9. とりあえず青春を楽しもう!(2)
「それでも、言葉でも行動でもあまり本音をさらけ出してはいけません。ひとまずは外国から来た特別な学生なのですから。言いたいことは分かりますね?」
女子生徒たちは私の言葉にうなずき、それ以上彼の話題を口にしなかった。よく、生まれてきた子どもには罪はないと言うが、それはあくまで口先だけで語れる無関係な立場だからこその話だ。もし身近にそんな子どもがいたなら、大抵の親は近づかないようにと言うだろう。
私自身も、わざわざ気にする必要はないと両親から言われていたし、入学当初にはサラドお兄様からも、できれば関わらない方がいいと直接言われたほどだ。親と子は別だという言葉がある一方で、子は親の鏡だという言葉もある。
親の行いを身震いするほど嫌う子どももいれば、大人になって親と瓜二つの人間に育つ例も決して珍しくないのだから。
(結婚中の不倫だろうと、婚約中の不倫だろうと。印象が悪いのは同じよね)
ふとレナードのいる方をちらりと見ながら、私の知らない小説の結末の後の世界はどうなったのだろうと想像してみた。結婚中にやらかすよりは婚約破棄の方がまだましだとはいえ、一方的に婚約を破棄され、結婚前に生まれた子どもは、たとえ背後に公爵家があったとしても幸せ一色で育つことはないだろう。
表向きは媚びたり親しいふりをしたりしていても、きっと今のように穢れた存在だと忌避し、近づくのを嫌がる者も少なくないはずだ。そう考えると、レナードも恋に目がくらんで利己的な行動を取ったのだろうか。子どもを愛する親になることもできるだろうが、おそらく子どもの環境よりも自分の恋愛を優先したのだろう。
(むしろ不倫した当人たちは図々しくて、被害を受けるのは子どもってことが多いし。あっちも親と似たような人なら関わりたくないわね)
私はあくまでこの国と学園の顔となる王族だから、礼儀は守らなければならない。しかし心配とは裏腹に、隣国の問題児はダンスの授業に姿を見せなかった。普通に欠席連絡を入れたらしいが、もしかして不真面目なタイプなのだろうか。
夕食の時間には、お兄様からむしろその方がよかったという話を聞かされた。
「そもそも三年生と一年生が同じ授業を受ける機会なんてそう多くないからな。私はむしろ接触しなくて済んでよかったと思っている」
「お兄様は会ったことがあるんですよね?」
「学年差が大きいから同じ授業を受けたことはないが、留学が決まって二年生に編入してきた時に、礼儀として挨拶はしたよ。たぶん今年いっぱいで帰国するだろう」
二年間の留学。たぶん私がわざわざ早期入学していなければ、その存在を認識することすらなかったのではないだろうか。隣国の王子様との出会いなんて、お姫様である私にはロマンチックなイベントかもしれないが、周囲の反応を見る限り、関わらない方がいいという空気だ。
「それでも一年間は顔を合わせるかもしれませんよね。あの方は正確には何と呼べばいいんですか? 王族として認められてはいないんですよね?」
「そこがややこしいんだ。正確に言えば身分は平民なんだよ」
両親とも貴族なのは確かだ。だが父親は女王と結婚するため爵位を継げない家の次男だったらしく、母親も男爵家の三女。どちらも爵位を継がなかった貴族の血筋だ。
しかも立場上、父方である侯爵家の支援を受けて育っただけで、本家や母方の親族に正式に養子入りしたわけでもないため、身分そのものは「平民」だという。現女王の顔色をうかがう以上、どの家も彼を正式に受け入れることはないだろう。
きっと外国留学というのも追放に近い形なのだろうし。どんな人物かと聞けば、見聞きする限りではごく普通で大人しい学生らしい。
「学年も違うんだし、お前がわざわざ気にする必要はない」
むしろお兄様は、彼が親に似て王族である私に取り入ろうとするのではないかと心配していた。次姉のように恋愛結婚をするにしても、それほど大層な家柄でなくていいから、少なくとも欠点を突かれない相手であってほしいと。
「いつか好きな相手ができたら隠さず話してくれ。お前が選ぶ相手ならきっと立派な人だろうが、家族として、そして年長者として見守る義務もあるからな」
「心配しないでください。今は恋愛に全然興味ありませんから」
普通に学園生活を満喫するだけで十分楽しいのだ。基礎授業は少し退屈だが、いろいろな授業を大勢と一緒に受けるのは面白い。そしてその後しばらくして、入学してちょうど二か月になる日に異変が起きた。
「プリアナ?」
「そう。プリアナよ」
「なんでここにいるの? もしかして熱でも出た? 人が普段しないことをすると死期が近いって言うし」
「まだ死ぬ時じゃないし熱もないわ。私だって好きで来たわけじゃないんだから、そのニヤニヤ笑いをやめてくれない?」
今まで授業どころか食堂にすら姿を見せたことのなかったプリアナが、何事もなかったように授業に出席していた。やはり部屋にこもってゲームばかりする生活にも飽きたのだろうか。しかし表情を見る限り、そういうわけではなさそうだ。
予想外なことに、他の人たちもプリアナの存在をきちんと認識しており、むしろ以前の私のように過剰なほど注目を集めていた。しかも婚約者であるレナードまで彼女を気遣ってそばに付き添っているのだから、不思議に思わないわけがない。
気になることは我慢できないので、昼休みになるや否や、私は婚約者のレナードまで押しのけ、王女という身分を利用してプリアナに二人きりで場所を移し、一緒に昼食を取ろうと提案した。幸い彼女は私を煩わしがることなく、特別室で共に昼食を取ることに同意してくれた。
「王族だから個室が使えて助かるわね。今まではずっと部屋で食べてたの?」
「一応、家から世話係を連れてきてるから。食事くらいは部屋の前に置かせてるわ」
「とにかく他のことはいいから。今日はなんで出てきたの? これからは授業も一緒に受けるの?」
「まさか。魔法の効果が切れただけよ」
プリアナは特に隠すつもりもないらしく、自分が持つ魔法少女としての能力を一部明かしてくれた。昼食に出された鴨胸肉のステーキを切り分けて口に運んだ彼女は、味が好みではないのか少し顔をしかめ、そのまま肉を飲み込んだ。
「分かりやすくゲームで例えるなら、キャラクターにはHPとMPがあるでしょ?」
「そうね。魔法はMPを消費する」
「私の魔法は万能じゃないの。怪獣を倒すために使っていたものを、別世界に来て人間相手に使ってるだけ。だから怪獣相手の時よりMP効率はいいのよ」
実際、私がこの目で確認しただけでも感情操作、時間停止、そして存在感を消す認識阻害。改めて考えると、怪獣と戦う時にもかなり便利そうだ。もしかして破壊光線みたいなものまで撃てたりするのだろうか?




