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第四話 美稀の家へ

美稀が落ち着いてきたので、移動を始める。目的地は美稀の家である。


「なあ、自宅って何処だ?」


情報が全くないので、少し後ろを歩く美稀に尋ねる。ちなみに今はまだ、公園の出口に向かって歩いているだけなので…考えもなしに先導して歩いている訳ではない事を伝えておく。別に他意はないから簡単に流してくれて構わない。


「隣の鷹峰市。家は鷹峰駅の近くだよ」


鷹峰市か…最近開発が活発なベッドタウンだ。

ここから電車で20分といったところだろう。

もう少し遠くに住んでいるのかと勝手にイメージしていたので、予想外の近さに内心でほっとする颯。

この調子なら直ぐに解散出来るな、そうなれば美稀とは二度と会う事はないのだろう。

面倒事から解放される喜びを迎えるのはあと少しだと己を鼓舞すり颯。

今更ながら、葉山財閥の会長の孫なのに苗字が違う事に気づくが、関係なくなるのだから触れるまでもないとすぐに思いなおす。


「それじゃ駅に向かうか」


颯の口から出た言葉はそれだけで素っ気なくなってしまう。


美稀は…小走りで俺の横に並ぶ。

顔色は普通になっているのだが、こちらを伺いながらチラ見している点だけは先程から一貫して変わらない。

何か言いたい事があるのだろう、女の必殺技『聞いて欲しいオーラ』を発動している。

こういう場合、親切心から尋ねると泣きをみるケースになる場合を俺は少ない人生経験から既に学んでいる。優しさは…見せない。

当然の様に黙々と歩を進めていると…


「ねえ…ちょっといい⁉︎」


痺れを切らしたのだろう、美稀の方から話しかけてくる。


「どうかしたか⁉︎」


無視するのも、気まずいのでとりあえず素っ気なくそんな風に返してみる。


「さっき…さっきね…。あなた、したいからキスしたって言ったよね⁉︎あれって…も、も、もしかして…私の事好きなの⁉︎あんなに情熱的に求められたんだからそうよね⁉︎」


うわっ…仕方なくとか、義務とかって嫌そうで泣いてたから、罪滅ぼしのつもりで、したいからって言っただけなのに。

何か変な方向に捉えているのだろう事が分かり颯は顔を顰める。


ファーストキスを大切にしてたとか言ってたし、美稀は恋愛に夢を持つタイプなのは容易に窺い知れる。


これは困ったな…後先考えずに行動したツケが回ってきたとは言え、うまいことはぐらかさないとだよな。

颯に焦りの感情が湧き上がる。


「あんたみたいに可愛い子とキスしたいって思うのは男としては普通の欲求だろ。さっきも言ったと思うが、大切にしていたファーストキスを台無しにしてしまったからさ…ショック受けてるあんたが見てられなくて。気づいたらキスしてた。好きって言うよりも罪滅ぼしに近い感情だ。一度ならず二度もして、嫌だっただろう。本当にすまなかった」


キャンキャンうるさいから口を塞いだが本音ではあるが、そのまま言うと不味いし、言いにくい内容だからそこは曖昧に濁しておく。

とりあえず話題を変えないとだな、可及的速やかに。


美稀を見ると、顔が青ざめている。はっきり言い過ぎたかもしれないが、これで問題ないだろうと颯は判断する。


「質問なんだが、ボディガードとかって居たりするのか⁉︎」


美稀が続きを何かを言おうとしたのを遮り先に質問をする。


「居ないよ。居るわけないよ。私は別に偉くないから」


美稀は力なくそう呟く。先程の颯の言葉にショックを受けているのは間違いない様だ。


「そっか…葉山氏の件が無関係かは分からないからな…暫くはボディガード付けておいたがいいかもしれない。両親と相談してみるんだな」


「そうかな…必要なさそうだと思うけど一応パパに相談するね」


パパね…葉山氏をお祖父様って言ってた事を鑑みるに、外向きだとそこはお父様なんだろう。

しかしながら俺の前で取り繕うのは完全に止めたな。まー、別にいいけど…


次の話を切り出そうとした時…ふいに颯の携帯が鳴り響く。


「悪い…電話かかってきたので出るな」


発信者を確認すると…げっ…あねさんだよ。

さっき報告したのに一体何の用だ。訝しげに電話を取る。


「もしもし…」


「あんた、電話取るまでに一瞬間があったね…私からで躊躇したでしょ…?」


いきなりな挨拶が妙に的を得ているので思わずドキっとしてしまう。


「携帯出すのに少し手間取っただけですよ。他意はありませんよ。どうしました?」


話を先に進めたいから無難に返答する。


「今何処にいる?葉山氏の孫とはまだ一緒にいる?」


「今、ショッピングモールに近い駅に向かってる。電車に乗って鷹峰駅まで向かおうと思って。まだ一緒にいる」


姐さんに聞かれた事に手短に答える。


「今から駅に向かうから電車には乗らないでちょうだい。ロータリーに車回すから到着したら待機してて。こっちももう少しで着くから。え?あーそう…こっちが先に着くのね。だったらロータリーで待ってるから」


「了解した。一旦電話切るから。それじゃ後で‼︎」


通話を切る。美稀がこっちをじっと見ている。事態が飲み込めてないだろうから手短に説明する。


「駅のロータリーに俺の上司みたいな人が待機してる。家まで車で送ってくれるらしいから合流する」


公共の交通機関使うよりそっちのが安全だ。少しだけ肩の力が抜ける。


「そうなんだ…何だか申し訳ないね」


話を聞いた美稀は、殊勝な態度だ。俺にもそういう風に応対して欲しいものだ。

それにしても、姐さんがわざわざ迎えに来る事に疑問を覚える。面倒にならなければ良いのだが…


ロータリーに到着すると、目立つ車が止まっていた。普通は後部座席に座ってふんぞり返るのに最適な車だと思う。

姐さん曰く、そういう車を自分で運転するのが浪漫らしい。



急いで車まで向かうと、窓が開いて姐さんが顔を出す。


「意外に早かったわね。乗りなさい」


窓の隙間から車内を窺う。助手席に………はぁ………。車内には会いたくないランキング1位2位が鎮座している…どんな悪夢だ。

面倒事しかない事態が今まさに確定した瞬間である。


後部座席のドアを開け、美稀が乗ったのを確認して一旦ドアを閉める。

車道側のドアから素早く乗り込み、深呼吸を一つ…確認しておくか…


「で、何で遥華はるかが居るんだ?」


「え?だって渚さんに呼ばれたからに決まってるじゃん。考えたら分かるでしょ?それより私との約束はすっぽかして、こんな可愛い子とデートしてたんだ…ふ〜ん」



助手席に座る女は意地の悪い笑みを浮かべつつ、そんな嫌味を言ってくる。こんな性格の奴だから苦手なんだよな…と心の中で嘆息する。


「仕事の依頼でたまたま居合わせたんだよ。他意はない」


美稀が複雑な表情をしている。知らない人間が2人も居たらそうなるのも仕方ないな。とりあえず紹介しておこう。


「えっと…2人を紹介するな。運転してるのがさっき俺が電話で話してた渚さん。姐さんって俺は呼んでる。助手席に乗っているのが不本意ながらも俺の幼馴染の遥華だ。こう見えて2人とも担い手だよ。遥華がさっき話に出た普段行動を供にしてる俺のパートナーだよ」


遥華の紹介をした辺りで、美稀の身体がビクっとしたかと思うと…遥華を凝視している。何か思うところがあったのだろう。

見られている遥華も苦笑いを浮かべている。


3人が宜しくと短く挨拶を交わしたタイミングで、一軒の家の前に車が停止する。

自宅に到着したのだろう。美稀を見ると安堵の表情を浮かべている。


「車内で話せなかったから、詳しい話は美稀さんのお父様を交えて話しましょう」


姐さんがそう告げる。改めて見上げると美稀の自宅は世間でいうところの豪邸である。車庫の門が開き始めている事から車はそこに止めれば良いのだろう。


車を車庫に停車して、美稀を先頭に玄関まで移動する。

さて…どんな展開が待っているのだろう。面倒な事であるのは間違いない、こういう時の予想は的中してしまうのは世の常である。俺は静かに覚悟を決めるのであった。

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