9話:死の鎌
十一回層は、一面に広がる草原だった。
十回層とは随分違うな。
『それで、これはどういうことじゃ?』
「どういうことって、何がだ?」
『あのイリスとか言う奴のことじゃ!』
「イリスがどうかしたのか?」
『なんで一緒に行くことになっておるのじゃ!』
「いや、イリス結構強かったし、仲間にして損はないかな〜て」
『そんな理由か。はぁ、もう何でもいいのじゃ』
「何でもいいって、何だよ。まあ、いいんだったらいいけどさ」
クレアと話していると、索敵に魔物の気配が現れる。
「イリス、魔物だ。数は三体、俺が二体やる。一体は頼む」
「はい、主様」
俺とイリスは同時に走り出す。魔物の正体はトロールだ。十回層まで見かけなかったな。
“魔力撃”
俺は右手に魔力を込めて、トロールに打ち込む。
トロールは棍棒で攻撃してこようとしたが、棍棒ごと打ち砕き、トロールのお腹に風穴を開ける。
左手でクレアを抜刀し、もう一体を真っ二つにする。
イリスの方も、魔力撃を打ち込んで倒したか。
「あの、主様。少しいいですか?」
「うん?どうした」
「はい。以前、この迷宮に来たことがあって、その時に三十階層まで行ったんです。ですから、下へ降りる階段の場所がわかるんでが、どうしますか?自分で見つけたいと言うのであれば、言いませんが」
「いや、頼む。早く行けることに、越したことはないからな」
「そうですか、わかりました。では、こちらです」
イリスに付いていき、次々と下の階層へ降りていく・・・
そして三十階層の、ボス部屋の前に辿り着いた。
「イリスはここのボスを倒したのか?」
「いえ、扉の前まで来て、引き返したので戦っていません」
「そうか、じゃあ俺と同じで、ここのボスは初めてか」
「はい」
「よし、じゃあ行くか」
そう言って扉の中に入っていき、一瞬の浮遊感の後、ボス部屋に着く。
そこには黒い衣を纏って、鎌を持っている魔物がいた。
何だあいつ?俺は疑問に思いながらその魔物を鑑定する。
名前:リッチ
種族:アンデッド
LV.60
HP:780
MP:840
STR(筋力):650
DEF(防御力):600
AGL(素早さ):700
LUK(運):60
スキル
火魔法LV2
雷魔法LV2
闇魔法LV3
複合魔法
レベル60か、しかも魔法が結構使えるようだ。
鎌も鑑定しておくか。
名称:死の鎌
レア度:S
スキル
死霊魔法(この鎌に傷をつけられた者は即死。掠っても即死)
あの鎌やば過ぎだろ。しかも掠っても即死って、何なんだよ。
「イリス、あの鎌に注意しろ。掠ったら即死だ」
「即死・・ですか」
「ああ、それにあいつ魔法を使ってくる。気をつけろ」
「わかりました」
イリスが頷いた瞬間、リッチが火球を連発して打ってくる。
俺はクレアとレイナで、火球を斬り、リッチめがけて走る。
「クレア、レイナ。お前らがあの鎌に当たっても、死ぬのか?」
『そんなわけないじゃろ。妾たちは人間じゃないのじゃ』
『そのとおりです。思う存分やっちゃてください』
「ああ、そうさせてもらう」
リッチが詠唱を始める。今度はなんの魔法だ。
詠唱を終えた瞬間、リッチの周りから黒い霧が発生する。
闇魔法か!これじゃあリッチの姿が見えない。いや、気配察知で・・・
「そこか!」
黒い霧の中、クレアを振り下ろすと、
キィーン
と、剣と剣がぶつかり合い、火花が飛び散る。
気配察知を使えば、どこにいるかわかる!それから何度もリッチの剣と、俺の剣がぶつかり合う。
何度めかのぶつかり合いの時、リッチの剣を受け止めた瞬間、横から火球が飛んできて、俺の体に直撃する。
俺はその衝撃で吹き飛ばされ、壁に激突する。
すると部屋の黒い霧が消える。
部屋の入り口に近いところに、イリスが倒れている。
まさか、あの鎌にやられて・・・
「イリスーーー!」
俺は走って、イリスの元に駆けつける。
「大丈夫か、イリス」
「大丈夫です。雷に打たれて、少しの間動けなかっただけです」
「そうか、ならよかった」
俺はホッと胸をなでおろす。
リッチのほうを見ると、ちょうど詠唱を終えて、数十本の闇の槍が、俺達めがけて飛んでくる。
やばい、今はイリスが動けない。それに、あの数じゃクレアとレイナでも、捌ききれない。
どうする!どうすれば!・・・そうか!魔力撃の応用で、壁をイメージして、その形に魔力を注ぎ込んだら、できるかもしれない。
俺はイリスの前に立ち、壁をイメージして、その形に魔力を注ぎ込む。
すると目の前に縦2メートル、横1メートルの、細くて薄い紫色で半透明の壁が現れる。
〈魔力壁を取得しました〉
魔力壁を展開した瞬間、闇の槍が魔力壁に次々直撃してすべての槍を防ぐ。
“縮地”
俺は縮地でリッチの背後に周り、
「・・・はぁっ」
クレアとレイナでリッチの首を狙うが、地面から黒い鞭なようなものに、手足を掴まれる。
「なっ⁉闇魔法か!」
リッチは後ろを向き、死の鎌で俺を斬ろうとするが、イリスが身体強化で、リッチの横に移動し、魔力撃を顔面に打ち込むが、瞬時に鎌で威力を減らして、壁にめがけて吹き飛んでいく。
「すまん、イリス。助かった」
「いえ、主様がさっき助けてくれたので、そのお礼です」
「そうか。まだ行けるか?」
「もちろんです。竜化して一気に倒しますか?」
「そうだな・・・その竜化って、何か制限みたいなものってないのか?」
「一度竜化して、もう一度竜化するまで、十分かかります。それにその間、私のステータスは半分まで下がります」
「それはやばいな。竜化は絶対に倒せるって確信を持った時じゃないと、だめだな」
「そうですね」
「よし、じゃあ俺がリッチの死の鎌を、なんとかしてリッチの手から離す。その時に俺が合図したら、イリスは竜化してくれ」
「わかりました。ご武運を」
「おう」
俺は壁に激突したリッチめがけて走る。
“魔力解放”
クレアとレイナの魔力を、一気に最大まで解放する。
「行くぞ!クレア、レイナ。あの鎌を弾く!」
『うむ!任せるのじゃ!』
『はい!頑張ります!』
リッチが詠唱を始める。
俺は走りながら、魔力を乗せた斬撃を放つ。
リッチは詠唱を止めることなく、死の鎌で斬撃を相殺する。
「ちっ!詠唱は止まらないか」
『詠唱が終わったのじゃ』
『魔法、来ます』
リッチから黒い炎の竜巻が現れる。
「何だあれ?」
『あれは複合魔法じゃ!』
『闇魔法と火魔法が合わさった、複合魔法です』
闇と火の竜巻ってわけか。消し飛ばす!
“身体強化”
俺は体中を強化し、闇と火の竜巻の中に入る。
熱い、痛い、暗い、でも・・・
「この程度で負けるかよーーー!!!」
俺はクレアとレイナを、竜巻にぶつける。
「うおぉぉぉぉ!!!」
剣と竜巻がぶつかり合い、そして・・・竜巻がだんだん威力を落とし、消えた。
体中に切り傷を作りながら、リッチに肉弾し、リッチの鎌が俺の体に迫るのを、レイナで捌き、クレアで鎌を持っている腕を、斬り落とす。
「今だ!イリス!」
俺がイリスに叫ぶと同時に、イリスが竜化する。
グオオオオオオオオオオ!!!!!!
そんな叫び声とともに、リッチにブレスを放つ。
リッチは闇の障壁で防ぐが、時間が立つに連れて、障壁にヒビが入り、
パリーン
と言う音とともに、障壁が破壊され、リッチがブレスに呑み込まれる。
ブレスが収まると、そこにはリッチの姿が跡形もなく消えていた。
イリスが竜化を解いて、人の姿に戻ったのを見て、イリスに駆け寄る。
「終わったな」
「はい。お体は大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか」
俺は傷だらけの体を見て、つぶやく。
ゴゴゴ…
そんな音とともに、扉が開く。
「よし、じゃあ行くか」
「はい」
そうして俺達は無事、三十階層を攻略して、三十一階層に進むのであった。




