7. 突然人気絶頂期? (3)
1年という時間をさらに待つには、私の忍耐力が底をついていて無理だった。型にはまった日常から抜け出してこそ、新しい展開や人との出会いがあり、これまでとは違う新鮮さを期待できるのではないだろうか。家族は心配しつつも、一方では誇らしく思っていて、飛び級を無理に止めることはなかった。
「兄上たちは入学してから学年を飛ばす形で飛び級したけど、入学からわざわざ早める必要はないんじゃないか?」
「父上様と母上様が選んでくれる友達と少しずつ会うだけじゃ退屈なんですもの。学校ならもっとたくさんの子たちと、もっと気軽に仲良くなれますし」
「友達というより、取り巻きと言う人のほうがずっと多そうだけどな」
私の上の兄姉たちは、三番目の兄を除けばすでに全員学校を卒業して結婚までしている。今年で6年生になるサラド兄様は、とりわけ幼い私を心配していて、飛び級の必要性を否定していたが、その程度は簡単に乗り越えられる問題だった。
「それに、1年早く入学すれば兄様とも学校で1年長く一緒にいられるじゃないですか。卒業学年の7年生になったら忙しくなるでしょうし、少しでも長く会いたいんです」
「て、天使だ! 俺の妹は間違いなく天使だ!」
在学中のサラド兄様は、寄宿舎生活をしなければならない方針のせいで、近くにある王宮に滞在できる期間が短かった。休暇や週末にはいくらでも帰ってこられるが、それでも大切な妹に思ったより会えないことを残念がっていたのだ。
「一生懸命勉強して、早く卒業できるように頑張ります!」
「そうか。もしかしたら二番目の兄上の4年記録を超えるかもしれないな」
親子ほど年齢差があり、普段は顔を見ることすら難しい第一王子と第二王子の兄様たちは、それぞれ2年と3年飛び級したほど優秀な人だったらしい。私の前では、ただ末っ子の妹を過剰に可愛がる親バカならぬ妹バカなおじさんたちだけれど。
とはいえ、勉強に意欲はなくても天才と呼ばれながら早期卒業するのは少し格好よく見えるかもしれない。理想的な世界で良い身分に生まれただけでも悪くないが、せっかくなら愛されるお姫様であることに加えて、頭の良い秀才とも呼ばれたい気持ちがないわけではない。
天才ではなく秀才なのは、実際の年齢とは違って精神や知識が20代だからで、それ以上の成果は出せないと分かっているからだ。たぶん飛び級しても低学年のうちは簡単だろうが、高学年になると少し大変なのではないだろうか。
「とにかく入学すると決めたなら、急いで準備しなきゃいけないことが多いな。必要なものは周りが勝手に用意してくれるだろうけど、少なくとも連れて行く人間くらいはお前が自分で選んだほうがいい」
前世のように身ひとつで動いて勉強だけする学校ではない。上流階級が通う場所なので、身の回りの世話をする者を同行させたり、伯爵家以上なら同じ学生として従者を一緒に入学させることもある。一応は貴族や王族専用の学校だが、従者の資格で入ってくる平民もいないわけではない。
普通はその従者も男爵家や子爵家の出身、あるいは貴族の血を引く者がほとんどだが、稀に能力を認められてスカウトされた優秀な平民や、多額の支援金を出して子どもをねじ込む裕福な者もいる。
出自の問題で嫌味を言う学生がいないはずはないが、それでもこうした学校を卒業したという事実だけで、卒業後に大きな利益を得られるという。もちろん私の従者は同年代の学生ではなく成人女性だが。
「私は、せっかくなら同じ1年生か、少し年上の2〜3年生くらいの同性の従者を一人選ぶのがいいと思うんだけどな」
同じ1年生でも私は1歳年下だから、そばで目を離さず世話をしてくれる人がいてほしいというのは理解できる。実際、サラド兄様も入学時から同い年の侯爵家三男が従者として付いていたらしい。
「でも同年代の女の子の中には、ちゃんと知っている子がいませんから。その点は後で私が直接見て判断することにします」
どうやらすでにプリアナを訪ねていたことなどすっかり忘れているのか、周囲の人たちは条件ぴったりの女子生徒についてまったく思い浮かべなかった。とりあえず入学そのものは拒否できなかったのか、入学者名簿にはプリアナの名前が載っていた。当然ながらレナードの名前も見えた。
(小説の展開は、どうせ本格的に始まるのは卒業後の時点からなんだから、それまでは気にしないでおこう)
もしかしたら、その頃になって初めてプリアナの心境にも変化が訪れ、元に戻してくれる可能性もあるのではないだろうか。寄宿学校だから、卒業までは認識阻害魔法をかけていても顔を合わせる機会そのものは頻繁に作れるはずだ。できるだけ仲良くなれるよう努力してみよう。
原作の展開も見てみたいが、せっかくなら魔法をもっとちゃんと見てみたい。そしてゲームもしたい。
「どういう原理なのか分からないけど……ポケット○とかもできるのかな?」
新しい生活への期待から、いつもより予習も念入りにし、久しぶりに友達ができるかもしれないという期待を抱きながら時間は流れた。そして私は何の問題もなく1年生として入学し、入学式からものすごい注目を浴びることになった。
(王族だから注目されるのは当然予想していたけど)
在学中の兄様について歩くだけで注がれる視線、容姿や成績への称賛、何もしなくても近づいてくる人々の心地よいおべっかに、少しだけ心がとろけそうになった。持ち上げられるのって、少し気恥ずかしくはあるけれど、やっぱり気分がいい。
婚約者候補だった男性たちもそうだったが、学校に入ると男女を問わず仲良くしようと近づいてきて、やはり身分と容姿の力はすごいのだと実感した。前世ではごく普通だったのに。学生の人気芸能人ってこんな気分なのだろうか。
「なんだか、俺が入学した時より何倍も人気がある気がするな。まあ、エシリーは可愛いから」
女神様が主人公補正のような力を与えたのでなければ、純粋に背景と容姿の力なのだろう。家族ですら疑いもなく受け入れるほどなら、むしろこれも魔法レベルのすごい力なのではないだろうか。サラド兄様は、自分はもちろん上の姉たちも在学中ここまでではなかったと言いながら、私の可愛さと愛らしさを誇らしげに語っていた。




