第15話:最果ての地で、最高の明日を(最終話)
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秋の澄み渡る快晴の下――『聖都アルス』は、建国以来最高のお祭り騒ぎに包まれていた。
「さあさあ! アルス様特製の『至高の温泉たまご』と『極上マンゴージュース』だよ! 誰でも無料で食べていってくれ!」
「美味しい……! なんだこの味は!? 体の奥から力が湧き上がってくるぞ!」
「アルス様、万歳! 聖都アルス、万歳!!」
新しく整備された大通りには、色とりどりの屋台が立ち並び、ルナリア王国の庶民から遠方の異国からやってきた旅人まで、あらゆる人々が笑顔で歌い、踊っていた。
かつて命を奪う死の毒気が渦巻いていた最果ての禁忌地は、いまや世界で最も温かく、希望に満ちた『奇跡の街』へと生まれ変わっていたのだ。
陽が傾き、夕空が茜色から深い群青色へと移り変わる頃。
お祭りの賑やかさから少し離れた、ログハウスの裏手に広がる小高い丘。
俺は特製の万能露天風呂から上がり、心地よい風に吹かれながら、眼下に広がる街の灯りを眺めていた。
『フチャー……』
傍らでは、神獣シルバが温まった岩場の上で気持ちよさそうに丸くなり、幸せそうな寝息を立てている。
「ふう……綺麗だなあ」
「はい……本当に、夢のような光景です」
静かな足音とともに、可憐なドレス姿のエレノア姫が隣に並んだ。
夕闇に照らされた彼女の横顔は、息をのむほど美しかった。
「アルス様。少し、お話ししてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです」
エレノア姫はそっと俺の隣に座ると、胸に手を当てて静かに語り始めた。
「数ヶ月前……私が不治の魔毒病に倒れ、死を覚悟していたあの頃……世界はただ暗く、冷たいものでした。ですが、アルス様が作ってくださった一杯のスープと、優しい笑顔が、私の世界に光を取り戻してくれたのです」
「エレノアさん……」
「あなたがこの地に作られたのは、ただの薬や作物ではありません。人々が助け合い、笑い合える『居場所』そのものです。……私にとっても、ここは世界で一番大切な場所になりました」
エレノア姫は、少し頬を赤らめながら、真摯な琥珀色の瞳でまっすぐに俺を見つめた。
「アルス様。どうか……これからも私を、あなたのいちばん近くにいさせていただけますか?」
王女様からの、まっすぐで温かな言葉。
俺の胸の中に、じんわりと温かい愛おしさが広がっていく。
俺はエレノア姫の手を、優しくしっかりと握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いしますエレノアさん。俺も……あなたと一緒にいられる時間が、一番幸せです」
「アルス様……!」
エレノア姫の瞳に、美しい感動の涙が浮かぶ。
二人の距離が重なりかけた、その時――。
「アルスさぁぁぁん! エレノア様ぁぁぁっ! フィナーレの打ち上げ花火が始まりますぞーっ!」
丘の下から、ハインツさんとガルドさん、ヴォルフさんの大声が響き渡った。
「「……あっ」」
俺とエレノア姫は顔を見合わせ、思わずクスッと吹き出してしまった。
『バウッ!』
目を覚ましたシルバが嬉しそうに立ち上がり、俺たちの周りをぐるぐると回る。
直後――ドォォォンッ!! と大きな音が響き、夜空いっぱいに大輪の光の花が咲き誇った。
大歓声に包まれる聖都の街。
夜空を見上げるハインツさんたちの笑顔、嬉しそうに尾を振るシルバ、そして俺の手を愛おしそうに握りしめるエレノア姫。
(追放された時は、どうなることかと思ったけど……)
俺は夜空の光を見つめながら、心からそう思った。
無能だと蔑まれ、捨てるように追放されたからこそ、俺は最高の仲間たちと出会えた。
そして、自分自身の力で、誰もが幸せになれる最高の居場所を作り出すことができたのだ。
「さあ、アルス様! 私たちもみんなのところへ戻りましょう!」
「はい! 行きましょう、エレノアさん!」
手を取り合い、光と笑顔が待つ下へと駆け出していく。
最果ての地で始まった無自覚な最高峰のスローライフは、これからも仲間たちと共に、永遠に、どこまでも幸せに続いていく――。
(『万能調合師の最果てスローライフ』――全15話・完結)
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