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3. どこからどう見ても完全に堕落してるじゃないか (1)

どうもこちらの世界に落ちてきた経緯が、私とは少し違う感じだ。フリアナは私の横を通り過ぎて扉を閉めると、大きくため息をついて口を開いた。


「どうやら同じ世界の出身みたいだし、正直に打ち明けたほうが話は早いでしょうね」


そして目の前に現れたのは、一瞬で変身した魔法少女だった。変身シーンは1秒で終わったが、上から見ても下から見ても、右から見ても左から見ても、間違いなく魔法少女だ。ひらひらしたフリルだらけの可愛らしいドレスと華やかなステッキは、普通の魔法使いではなく「魔法少女」と呼ぶのが絶対にふさわしい。


「一時停止」


レナードに魔法を使ったときのように、フリアナはステッキを上へ掲げると、まるでゲーム画面を止めるように呟いた。すると部屋の景色が少し色褪せ、窓の外に見えていた鳥の動きが止まった。


「時間まで止められるの!?」

「あなたの存在感まで消すのは難しいし、妹や他の使用人があなたのせいでここに入ってきたら困るからね。こうしておけば、時間がどれだけかかっても気楽に話せるでしょう」


隣の部屋に幼い双子の弟妹を置いてきたのだから、私を追いかけてくる可能性もあったことを一瞬忘れていた。ゲーム画面は消えたものの、普段よく見るドレスとはかなり違う衣装のせいで、まるで少しの間だけ元の世界へ抜け出したような気分になる。


「じゃ、じゃあ。どうしてあなただけそんな力を持っているのか教えてくれる? ここへ来るときに魔法でもくださいって頼んだの?」

「いいえ。これはもともと私が持っていた力よ。最初から説明すると結構長い話になるけど」


おとなしく席に座り、聞く準備を見せると、フリアナは思い出したくなさそうな顔になったものの、黙って説明を始めてくれた。まず私たちは同じ世界、しかも似たような時代に生きていた人間で間違いない。驚くべきことに、極めて平凡だと思っていた元の世界には、実は魔法少女と怪獣が実在していたという。


「私は小学生の頃から魔法少女に選ばれて、高校生になるまで活動してたの。厳密に言えば、高校生で辞めたんじゃなくて死んだんだけど」


しかも年下だったのか。一般人にはその存在自体認識できないが、実は女神から特別な力を授かった一部の人々が魔法を使って怪獣と戦う世界だったなんて。想像の遥か外にある真実すぎて実感が湧かない。


「もともと好きで始めたわけじゃないし、このひらひらしたプリ○ュアみたいな衣装だって私の意思じゃないのよ」


心底嫌そうな顔をしているのを見ると、これは間違いなく女神様の趣味らしい。私をこちらへ送ってくれたあの女神様と同一人物なのだろうか?


「しかも何年も頑張って働いたのに。人々は私の苦労なんて知らないし、報酬らしい報酬もないし、戦いは終わらないし」

「ああ、それはご苦労さまでした」

「だからうんざりして、高校生になった途端に裏切ったの。ちょうど敵陣営のボスがものすごいイケメンだったから、そっちに寝返ったのよ」

「堕落した魔法少女だったのか!?」


悪びれる様子などまったくなく、自分は何も悪くないと言わんばかりの顔で答えるあたり、罪悪感は皆無なのだろう。むしろフリアナは、一方的な奴隷契約と変わらなかったのだからと、自分の行動を正当化した。


「そもそも子供に世界を救わせる時点でおかしいじゃない。高校生くらいになったら辞めさせてくれると思ってたのに。そろそろ本格的に勉強しなきゃいけない時期になっても、ずっと戦ってくれなんて図々しいと思わない?」


うーん……。言われてみれば、まったく間違っているとも言えない。


「向こうでは怪獣と戦うとき以外に魔法少女の力を使っちゃいけないって決まりだったけど、最初に契約したとき、対価として要求したのは、全部終わったあともずっとその力を私のものにすることだったの」


だからこちらでは自由に魔法が使えるということか? だが舌打ち混じりに乾いた笑いを漏らす少女の反応を見ると、それもそれほどハッピーエンドな展開ではなかったらしい。


「ああ、本当に。あのクソ女神、人をこき使うだけじゃ飽き足らず、いろいろと趣味に合わない世界に私を飛ばしたのよ。私、こういうもどかしいロマンスジャンル大嫌いなんだから」

「どうやって死んだの?」

「新人魔法少女の集団が押しかけてきて、必殺技を一斉に叩き込まれたの」


うわあ、すごく痛そうだ。とはいえ堕落して裏切り者になったわけだから、そこまで理不尽というほどでもない。とにかくフリアナは、最初の契約のときにこの力だけでも確保しておかなかったら本当に悔しかっただろうと語った。好みでもない世界観に生まれたのは気に入らないかもしれないが、それでも伯爵令嬢ならかなり恵まれているほうじゃないだろうか?


「そう。まあ、大体は理解したよ。でも、なんでこの前のお見合いの時にレナードに魔法をかけたの?」


「そこにいたの?」


「小説の展開を実際に見てみたかったのに。最初から狂っちゃったじゃないか!」


「それは私の勝手でしょ。未来がはっきり分かってるのに、なんでわざわざ嫌なことが起こるまま放っておかなきゃいけないの?」


フリアナの手が光ったかと思うと、突然大きな本が一冊現れた。私の記憶している表紙とは違うが、間違いなく 『恋を知らない公爵様、あなたの運命はこの私です!』 だろう。


「私は別に公爵家っていう権力にも、この男に愛されたいとも思ってない」


「じゃあ、なんで?」


「気分が悪いから。」


パラパラと本をめくったフリアナは眉をひそめ、反論しにくい正論を突きつけた。


「二人が勝手に恋愛しようがどうでもいいけど、そこに私を巻き込むのは不快なの」


「いくらなんでも――」


「今婚約して、結婚式の直前までずっと隠れて会い続けるんでしょ? しかも結婚式の一か月前に一方的に婚約破棄。破棄される側からしたら立派なクズじゃない」


主人公視点で見ればロマンチックだが、他人の立場から見れば反論の言い訳が思い浮かばないのも事実だ。しかも当事者本人が言うのだからなおさらだ。


「好きじゃないなら、ただ気にしないで――」


「あなたの婚約者や恋人が同じことをしても、そんなこと言える?」


「……それは、言えないだろうね」


フリアナの指摘はそこで終わらず、さらに続いた。


「それに、この二人が無理に結ばれる必要もないでしょ? 無理やり最後まで読んでみたけどさ。結婚と出産がハッピーエンドだと思うのは傲慢だと思う。私はこのヒロインや子どもの未来が幸せになるようには見えないんだよね」


レナードとルミナの恋愛から結婚に至るまでには本当に多くの苦難がある。王族に次ぐ公爵家の後継者と、何も持たない平民の女性なのだから。一方的な婚約破棄だけでも莫大な賠償金を支払い、その後も陰口を数多く叩かれる。特に平民であるルミナが。


「小説でも現実でも、人は平等を口では叫んでも実際はそうじゃないんだよ。特に上に立つ人間ほど、下にいる人間が自分と同じ場所まで這い上がろうとするのをひどく嫌うものだから。」


ルミナは婚約者のいる男を身体で誘惑した恥知らずな女だと侮辱される。レナードは権力を使ってそうした侮辱をした人々をことごとく押さえつけるが。


「私が見ただけでも、後で私たちのお母様に頬を叩かれたり、上流階級の女性たちの集まりに無理やり参加させられてドレスを汚されたり、モブの子爵令息にセクハラされたりしてたじゃない。私ならこんな扱い耐えられない」


その通りだ。おそらくルミナも、レナードが報復してくれず放置されていたなら、耐えきれずに恋を諦めていただろう。


「それにヒロインも気に入らない。口では申し訳ないとか罪悪感を抱いていたとか書かれていても、結局は他人の婚約者を奪ったのは事実なんだから。」


フリアナは、他人事なら興味がなくても、自分が当事者になるならひどく不快で耐えられないのだと吐露した。


「じゃあ、無理やりレナードに君を好きにさせて結婚するつもり?」


「それは後でゆっくり考えるつもり。でも、こうしておいて損はないでしょ? 公爵家と伯爵家の関係は平和なままだし、ヒロインだって隣に引っ越してくる素敵な新しい男性とロマンチックな恋愛ができるはずだし」


公爵が農家出身の女性と結婚するとなれば、貴族社会はしばらく大騒ぎになる。当然メルフォン伯爵家との関係は最悪にまで悪化するし、そんなことが起こらないなら確かに平和で良い。


そして数年後、ルミナの隣家にはレナードに劣らないほど魅力的なサブ男性主人公が引っ越してくる。平民出身ではあるが、聡明で美形で優しく、身分以外のすべてを持ち合わせたキャラクターだ。そのため彼も人気が高く、一部のファンはサブ男性主人公と結ばれる展開でも良かったのではないかと言ったりもする。

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