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10. とりあえず青春を楽しもう!(3)

「ああ、そうなんだ。永遠に続くわけじゃなくて、使える時間が決まっているんだね」

「そんな感じ。2か月くらいが限界だから、結局こうして出てこなきゃいけない時もあるんだ」

「またかけ直せばいいじゃない?」

「それもすぐにはできないんだ」

「クールタイムってこと?」


特に広範囲に存在を消すのはかなり力を使うらしい。レナードにかけた催眠は問題ないように見えても、家でも学校でもあれだけ多くの人に魔法をかけるのは、魔力消費が激しいということなのだろう。


「三日もあれば十分だから、それくらいは我慢しないとね。一学期に二、三回出てくるだけで済むし、不満はないよ」

「魔法少女にしてはずいぶん夢も希望もないね。せっかくレナードに好きになれって命令したんだから、デートくらいしたらいいのに?」

「今はもう催眠も解けてるだろうし、わざわざ家に戻って原作ヒロインと鉢合わせしない限り、改めてかけ直す必要もないよ」


言われてみればそうだ。ルミナと顔を合わせさえしなければ、学校での出来事や婚約者への接し方そのものに大きな変化はない。せいぜい長期休暇で家に帰る時だけ、また魔法をかければいいのだ。


「ところで、君は一歳年下なのにわざわざ早く入学したの?」

「だってすごく暇だったんだもん。まだ社交界デビューもしてなかったし、せっかくだから同年代の子たちと遊びたかったんだよ」

「人と付き合ったって疲れるだけじゃない?」

「私は人と一緒にいる方が元気が出るし好き。だからせっかくこうなったんだし、仲良くしようよ」

「わざわざ?」

「二人対戦ゲームくらい一緒にできるでしょ!」


面倒くさがっていたわりには、雰囲気はなかなか悪くなかった。少なくとも存在感を隠せない時は、大勢に振り回されるより私一人だけがくっついている方がずっと楽だからだろう。フリアナは、美味しいお菓子を持ってくるなら二人対戦ゲームくらいなら付き合ってもいいと、以前より警戒を解いてくれた。


私としては、せっかく新鮮な世界に溶け込まず過去の文明に浸っているのがもったいないと思ったが、価値観を押し付けるつもりはなかった。フリアナはただそういう性質に生まれついてしまっただけで、貴族としての礼儀や社交界生活などにはうんざりするほど拒否反応を示していた。


この世界そのものを受け入れる気がないようにも見えるけれど、ただ仲良くなれればそれでいいのではないだろうか。私にとっても彼女は特別な存在なのだから。


『やっぱり美味しいものが一番かな?』


フリアナも一応は伯爵令嬢。存在感を隠していても、よほど美味しいものはほとんど食べたことがあるはずだ。できれば王宮の料理長が作った特製デザートを贈りたかったけれど、今は週末ではないので帰れない。そこで放課後、自分で街へ出てデザートを買うことにした。


「普通に私に言ってくだされば、種類ごとに山ほど買ってきますのに」

「せっかくだし、私も街やお店を直接見て回りたかったの。わざわざ王宮の外に出てきたんだからもったいないでしょ」

「必ず私のそばを離れないでくださいね」


大事に育てられたお姫様は、人付き合いも外出も慎重でなければならない。自分で外に出なくても、使用人に頼めば欲しいものはいくらでも持ってきてもらえる。でも温室の中のような生活も長く続けば息苦しくなるものだ。


単独行動は無理だから侍女と一緒ではあるけれど、それでもかなり楽しい。できることなら同年代の友達とおしゃべりしながら遊び歩きたいが、まだそこまで信頼できる子はいない。ただ遊ぶだけでも派閥だ何だとうるさいらしい。


「かわいいお菓子がいっぱいある。どれも美味しそう。こっちの列にあるの、種類ごとに一つずつ全部買いたいな」

「こんなに全部召し上がれますか?」

「お菓子だから日持ちするし、飽きたら周りに配ればいいでしょ。あ、それにあっちのケーキも美味しそう」


幸い、毒見が厳しいような世界ではない。久しぶりの買い物は一人でも楽しく、荷物持ちになった人には少し申し訳なかったけれど、普段シェフが用意してくれるものとは違うデザートが新鮮でたまらなかった。


店が多いだけあって種類も豊富で飽きる暇がない。せっかく来たのだから侍女の分はもちろん、後でお兄様にあげる分も買おうと、お菓子を山ほど買い込んでしまった。


「姫様。いくらなんでも多すぎます!」

「うえっ! もうこんなに積み上がってたの? すぐ持って帰って食べるつもりだったのに。馬車に全部入るかな?」

「いくつかだけ持ち帰って、残りは配達をお願いしましょう」

「わかった。じゃあこれだけ持って先に馬車に行ってるね」

「馬車の中で食べちゃだめですよ!」


上機嫌で鼻歌まで歌いながら子供のように店の外へ出たその瞬間、私と同じように勢いよく店へ飛び込んできた小さなお客さんと見事にぶつかってしまった。


「きゃっ!」


お姫様らしくない品のない声が飛び出し、手に持っていたお菓子の箱がガラガラと地面に落ちた。私とぶつかった子供は少しよろめいただけで、入口の壁につかまって転ばなかった。一方私は後ろに尻もちをつきそうになったが、予想外に頼もしい手が腕をつかんで支えてくれた。


「大丈夫かい?」

「あ……ありがとうございます。大丈夫です」


慌てて我に返った私は、まず助けてくれた人にお礼を言おうとして、ほんの少しだけ胸が高鳴った。可愛らしいお菓子屋には似合わないたくましい青年だったからだ。しかも服装だけでなく整った顔立ち、何より王子様のように助けてくれたその手つきがどこかロマンチックで、ほんの少しだけ不思議なときめきを覚えた。


続いて私とぶつかった子供も慌てて謝りながら、床に落ちたお菓子の箱を拾ってくれた。店員のところへ行っていた侍女がそばにいたら大騒ぎしていただろうか。面倒なことになりそうなので、わざわざ身分を明かすつもりはない。


「これからは気をつけてね」

「はい。申し訳ありません」


どうやらその子は客ではなく店主の娘だったらしい。慌てて逃げるように店の奥へ入っていく姿を見て、大きなお客のために一歩下がったのだが、なぜかその男性客は中へ入る代わりに店内を見て立ち止まり、私の方を見た。


「入らないんですか?」

「人気の店だという噂は聞いていたんだけどね。こういう女性客ばかりの場所は、ちょっと入りづらくて」

「ああ」


食べ物を売る店なのに、そういうことを気にするのは異世界でも変わらないのだろうか。この人は食べ物のイメージよりも、女性ばかりの空間が苦手らしい。


「あの、よかったらこれでも。助けてくれたお礼です。落としたものですけど、お菓子だから大丈夫だと思います」

「ただ支えただけだよ。それに全部僕に渡したら君は?」

「私は配達してもらう分もあるので大丈夫です」

「じゃあこれだけいただこうかな。ありがとう」


私は腕いっぱいに抱えた高い塔のようなお菓子を全部渡すつもりだったが、その男性は一番上にあった箱を二つだけ受け取り、そのまま立ち去った。考えてみれば、お見合い相手の男の子たちとは違って、この世界に来て初めて格好いいと思った男性かもしれない。


『やっぱり私は年上が好きなんだな』


よくある運命的な演出だと思ったものの、すれ違うだけの人だろうと思っていた数時間後。もしかすると本当に運命だったのか、他でもない学校で再び彼と会った。


翌朝、寮を出て間もなく、昨日見たあの男性が制服を着ているのを見つけ、私は思わず彼に近づいて声をかけた。


「おはようございます。また会いましたね」

「君は昨日の……?」


なんとなく服装が上品だと思っていたけれど。学校の近くの店だったのだから不思議ではない。ただ意外だったのは、サラドお兄様と同年代の五、六年生だと思っていたのに、ネクタイの色が三年生だったことだ。


私服の時は高校生か大学生に見えたのに。三年生ということは十五歳という意味だ。私のように早く入学したり遅く入学したりしたのでなければ間違いない。


「この学校の生徒だったんだね。一年生にしては小さいから、生徒だとは思わなかったよ」


一年早く入学したとはいえ、他の一年生よりそこまで小さいとは思わないのだけれど。せっかくだからもう少し話したかったが、相手は名前を聞くこともなく、居心地が悪そうに授業を言い訳にして足早に去ってしまった。


その態度があまりにも露骨で、少しショックを受けた。この世界に生まれ変わってから、私を避けた人なんてフリアナという特殊な例を除けば初めてだったからだ。


「わざと避けられた気がするんだけど?」


しかも雰囲気がフリアナとは違う。彼女は純粋に面倒くさそうだっただけで、私が嫌いとか不快だというわけではないと思う。でもあの男性は面倒というより、一緒にいること自体に耐えられないような雰囲気だった。魂の経験値があるから、そのくらいは何となくわかる。


「私……何か気に障ることでもしたのかな?」


もしかして昨日お礼に渡したお菓子がぐちゃぐちゃに壊れていたとか、ものすごく口に合わなかったとか、あるいは落としたものを不潔だと思ったのだろうか。大したことではないけれど、初めて向けられた態度だっただけに衝撃は大きく、昼休みになるまで半ば放心したまま過ごしてしまった。

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