第13話:勘違い勇者の来訪と鉄壁の拒絶
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王都から馬車を乗り継ぎ、数日。
ボロボロの身体にムチを打ちながら、勇者クラウスと『新星の光』のメンバーは、ようやく目的地へと辿り着いていた。
「はぁ……はぁ……つ、着いたぞ……! ここが『死の毒沼』か……!」
馬車を降りたクラウスは、痛む腰を摩りながら周囲を見回した。
しかし、彼の目に飛び込んできたのは、ドロドロとした泥と死の毒気が広がる凄惨な廃棄地などではなかった。
「な……なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」
クラウスの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。
眼前に広がるのは、白亜の石造りの美しい大門と、どこまでも澄み渡る青空。
街道は美しく舗装され、色鮮やかな花々と豊潤な果実の香りが風に乗って漂ってくる。
そして何より――大門の周囲には、王国の近衛騎士団が隙なく陣を張り、凄まじい威圧感を放っていたのだ。
「う……嘘でしょ……ここ、本当に『死の毒沼』なの……!?」
「まるで王都以上のお城じゃないのよ……!」
魔法使いの女たちが青ざめた顔で震え上がる。
だが、クラウスは強烈な歪んだプライドを胸に、グッと口元を歪めた。
(ふん……! アルスの奴め、俺たちに追放された腹いせに、見栄を張ってこんな立派なマネをしやがって! だが、どれだけ取り繕おうと、あいつはただの『無能な雑用係』だ!)
クラウスは怪我で痛む身体を誇示するように大股で歩き出し、大門へと向かった。
「おい! アルスを出せ! 俺はSランク――いや、勇者のクラウスだ! アルスの『元・ご主人様』として迎えに来てやったぞ!」
門の前で横柄に叫ぶクラウス。
その瞬間――ピキリと、周囲の空気が一変した。
大門の前で仁王立ちしていた巨漢の男――門番のガルドが、大盾を地面にドスンと叩きつけた。
地響きとともに、凄まじい威圧感がクラウスたちを襲う。
「……黙れ、雑輩が」
「な、何だと!? 俺は勇者だぞ! 門番ごときが俺に口を――」
「控えよ、不法侵入者!!」
ズシンッ! と力強い足音とともに現れたのは、白銀の鎧をまとった近衛騎士団長ハインツだった。
全盛期を超えて覚醒したハインツから放たれる圧倒的な覇気に、クラウスたちは思わず「ひっ!?」と後ずさりした。
「ここをどなたの御前とお心得る! ここはルナリア王国が誇る【国家直轄の永世中立聖域】! そして我が国の『一級聖導師』アルス様の絶対聖域であられるぞ! 貴様のような無礼者が踏み込んで良い場所ではない!」
「ひ、一級聖導師……!? なにを馬鹿な……!」
ハインツたちの真剣極まる眼光に、クラウスの額から冷や汗が噴き出す。
だが、ここで退くわけにはいかない。
「勘違いするな騎士団長! アルスは元々、俺たち『新星の光』の専属調合師なんだ! 奴が作った薬もこの土地も、すべて俺たちのものだ! ほら、早くアルスを呼べ! 追放を取り消してやるから泣いて感謝しろと言ってやる!」
どこまでも身勝手なクラウスの叫び。
その時――ログハウスの方から、静かな足音が近づいてきた。
「……何の騒ぎですか、ハインツさん?」
「あっ、アルス様!」
現れたのは、いつも通りの素朴な作業着姿の青年――アルスだった。
その隣には、純白の毛並みを誇る巨大な神獣シルバと、可憐なドレスに身を包んだ第一王女エレノアが寄り添っている。
「ア、アルス……! アルスじゃないか!!」
アルスの姿を見た瞬間、クラウスの顔に下品な笑みが浮かんだ。
「ハハハッ! 会いたかったぞアルス! 命拾いしたな! お前が王都を去ってから、俺たちも色々と大変だったが……特別にお前の罪を許してやる! 追放は撤回だ! さあ、今すぐ荷物をまとめて俺たちのパーティに戻れ! 以前のように毎日神薬を作れば、また荷物持ちとして置いてやって――」
「断ります」
「……は?」
ピシャリと放たれた一言。
アルスは感情の籠もらない、静かで冷ややかな瞳でクラウスを見つめていた。
「き、聞き捨てならんなアルス! 勇者であるこの俺が、直々に迎えに来てやったんだぞ!? 『許してやる』と言っているんだ!」
「許すも何も、僕はもうあなたたちと関わるつもりはありません」
アルスは淡々とした口調で続けた。
「追放されたあの日、あなた方は僕から道具もお金もすべて奪い、毒沼に捨てましたよね? 『二度と顔を見せるな』と言ったのはクラウスさんたちです。僕は今、ここで大切な仲間たちと幸せに暮らしています。ですから、もう二度と僕の前に現れないでください」
「ぐ……っ! こ、この恩知らずがぁぁぁっ!!」
プライドを木端微塵に砕かれたクラウスは、怒りで顔を真っ赤に沸騰させた。
「誰のおかげでここまで有名になれたと思っているんだ! 俺たちがSランクパーティとして名前を売ってやったから、お前もチヤホヤされているんだろうが! 恩を仇で返しおって……! 嫌だと言っても強引に連れて行くぞっ!!」
クラウスが狂気に駆られ、腰の聖剣に手をかけた――その瞬間。
『――グルルアァァァァッ!!』
地響きのような咆哮が全域に轟いた。
シルバが牙を剥き出しにし、山のような巨体をクラウスたちの頭上に影として落とす。
「ひぃぁぁぁぁっ!?」
「さらに、ガルドとハインツ、そして周囲の五十名の精鋭騎士を一斉に剣を抜いた。
「アルス様に向かって刃を向けようとは……万死に値する!」
「我が聖者様に触れようとする不敬者め! ここで叩き潰してくれる!」
さらに、アルスの隣に立っていたエレノア姫が、冷酷極まりない氷のような視線をクラウスへ向けた。
「我がルナリア王国の恩人であり、国家の宝であるアルス様を脅迫・侮辱した罪……重罪です。本日をもって、『新星の光』の全メンバーをルナリア王国からの【永久追放および捕縛対象】といたします」
「え……ええぇぇぇっ!?」
「近衛騎士団! この者たちを直ちに捕縛し、国境の外へ放り投げなさい!」
「「「ハッ!!」」」
「待て! 待ってくれ! 俺は勇者だぞ! 勇者クラウスだぁぁぁっ――!?」
叫び声も虚しく、重装騎士たちによって容赦なく取り押さえられたクラウスたちは、まるでゴミのように門の外へと叩き出された。
全財産を失い、身体は毒と怪我でボロボロ、さらには国家からの追放処分。
かつて栄華を極めたSランクパーティ『新星の光』は、自らの身勝手さと愚かさによって、完全な破滅を迎えたのだった。
「ふぅ……騒々しくてすみませんでした、アルス様」
クラウスたちが連れ去られた後、エレノアが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、エレノアさんたちがいてくれて助かりました。ありがとうございます」
アルスはほっと胸を撫でおろすと、シルバの頭をなでなでした。
「さて! 嫌なことも吹き飛びましたし、みんなで新しく作ったハーブティーと焼き立てのパンでも食べましょうか!」
『バウッ♪』
「おお! アルス様の焼き立てパン! いただきますぞ!」
何事もなかったかのように、再び温かな笑顔と笑い声に包まれる『聖都アルス』。
追放された一人の青年が歩み始めたスローライフは、これからも仲間たちと共に、どこまでも穏やかで、どこまでも豊かに続いていくのだった。
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