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第10話:無自覚な聖地化と『聖都アルス』の誕生

ご覧頂きありがとうございます!

楽しんで頂けましたら幸いです!


ルナリア王国の近衛騎士団が駐屯を始めてから、わずか一ヶ月。

かつて『死の毒沼』と呼ばれた最果ての禁忌地は、誰もが予想しなかった恐ろしい速度で変貌を遂げていた。


「アルス様! 王都の最高級建築ギルドから派遣された大工職人たちが到着いたしました! どこに宿舎を建てましょうか!?」

「アルスさん! ヴォルフ商業組合の商隊が到着しました! 調味料と最新の調合機材、それに依頼されていた南国の果物の種を運び込みましたよ!」


ログハウスのテラスでハーブティーを飲んでいた俺の元へ、ハインツ騎士団長と御用商人のヴォルフさんが息を弾ませて駆け込んでくる。


「えっ……大工職人? 宿舎?」


俺が首をかしげると、ヴォルフさんが身乗り出して説明してくれた。


「そりゃそうですよアルスさん! 今やここへやって来るのは、騎士団の方々だけやありません! 噂を聞きつけた各国の要人、不治の病に悩む大貴族、さらにはアルス様の神薬を一目見たいという腕利きの調合師たちで、境界線の外は大行列なんです!」

「大行列……!?」


俺は思わずテラスから敷地の外へと視線を向けた。


かつて死の毒気が渦巻いていた森の入口には、いつの間にか立派な石造りの『正門』が建造されていた。

門の脇には大盾を構えたガルドさんがドスンと控え、その周囲を白銀の鎧を着た騎士たちが厳重に警備している。

そして門の外には、高級そうな馬車や冒険者たちのテントがズラリと立ち並び、まるで大きな祭りのような熱気に包まれていた。


「あ、あの門とか外の街道って、いつの間にできたんですか……?」


「ははっ! 我ら騎士団と王立の土木魔導師隊が、不眠不休で整備いたしました!」


ハインツさんが誇らしげに胸を張る。


「アルス様の元へ来られるお客様が、道に迷ったりぬかるみで脚を痛めたりしては大変ですからな! 街道を舗装し、受付所を設け、敷地内に一般の方が滞在できる『温泉保養所』と『聖地病院』を建設する許可をいただきに来たのです!」


「いや、許可って言われても……そこまで大掛かりになると、もう村とか街じゃないですか……」


「村? いいえ、アルス様!」


ヴォルフさんが目を輝かせて割って入った。


「ここはもう『村』なんて規模やありません! 国王陛下とエレノア姫様のご意向により、この地は正式に【聖都アルス】として世界地図に登録されることになったんです!」


「せ、聖都アルス――!?」


自分の名前がいつの間にか都市の名前になっている事実に、俺は思わず持っていたコップを落としそうになった。


「だ、だって俺、ただここで静かに薬を作って、野菜を育てて、温泉に入りたかっただけなんですけど……!」


「ご安心ください、アルス様!」


ハインツさんが力強く頷く。


「アルス様のプライベートゾーンであるこのログハウスと広大な中央農園、そして『至高の万能露天風呂』の周囲三キロメートルは【絶対不可侵領域】として厳重に封鎖してあります! 招かれた者以外、王族であっても一歩たりとも立ち入らせません! アルス様のスローライフは、我々が完璧に死守いたします!」


「う、うん……そこまで守ってくれるなら、まあ……いいのかな……」


俺は思わず苦笑いした。


よく考えれば、自分で買い出しに行かなくても世界中の珍しい種や極上の調味料が自動的に届き、広い敷地の草むしりや警備は最強の騎士団とガルドさんがやってくれるのだ。

しかも、新しくできる施設のおかげで、病気や怪我で困っている大勢の人たちが救われるという。


(まあ……俺が直接患者さん一人ひとりを診るより、施設を作ってもらって、そこに俺の作ったポーションや温泉の湯を効率よく供給する方が楽だしな)


「分かりました。じゃあ、建築も開発もハインツさんとヴォルフさんにお任せします。ただし、自然を壊しすぎないことと、俺の畑の邪魔をしないことだけは守ってくださいね」


「「ははっ! 仰せのままに!!」」


二人(と後ろで控えていた騎士たち)が一斉に深々と頭を下げた。


こうして、主である俺の関知しないところで、最果ての廃棄地は世界で最も神聖で栄える『聖都アルス』へと、驚異的なスピードで進化を始めていったのだった。


その日の午後。


俺はさらに広がった裏庭の農園で、ヴォルフさんが持ってきてくれた『南国の果物』の種を蒔いていた。


「ええと……『マンゴー』と『ドラゴンフルーツ』の種か。これを極上腐葉土に植えて、ろ過した温泉水を与えるっと……」


パラパラと種を蒔き、じょうろで水をかける。


シュオオオオ……!


数秒後、土から一気に極彩色の芽が吹き出し、見る見るうちに太い幹へと成長。大人の顔ほどもある巨大なマンゴーが、宝石のようにツヤツヤと輝きながら鈴なりに実った。


『バウッ♪』


横で待機していたシルバが、嬉しそうに尻尾をブンブンと振る。


「はいはい、シルバ。もぎたてのマンゴーだぞ」


熟した特大マンゴーを一つもぎ取り、手で割ってシルバに渡す。

滴り落ちる黄金色の果汁。シルバはハグハグと美味しそうに頬張り、幸せそうに目を細めた。


「どれ、俺も……うん、甘い! 舌の上でとろけるような美味さだ!」


ただ甘いだけではない。

果汁が全身に染み渡ると同時に、魔力回路が拡張され、頭がスッキリと冴え渡っていくのを感じる。

これは食べるだけで『精神疲労を完全に除去し、集中力を永続的に高める』という至高の果実に変貌していた。


「よし、このマンゴーも後でエレノア姫や騎士団のみんなにお裾分けしてあげよう」


平和で豊かな、最高のスローライフ。

俺が仲間たちと穏やかな時間を過ごしていた、まさにその頃――。


王都――Sランク冒険者パーティ『新星の光』の本部。


「くそっ……! なぜだ! なぜこんなに身体が重いんだ……!?」


勇者クラウスは、豪華な応接室のソファに深々と身体を沈め、激しい頭痛に耐えながら絶叫していた。


彼らの身体には、数々の異変が起きていた。

アルスを追い出してからというもの、ダンジョン攻略のたびに原因不明の強烈な倦怠感、関節の痛み、そして魔力切れに襲われるようになっていたのだ。


「クラウス様……またミレーヌのポーションを飲んだのですが、全然疲労が抜けません……! 喉が焼けるように乾いて、頭が割れそうです……!」


魔法使いの女が、青ざめた顔で青い小瓶を握りしめて訴える。


「ええい、黙れ! ミレーヌ! 貴様、本当に最高級のポーションを買ってきたんだろうな!?」


「ひ、ひぃっ! 本当ですクラウス様! 王都で一番高い薬問屋から買い求めたものです! ですが……ですが、以前アルスが置いていったポーションのような効き目は……どうしても……!」


新しく雇った薬術士のミレーヌが、ガタガタと震えながら泣き叫んだ。


クラウスたちはまだ理解していなかった。

アルスが作っていたのは、ただのポーションではない。

『万物錬成・極』によってあらゆる不純物が除去され、身体の潜在能力を極限まで引き出し、魔毒や疲労の蓄積を完全に無効化する『神薬』だったのだ。


彼らは知らず知らずのうちに、アルスの神薬によって完璧にコンディションを整えられていたに過ぎない。

それを自分の実力だと勘違いし、アルスを「無能」だと追い出した結果――彼らの体内には、長年の戦いで蓄積した魔毒と疲労が、一気に蓄積して破裂しようとしていたのである。


「チッ……! 役立たずどもが! こうなったら、最近噂になっているあの『神薬』を競り落とすしかない……!」


クラウスはイライラと机を叩いた。


近頃、王都の闇市や大商業ギルドで、信じられないほどの高額で取引されているという『奇跡の神薬』。

一本でどんな怪我も病も治し、飲むだけで全盛期の体力を取り戻すという噂の薬だ。


「ヴォルフ商業組合が近々、王都のオークションハウスでその神薬を出品すると言っていたな……。金をどれだけ積んででも、あの神薬を手に入れるぞ!」


クラウスの目は狂気に満ちていた。


自分が追放した「無能な調合師」アルスこそが、その神薬を作り出し、今や国家規模の聖地『聖都アルス』の主になっていることなど――彼らはまだ、夢にも思っていなかったのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

皆様に楽しんで頂けるよう今後も頑張ります!


評価や感想など是非いただけますと活動の励みになりますのでよろしくお願いいたします!


次回もお楽しみに!

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