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お前たちは賞金首だ

 「ちょっと待って! 私が賞金首? 嘘でしょ?」


 ライラはローテーブルに手をついて、ガタンと音を立てて立ち上がった。驚いたのはわかる。だって、俺も驚いたから。だが、俺のセリフを取らないでほしい。


 「嘘なもんか! パンゲアから通達が来ているんだよ! 魔族を殺しまくっている、ミラキュラスという人間のパーティーを倒せってな!」


 エリックはライラを指差して、パニック気味に声を上げた。ヴァネッサがニコニコと笑いながら「あなた、落ち着いて」と肩に置かれたエリックの手を優しく撫でた。


 「なんでそんなことになっているのよ! 殺しまくってなんか、いないわよ! 確かに獣人を2人ほどやっつけたけど!」


 ライラは負けじと声を上げた。興奮して先ほどからおっぱいがプルプルと揺れている。立ち上がったので、ちょうど俺の目の前にあるのだ。


 「いやいやいや、そんなことないでしょ! だって、ミラキュラスは神殿の村の住民を皆殺しにしちゃったんでしょ?!」


 「だから、やってねーっつうの!」


 ライラは言い返してから「あっ」と言って固まった。


 「いや、やったよね。俺たち、確かに神殿の集落を壊滅させたよ」


 ようやく口を挟む間ができたので、すかさず言った。エリックは「うわぁ、大変だ。 どうしよう。俺の家にミラキュラスが来ている。どうしたらいいんだ」と頭を抱えてオロオロし始めた。


 「あなた、座ったら?」とヴァネッサ。


 「ライラ、座ったら?」と俺。


 気が合うな。ヴァネッサを視線が合う。どちらからともなく、ニヤリと笑った。エリックとライラは、のろのろと元いたところに座った。これでようやく本来の用件を話せるぞ。俺は身を乗り出した。


 「で、俺たちが賞金首だということがわかったところでなんだけど、エリック、パンゲアへの道案内をしてくれないか?」


 エリックはポカンとした顔をして「ああ、うん。いいよ」と言ってから、また立ち上がって「ちょっと待てい! クリス、お前、さっきの話、聞いてたか?!」と怒鳴った。


 「お前たちは賞金首なんだ! なんで俺が、爵位持ちの悪魔が、賞金首の人間どもの案内をしなけりゃいけないんだよ!」


 拳を握って、頭上からブンブンと振り下ろして叫んでいる。怒っているのか、戸惑っているのか、一体、なんなのか。エリックの感情がよくわからないが、混乱しているのは確かなようだ。ヴァネッサが「あなた、お座りなさい」と腰のあたりを撫でると、エリックは急に素の顔に戻ってストンと座った。全く、騒がしいやつだ。


 「だから、俺たちが賞金首ってのはわかったって。だけど、だからって冒険をやめるわけにはいかないでしょ? 仕事なんだから。パンゲアに行く。アレを取ってくる。俺たちはパンゲアの素人だから、経験者を連れて行く。俺の知っている経験者はエリック、お前。そういうこと。わかった?」


 エリックがどんよりとした顔をして返事をしないんので、ヴァネッサが代わりに「とてもよくわかりました、クリスさん」とうなずいて「わかったわよね、あなた?」とエリックの肩を叩いた。


 『エリック殿が一緒に来てくだされば、百人力なのでござる』


 ハーディーが合いの手を入れる。ニュウニュウも「そうや。まさか悪魔に案内を頼むとは思ってもいなかったけど、グッドアイデアやないか」とうなずいている。


 「いや、でも、ちょっと待って! こいつ、悪魔だし……」


 ライラがまた話を元に戻そうとしたので、「シーッ。黙ってて」とライラの口元に指を当てて止めた。ライラはウッと黙り込む。


 「あのさ、クリス。自分が何を言っているのか、わかってる?」


 エリックは少し落ち着きを取り戻した。チラッとテーブルの上のサンドウィッチを見て、一つ手に取った。


 「わかってるさ。また人間のパーティーに引き込まれて、すごく迷惑だよな。だけど、俺たちが頼れるのは、お前しかいないんだ」


 サンドウィッチにかぶりついたエリックに向かって、頭を下げる。エリックはもぐもぐしながら「いや、そうじゃない」と首を横に振った。


 「俺が言いたいのは、魔族に追われる身の人間のパーティーに、悪魔の俺がいたらおかしいでしょ?っていう話! もし、賞金稼ぎたちに見つかったら、気まずいだろうが。どう言い訳すればいいんだよ、ええ? まさか『ミラキュラスに捕まってしまって』とか言うのか? 爵位持ちの俺が?」


 サンドウィッチの残りを口に詰め込みながら、また興奮し始めた。


 「言えばいいじゃん。ベストの言い訳だ」


 俺があっさり言い返すと、ヴァネッサがたまらないといった風情でプーッと吹き出した。ソファの上で丸くなって、ケラケラと笑い転げる。あれ? そんなに面白いこと言ったかな? ドレスの裾から、真っ白な肉付きのいい太ももがのぞいて、セクシーだ。


 「ダメダメ、そんなこと言えない! それに、お前たちと一緒にいたら、俺は悪魔族を追放されちまう!」


 「いいじゃない、あなた」


 ヴァネッサはこぼれた涙を拭きながら、エリックを落ち着かせて、もう何度目だろう、ソファに座らせた。


 「賞金首の人間のパーティーと一緒に冒険して、いつ仲間に見つかるかハラハラして、もしかしたらパンゲアをめちゃくちゃにできるかもしれないのよ? あの夢幻卿がいるパンゲアを」


 ヴァネッサはエリックにしなだれかかると、耳元に口を寄せてささやいた。しぐさがエロい。俺も耳元でささやいてほしい。


 「えっ、でも……」


 エリックが何か言い返そうとすると、ヴァネッサは白い指で夫の乳首があるあたりを、バスローブの上から撫で回した。エリックはわかりやすくビクッと反応して、「んっ」とかうめき声を発した。それを見てコンティニュアスが「フフッ」と面白そうに笑った。


 「考えれば考えるほど、意味不明で最悪よね……。でも、とてもクールだわ。いかにも悪魔らしい……。エキサイティングで混沌として……。そこに飛び込んでこそ、ギャンブル卿の本懐ではなくって?」


 ヴァネッサは白い太ももをむき出しにしてエリックにまたがると、もうキスしているだろうというほど間近に迫った。なんだか見ているこっちが恥ずかしくなってくる。他のみんなはどうだろうと思ってチラッと見ると、コンティニュアスとニュウニュウは思った通り、鼻息荒くして食い入るようになりゆきを見つめている。ハーディーとライラは顔を赤くして目を逸らしていた。いや、ハーディーは仮面をかぶっているので……以下省略だ。


 「ああ、うん……。そうか、そうだな」


 エリックはトロンとした目つきをして、うなずいた。おお、やったぞ。俺たちの代わりにヴァネッサが口説いてくれた。


 「じゃあ、行ってくれるのか?」


 ここぞとばかりに口を出した。エリックはトロンとした目つきのまま俺を見て「おお、いいぞ。任せておけ」と言った。ヴァネッサは上気した顔でエリックの膝の上から降りると、ドレスの裾を直してソファに座った。


 「ありがとう、ヴァネッサ」


 軽く頭を下げる。ヴァネッサは「いえいえ、お礼なんていらないわ」と妖艶に微笑んだ。


 「夢幻卿って、ラルフって悪魔だろ? 知り合いなのか?」


 先ほどの会話の中で、聞き覚えのある名前が出てきた。ラルフはパンゲアのカジノのオーナーで、ダッチという悪魔の指導者っぽいやつの代理人だ。ラルフを締め上げれば、ダッチがどこにいるかわかるだろうし、ダッチを倒せば人間の居住区への侵攻も止まるかもしれない。情報がほしかった。


 「あら、よく知っているわね。そうよ、知り合いっていうか、この前、エリックが負けた相手が、そのラルフさんなのよ」


 ヴァネッサはまた穏やかな笑みを浮かべながらしゃべっている。先ほどエリックを口説いている時と、雰囲気がガラッと変わった。


 「余計なこと言うなよ」


 エリックが夢から覚めたような顔をして、肘でヴァネッサをつついた。ヴァネッサは「だって、本当のことでしょう?」と相変わらず笑っている。朗らかな女性だ。


 「そのラルフってやつも、とっちめたいんだけど」


 俺が言うと、エリックは目を丸くしてギョッとした顔をした。その隣でヴァネッサが「まあ!」と目を輝かせている。


 「えっ、なに言っているんだ、お前。ラルフさんを倒す? 正気か?」


 エリックは身を乗り出した。


 「正気だよ。そのラルフってやつが、人間の居住区をぶん取れと命令しているらしいじゃないか。万物の源を回収するついでに、そいつもやっつけてやるって魂胆だ」


 俺がタブーワードを口にしたものだから、エリックは耳を押さえた。ヴァネッサは少し驚いた顔はしたものの、そこまで過敏に反応はしなかった。


 「あのなあ、クリス」


 エリックは耳から手を離すと、深いため息をついた。


 「ラルフさんは、もう何百年も生きている悪魔なんだぞ。人間なんかよりよほど利口で強い。かないっこない」


 わかったか?と言いたげに両手を広げる。


 「確かにそうかもしれないが、俺たちはベヒーモスに会い、アレの片方を手に入れて、炎の神殿からアフリートを回収したんだ。やってみなけりゃ、わからないだろ」


 隣でハーディーがうなずいている。


 「いやいや、お前たちはラルフさんを知らないから、そんなことが言えるんだよ!」


 エリックは両手を振って否定する。


 「ラルフさんは幻術使いなんだ。俺の幸運を呼ぶ魔法がかき乱されるくらいの、すごい幻術を使うんだよ。勝てっこない!」


 目を見開いて、訴えかけてくる。そうは言ってもな。パンゲアまで行って、俺たちを苦しめている元凶が目の前にいるのに、素通りして帰ってくるなんて、ないだろう。


 「あらぁ、尻尾を巻いて逃げるの?」


 俺がもう一度、やってみなくちゃわからないと言おうとしたところで、ヴァネッサが口を挟んだ。エリックはウッと言葉に詰まる。


 「この前は1対1だったけど、今回はこんなにたくさん仲間がいるのよ? 次こそ勝てるかもしれないわ。あ・な・た」


 耳元で色っぽくささやく。さっきからうらやましくて仕方がない。こんな羊野郎にどうしてこんなにエロい嫁がいるんだ。エリックは困った顔をしていたが、また「う、うーん……。そうかな……」とうなずいた。


 「そうよ、あなた」


 ヴァネッサはエリックの手に手のひらを重ねて、そっとほほにキスをした。


 「そうだ、エリック。一緒に頑張ろう!」


 ここぞとばかりに声をかける。ハーディーも『エリック殿、頼むのでござる』と声を合わせる。


 「そ、そうか〜。そこまで言われちゃ、仕方ないなぁ……。やってみるか〜」


 なんだか自信なさそうに、頭をポリポリとかいている。コンティニュアスが部屋の隅にいたメイドに「サンドウィッチ、もう一皿くれないか」と声をかけた。

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