11. とりあえず青春を楽しもう!(4)
「それって、そこまでショックを受けるようなこと? 前世を経験しているんだから、世界の中心が自分じゃないくらいは分かっているでしょう」
「今回はずっと主人公扱いされながら育ったからね。文字通りお姫様だったし」
家族、世話をしてくれる使用人、お見合い相手、学校の同級生、先生、お店の店員に至るまで、親切なだけでなく私に気に入られようと必死だったではないか。軽く流してもいいことをこんなに深く考えてしまうのは、たぶんあの男性がかなり私の好みの顔立ちだったからだろう。
「今までのお見合い相手ってみんな子どもばかりだったからかな。やっぱり大人の魅力を感じる男性がいいんだよね。美少年だろうが金持ちだろうが身分が高かろうが、子どもは違う」
「むしろ君のその過剰な関心に気付いて逃げたんじゃない?」
「こんな可愛くて綺麗な子に興味を持たれるのが嫌だって?」
「三年生で見た目も大人みたいに成長が早ければ、向こうだって年下の子どもを女性として見ないでしょう」
今日も昼食はプリアナと一緒だが、正論を突きつけてくる冷たい言い方が少し気に入らない。正しいことではあるけれど、私が聞きたい話じゃない。せっかく美味しいお菓子まで持ってきたんだから、もう少し耳触りのいいことを言ってくれてもいいじゃないか。
「できればもう少し優しく言ってよ」
「一目惚れでもしたの?」
「そこまでじゃないけど、できればあの人も他の人みたいに私に優しくしてくれたらいいなって気分ではある」
「心配しなくても、そのうちそうなるよ」
最後に残ったクッキーを口に入れて飲み込んだプリアナは、また明日から授業に出なくなると予告した。それは再び透明人間に戻るという意味だ。そんな生活を繰り返していたら退屈にならないのだろうか。
「迷惑はかけないから、二人用ゲームをしたくなった時に遊びに行ってもいい? 美味しいもの持っていくから」
「頻繁すぎなければいいよ」
もちろんゲームは面白いけれど、新しい世界を知ることや恋を育むことには少しも興味がないのだろうか。レナードが好きというわけではないし、前世でも男性に興味はあったようだから、恋愛ができないわけでもないはずなのに。
だからあまり怪しまれない程度に軽く聞いてみた。これくらいなら聞いても大丈夫だろう。
「私はやっぱり頼れる年上が好みなんだけど。あなたはどんな男性が好き?」
「顔がいい男」
「うーん……それってたぶん万人共通の好みじゃない?」
「価値観がよく合って、面倒じゃない人。これは男でも女でも同じだけど」
プリアナは前世では高校生の時に死んだらしい。ふと思い浮かんだのは、教室で静かに本を読んでいる女子生徒の姿だった。確かに私は賑やかに友達と大勢でつるむタイプだったから、そういう子とはあまり気が合わなかった。
「魔法も使えるんだから。気に入らない政略結婚相手を誘惑するより、好みの男性をそばに置くのもいいんじゃない?」
「まだそこまで気に入る男性を見たことがないんだよ。それに君だって、注目されたいだけで誰かを愛している段階じゃないでしょう?」
死んだ時期が近いなら、今の年齢とは違って魂の年齢は私の方が上のはずなのに。話していると、むしろプリアナの方が私より何年も長く生きた年長者のように感じることがある。彼女は皿をすべて空にすると未練なく席を立ち、先に食堂を後にした。
私も今日は人と付き合うのが少し疲れそうだったので、早めに捕まらないうちに散歩がてら校内を少し歩くことにした。いつも後ろをぞろぞろついてくる子たちがいるからだろうか、一人になっただけなのに雰囲気がずいぶん新鮮だ。
「でもなんだか。いつもと違う感じがするんだけど。気のせいかな?」
周りに人がいないからだろうか。特別な学校だからこそ、王族である私が一人で歩き回れる機会なんてここくらいだろう。けれど、いつもと違うのは一人だからでもなく、たまたま周囲に人が少ないからでもない、何か別の感覚だった。
とはいえ大したことでもないので適当に無視して流すことにした。今日は午後の一般教養の授業で美術が一科目残っているだけで、特にすることもない。あちこち覗きながら人の来なさそうな場所を探検するのはなかなか楽しく、時間を忘れて冒険を満喫した。
雛鳥が何羽もいる巣を見つけたり、どこから入ってきたのか黒猫と白猫が並んで散歩しているのを見たり、誰かが育てたのか自然に咲いたのか分からない綺麗な花の群れも見つけた。だが、美しくて可愛い景色だけでなく、不快なものまで目にしてしまった。
『あれは?』
校内の裏手にはかなり大きな人工池がある。水深もかなり深く、魚や亀なども生息していて、入ってはいけないと聞いていた。だがなぜか男子生徒が一人、ズボンをまくって池に入り、何かを探すように腰をかがめて池の中を探っていた。
『あの人だ』
菓子店の前で出会った大柄な三年生だ。ただ、立ち入り禁止の池で深刻な表情をしながら物を探している姿を見ると、学園ものによくある嫌なタイプのいじめを連想してしまうのは仕方がない。
しかも周囲には他に誰もいない。こういうのを見過ごせる性格ではないので、私は迷わず駆け寄って彼に声をかけた。
「何を探しているんですか?」




