表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/15

14. これはもしかしてフラグ? (3)

生まれ変わる前に見たものだから、もう10年以上も前にたった一度しか見ていなかったが、女神は私の記憶の中のまま、慈愛に満ちて美しく、気高い光を放っていた。美人だとは覚えていたけれど、改めて見るとスタイルもなかなか凶悪だった。文字通り女神様だ。


「お久しぶりですね。徳を積んだ者よ。新しい世界での人生は平穏ではありませんでしたか?」

「いえ。平穏……と言えば平穏な方ではあるんですけど」

「あなたの大きな不満を感じてやって来ました」

「うーん、だから。その、器の小さい不満かもしれないんですけど。私が望んでいたのとは展開がちょっと違ったというか、ずれたというか。本当は本の中の物語を近くでのんびり眺めていたかったんですよ」


いきなり不満解決のアフターサービスセンターみたいに現れられると、私の悩みがあまりにも取るに足らなくて、甘やかされて育った世間知らずの迷惑クレーマーみたいに感じてしまうけれど。新しい世界での人生は望んだものと違っただけで、相変わらず愛されるイージーモード。お姫様としての人生を楽しみながら生きていけば十分ではあるが、これだけは指摘しておきたい。


「正直、世界には死ぬ人も多いし、望みが似ている人も多いから、私以外の誰かも転生してきたっていうのはまあいいんです。でも、いくらなんでも魔法少女なんて力があるのに、私はただの一般人ってひどくないですか!?」

「ああ、そのことですか? 成り行きでそうなってしまって」

「しかもその魔法でさりげなく私の望みをねじ曲げるから不満なんですよ。何もしなければ私の望みはそのまま叶っていたのに」


これまで不満をぶちまける相手がいなかったので、これを機会とばかりに女神様へ、男性主人公への催眠や、望んでもいない私の人気フラグについてまくし立て、何とかしてくれとすがりついた。


「プリアナだって普通に過ごしていればいいのに、どうしてあんなことをするのか理解できないんですよ。今からでもその力を回収できないんですか?」

「そうしたくても、もうそのように契約してしまっていますから。私も本当に困っているんです。せっかくなら元の世界とは関係のない場所で新しい人生を楽しめばいいものを」


女神様の手に現れたのは、いつかプリアナが召喚して読んでいたこの世界観の小説。気のせいだろうか。微笑んでいる女神の眉間がぴくりと動いたような気がした。


「何か裏で怪しいことを企んで――」


そこまで言いかけたところで、私たちの会話は中断された。平凡な恋愛小説には似つかわしくない破壊力満点の爆発が私の部屋の窓を吹き飛ばし、不和の予兆を告げた。


「きゃああああっ!!!」


驚いて悲鳴を上げた私は爆発とともに壁へと吹き飛ばされたが、女神様は微動だにせず、のんびりした表情で侵入者と対峙している。上流階級しか通わない学校であり、王族が暮らす寮が、そう簡単に外部の侵入者を許すはずがない。


どこかで本気の爆破テロでも起こさない限りは。だがこれは私を狙ったものではなかった。煙の中から飛び出してきた人物は、そのまま女神へと突進したのだから。


「よくも現れたな! ぶち殺してやる、このクソ女神!」

「あら、不正に堕落しただけあって言葉まで汚いのですね」


魔法少女の姿に変身したプリアナが、暗殺者のような険しい表情とオーラをまとい、女神へ攻撃を浴びせ始めた。ちょっと、待って! 戦うなら外でやって! ここ私の部屋なんだけど!?


「ごほっ! うう……ほこりが。プリアナ!」


落ち着いて話し合えという説得は通じそうにない。理性を失ったプリアナは狂乱し、女神へ攻撃を加えている。しかし全能の女神様は軽く攻撃をかわしたり受け流したりするだけで、動揺した様子すらない。


「人の部屋で戦わないで外に出て!」


魔法のない平和な恋愛ジャンルが一瞬でアクションファンタジーに変わってしまったのだが。しかも今や空中戦に移行していて、どう見てもバトルものだ。しかしプリアナの強力な攻撃はあっけなく防がれるばかりで、女神様はやがて停止ボタンを押したかのようにプリアナの動きを止めてしまった。


「何年か平和な世界で暮らせば気性も落ち着くかと思ったのに。ん? ああ、何を企んでいるのかと思ったら。あなたもなかなか恋に真剣な少女だったんですね」

「うるさい! 利用するだけ利用して、そんなふうに処理したくせに」


ほこりが収まり、慎重に様子をうかがうと、単なる不満どころではなさそうだ。あれはどう見ても本物の殺意を抱いた表情。ただ嫌っているのではなく、本当に殺してしまいたいほど女神を憎んでいるに違いない。


『いったい昔に何があったんだろう?』


だいたいの話は聞いていたけれど、あれほど怒るということは省略された部分がかなりあったのではないだろうか。女神は手に持った本を見ながら何かを理解したようにうなずくと、プリアナの杖の先を指して言った。


「ここはあの方の願いのために作り出した世界です。あなたの私利私欲で世界を壊させるわけにはいきません」

「はは、冗談? 自分の仕事も適当にやって、まともな世界まで壊す情けないろくでなし女神が?」

「ねえ、戦うならもう少し遠くでやってくれません? 苦情受付なんて別にしなくていいですから」


これ以上、自分の部屋がめちゃくちゃになるのは見ていられない。ただ、これだけ大騒ぎになっているのに人が集まってこないのは不思議だと思ったが、すぐにまあそういうものかと流した。女神様と魔法少女がいるのだから、時間停止でも何でも使えて不思議ではないだろう。


必死の訴えが届いたのか、女神はプリアナの相手をしながら私を振り返り、突然答えを見つけたかのように本をぱたんと閉じて明るく微笑んだ。


「そういえば、あなたにはあの人の力があまり効きませんね! ちょうどよかった。この世界を守るために、あなたがあの人を止めればいいんですよ」

「え?」

「こうなるなら最初から特別な能力を与えておけばよかったですね。さて、何か使えそうなものはないかな?」

「ちょっと待ってください! 待って、待って! これどういう流れ!? まさか私も突然魔法少女覚醒とかなら要りませんよ! お断りです! 能力はうらやましくても、バトルものみたいな苦労はごめんです!」


そもそも魔法には憧れても、魔法少女への覚醒は荷が重いし、コスプレが趣味でもないのに変身はかなり抵抗がある。しかし私の訴えなど道端で鳴く虫の声ほどにも気にしていないと言わんばかりに、きれいさっぱり無視された。


「心配しなくていいですよ。魔法少女みたいな巨大な力はもう与えられるものがありませんし、それに勝手にそんなことをしたら怒られてしまいますから」


そう言いながら女神は、私に向かって正体不明の丸い光をひょいと投げた。そして現れたときと同じように、まばゆい光とともに一瞬で消え去った。残されたのは、瞬く間に元通りになった私の部屋と、変身が解けたプリアナ。


そして、こだまのように私の耳元で響く女神のささやきだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ