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人間が考えた婉曲的な気持ちの伝え方  作者: 朝霧


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4/4

寒いですね

「今日は寒いですねぇ……」

「吹雪いてるからね」

 吹雪いてるから開けない方がいいよ、と僕が止める前に寝ぼけていた彼女は外の冷気で目を覚まそうとして窓を開け放ち、吹雪をもろに食らって呆然としていた。

「目が覚めました」

「だろうね」

 暖かかった部屋の中が一瞬で冷えた、普通に寒い。

 呆けている彼女の代わりに窓をぴっちり閉める。

 窓枠に手をかけたままの彼女の赤くなった手を引き剥がす。

 冷たい手だった、まあ当然か。

「さ、寒い……」

 彼女の身体がガタガタと震える。

 この女は案外寒さに弱いのだ、実は暑さにも弱い、不便な身体だと思う。

 完璧なインドア派で、常に魔術で自分の周囲の空気を快適な温度に調整している弊害なのだろう。

 今もまた、吹雪で冷え切った部屋を暖めるために呪文をブツブツ呟いている。

 小さく呪文を紡ぐその口に人差し指を突っ込んだ。

「むぐっ!?」

「……魔術に頼りきりになるの、よくないと思う」

 気温の変化に弱すぎると健康に悪い気がする、魔術でどうにかできるからどうでもいいと彼女は思っているんだろうけど、万が一魔術が使えない状態になった時、今の彼女の身体が暑さや寒さに耐え切れるとは思えない。

 少しは寒さにも暑さにもなれるべきだ。

 可哀想だけど、ここは心を鬼にして……と思っていたら涙目で見上げられていた。

 視線だけで寒いです、と訴えられているのがわかる。

 確かに身体がカタカタと震えていた。

 ……風邪でもひかれたら面倒だ。

 だけど、魔術を使わせると意味がない。

 仕方ない、と溜息を吐いて彼女の身体を抱き寄せる。

「これで我慢して」

 多少は暖かいだろうと抱きしめる。

 そういえば、と思い出す。

 寒いですね、は抱きしめて欲しい、という意味らしい。

 肌寒いですねは手を繋ぎたいだったけど、寒いですねだとそういう意味になるらしい。

 確かに抱きしめると暖かいし、抱きしめられても暖かい。

 冷え切っていた彼女の身体に温もりが戻っていくのを感じながら、僕はそう思った。


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