る影もなく痩せこけている。
そんな彼らの耳に、街道を行き交う行商人の会話が飛び込んできた。
「おい、聞いたか? 最果ての『聖都アルス』で、今度全世界の要人を集めた『聖地誕生祭』が開かれるそうだぞ!」
「ああ! ルナリア王国だけでなく、隣の帝国や大公国もこぞって参加して、アルス様を『世界最高の聖者』として称える【全世界絶対不可侵条約】が結ばれるらしい!」
「あの街に行けば、どんな病も治るし、美味しい作物が食べられるって話だ。俺も商売がてら引っ越そうかな!」
「……っ!?」
クラウスの手からツルハシが滑り落ちた。
自分たちが泥をすすり、絶望の中で喘いでいる間に――自分たちが捨てた「雑用係」のアルスは、一国の枠すら超え、世界中から愛され崇められる伝説の存在になっていたのだ。
「あ……あああ……っ!」
クラウスは膝から崩れ落ち、泥の中に顔を埋めて絶叫した。
嫉妬と後悔、そして取り返しのつかない決定的な格差。
彼らが手放したものは、ただの調合師ではなく、世界そのものを変革する奇跡だったのだと、今更知ったところで遅すぎたのだった。
一方――『聖都アルス』。
かつて『死の毒沼』と呼ばれたその場所は、今や美しい街並みと広大な農園、そして立ち上る温かな温泉の湯気に包まれていた。
「よし、今日の新種ハーブ『ルナ・ミント』の収穫はこれでバッチリだな!」
俺は汗を拭い、宝石のようにエメラルド色に輝くハーブをカゴいっぱいに収穫した。
『バウッ♪』
横でシルバが楽しそうに尻尾を振り、もぎたての特大トマトを美味そうにハグハグと食べている。
「アルス様!」
ログハウスのテラスから、私服姿のエレノア姫が笑顔で駆け寄ってきた。その後ろには、ハインツ騎士団長と御用商人のヴォルフさん、そして門番のガルドさんも同行している。
「エレノアさん、みなさん、お疲れ様です! どうしたんですか、揃って?」
「アルス様、素晴らしいお知らせです!」
エレノア姫が両手を胸の前で合わせ、目を輝かせた。
「近隣諸国すべての国王や領主様方から同意が得られました! 本日をもって、この『聖都アルス』はどの国にも縛られない【全世界永世中立聖域】として、世界条約に調印されました!」
「ええっ!? 全世界永世中立聖域……!?」
「はい!」とヴォルフさんが胸を張る。
「これで、どこの国の軍隊も、どんな権力者も、アルスさんの許可なしにこの地に立ち入ることは永遠にできなくなりました! アルスさんの平和で静かなスローライフは、世界の法律によって完璧に守られたんです!」
「さらに!」とハインツさんが力強く付け加える。
「この偉業と、アルス様が世界にもたらしてくださった恵みに感謝するため、来週、この聖都で『第一回・聖地誕生祭』を開催することに決定いたしました!」
「聖地誕生祭……!?」
「はい! 世界中から美味しい食べ物や珍しい品が集まり、アルス様を囲んでみんなでお祝いをするお祭りです! アルス様、楽しみですね!」
エレノア姫の最高の笑顔に、俺は思わず微笑みを返した。
「お祭りか……うん! みんなが楽しんでくれるなら、俺特製の美味しい料理やジュースをたくさん用意しなきゃですね!」
自分の知らないところで世界の歴史が動いていたことには驚いたが、大切な仲間たちと、この平和な場所で笑い合えるなら、それ以上に幸せなことはなかった。
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