10話:初めての魔法
「熱い、熱すぎる」
俺は汗を拭いながら呟く。
今俺達がいるのは、三十八層の砂漠地帯。
三十七層までは草原地帯だったが、三十八層に入ると砂漠地帯が広がっていた。
「イリス、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
イリスは答えながら顔の汗を拭う。
すると前方から魔物の気配が。あれはーーーサソリか?しかも結構でかい。
戦うのが面倒だな。体力も奪われるし。
いや、待てよ。あのサソリに、下へ降りる階段の場所まで連れて行ってもらえば、移動が楽になる。
ニヤッ、俺は広角を上げてサソリに近づき、一気に魔力をサソリだけにぶつける。
するとサソリは震えて動かなくなる。
「おい、サソリ!下へ降りる階段まで、俺達を乗せて行け!」
俺はサソリに叫びながら言うと、サソリはすごい勢いで、首を縦に振る。
〈威圧を取得しました〉
〈モンスターテイムを取得しました〉
よしよし、これで移動が楽になる。
「イリス、このサソリに乗って行くぞ」
「テイムしたんですか!」
「ああ、そうだ。早く乗れ、一刻も早くこの階層から出たい」
「わかりました」
イリスがサソリに乗り、サソリが動き出す。
「頼むぞ、サソリ!」
それから三十分後、ようやく下へ降りる階段にたどり着く。
「ふぅ〜、やっと着いたか。この階層でかすぎだろ」
「そうですね。次の三十九層は、涼しいといいですね」
「ああ、そうだな。サソリ、ありがとな」
「ありがとうございます、サソリさん」
俺達は帰っていくサソリに手を振り、三十九層への階段を降りていく。
✽
木々が生い茂り、木漏れ日が美しく、空気が美味しい。そう、ここはーーー
「森の中だー!」
「三十九層は森みたいですね。さっきと比べると、結構涼しいですね」
「ああ、そうだな。これでまた砂漠だったら、流石にキレてたな」
「そうですね、体力が持たなかったと思います」
俺達は周りを見ながら話す。
近くに魔物の気配はないな。
「とりあえず歩くか」
「はい」
俺達は森の中を歩いていくが、進んだ気がしない。
周りの景色がずっと一緒だからか。
すると突然、危険察知が俺に危険を知らせて来る。
その瞬間、隣の木の枝が俺の顔めがけて攻撃してくるが、既のところで体をそらして回避する。
「あっぶねー」
どうなってんだ、木がいきなり動き出したぞ。
「主様、そいつは魔物のトレントです。木の姿をして、不意打ちしてくる魔物です」
「わかった、情報ありがとう」
さあ、不意打ちするしか脳のない魔物は、倒さないとな。
トレントはその枝で、再度俺に攻撃を仕掛けてくるが、クレアを抜刀してその枝を斬り、レイナでトレントを真っ二つにする。
「イリスもトレントには気をつけろよ」
「はい、わかりました」
それから俺達は森の中を進み、ついに四十層に降りる階段を見つける。
「つ、ついに四十層ですか」
「ああ、そうだな。気を引き締めて行くぞ」
「はい」
そうして俺達は、四十層に続く階段を降りる。
✽
階段を降りると、薄暗く一本の道があるだけの場所だった。
「この道を行くと、ボス部屋にたどり着けるってことですかね?」
「たぶんな。他の道がない限り、進むしかないだろう」
俺達はその道を進み、ボス部屋の前にたどり着く。
「本当に着きましたね」
「ああ、普通ボス部屋にたどり着けないように魔物とかがいるのに、この階層は一体もいないぞ」
「そうですね。それほどボスが強いってことですかね?」
「その可能性はあるな」
二人で話していると、ゴゴゴ…という音とともに、扉が開く。
「まあ、行くしかないか」
「そうですね、頑張りましょう」
「ああ、行くぞ!」
「はい!」
俺達は扉の中に入り、一瞬の浮遊感の後に、ボス部屋にたどり着く。
そこには、鎧を着た馬と、その馬に乗っている、鎧を纏って首がなく右手には槍が、左手には盾を持った人がいた。
あれはーーーデュラハン?
俺は魔物を鑑定する。
名前:デュラハン
種族:アンデット
性別:男
LV.70
HP:850
MP:600
STR(筋力):780
DEF(防御力):900
AGL(素早さ):800
LUK(運):65
スキル
闇魔法LV3
槍術LV3
盾LV3
防御力高いな。今回は物理攻撃の戦いになりそうだ。
一応槍と盾も鑑定しておくか。
名称:デュラハンの槍
レア度:S
名称:デュラハンの盾
レア度:S
今回は普通の武器か。前のリッチがやばすぎただけか。
「イリス、あいつの防御力かなり高い。今回は持久戦になりそうだ」
「わかりました」
俺はデュラハンの方を見る。
あの盾をどうにかしないと、攻撃がまともに入りそうにないな。
よし、ちょっと試すか。
俺はデュラハンめがけて走るが、デュラハンは動かない。
俺はさらにデュラハンとの距離を詰めて、その距離1メートル。
デュラハンは槍で俺を攻撃してくるが、それを回避して、
“魔力撃”
俺は右手に魔力を込めて、
「はあぁぁぁ!!!」
デュラハンの体に魔力撃を打ち込むが、盾で防がれ、衝撃波が発生する。
チッ!やっぱ壊れねーか。
デュラハンが闇魔法を纏った槍で、俺を突こうとするが、俺はクレアで弾いて後ろに跳躍し、距離をとる。
魔力撃でも傷一つ付かねーのか。
どうする?魔力解放で一気に攻めるか?いや、たぶんそれでも本体に傷は作れない。じゃあどうする?あとこっちが持ってる手札はイリスだけだ。イリスをどう使うか。それが今回の鍵だ。
『デュラハンが詠唱を始めたのじゃ』
「わかった。イリス、俺は右から行く、イリスは左からだ」
「わかりました」
俺は右から、イリスは左から、デュラハンめがけて走る。
これで攻撃が分裂する。
デュラハンは詠唱を終えると、巨大な闇の槍が現れる。
「なんだよあれ、でかすぎだろ!」
闇の槍が、俺めがけて飛んでくる。
魔力壁で止められるか?いや、たぶん無理だ。
俺はクレアとレイナで、闇の槍を受け止める。
火花が飛び散りながら、徐々に後退していく。
くっ、無理か?いや、
“魔力解放”
俺はクレアとレイナの魔力を解放する。
「うおぉぉぉぉ!!!」
俺は闇の槍を弾き、デュラハンに魔力を乗せた斬撃を飛ばす。
後ろからは、イリスが魔力撃を繰り出そうとしている。
デュラハンは盾で斬撃を防ぎ、槍でイリスの魔力撃を防ごうとするが、防ぎきれず、壁に吹き飛ばされ、土煙を上げる。
よし、攻撃が当たった。
デュラハンは起き上がって、馬に飛び乗り、イリスめがけて走り出す。
やばい、追い付けない。
『伸弥、妾の魔法を使うのじゃ』
「魔法?魔法ってどうやって使うんだ?」
『まず、妾を地面に突き立てるのじゃ』
「わかった」
俺は地面にクレアを突き立てる。
「この次は?」
『妾と一緒に詠唱するのじゃ』
「詠唱?詠唱なんてわからないぞ」
そう言った瞬間、俺の頭の中に詠唱のフレーズが流れてくる。
何だこれ?でも、詠唱のフレーズはわかった。
「詠唱がわかった」
『うむ、それじゃあ行くのじゃ!』
「おう!」
「『見えなき鎖よ、汝を束縛せよ《黒影縛鎖》』」
詠唱を唱えると、デュラハンの下の地面から、黒い鎖が出現し、デュラハンの体と馬の体を束縛し、動きを封じた。
「今だ、イリス!」
「はい。“魔力撃”」
イリスは魔力撃をデュラハンの体に打ち込み、デュラハンは壁まで吹き飛ばされる。
これでも倒せないか。
『伸弥さん、次は私を使ってください』
「レイナも?」
『はい。私のスキルで倒します』
「わかった」
するとまたも、頭の中に詠唱のフレーズが流れてくる。
俺はレイナを地面に突き立てると、
「『光を遮る闇よ、光なくして闇は在らず、聖なる光で闇夜を切り刻め《闇斬光閃》』」
詠唱を唱えると、デュラハンの周りが光に包まれ、デュラハンが切り刻まれる。
十、二十、三十、と切り傷が増えていき、切り傷が百になると同時に、デュラハンが倒れる。
「倒した・・・のか?」
『そのようじゃな』
『はい、やりました』
イリスがこちらに走って来る。
「さすが主様です!」
「いや、そんなことないよ。イリスもよく頑張ったな」
「ありがとうございます!」
すると前方から、
ゴゴゴ…
という音とともに扉が開く。
「さあ、行こうか」
「はい!」
そうして無事、四十層も攻略し、俺達は四十一層へ足を進める。