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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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23/61

ハードスケジュール

 きっかり休んだその翌日、仕事に行くとシフト変更が貼り出されていた。


 勝手に変更とか、ぜんぜんこりてないな。


 そう思いながらもシフト表を眺めると、なんと私の仕事が遅出早上がりいっさい無しに組み替えられていた。毎日、朝の9時から夜中の1時までフルだ。

 休日も週二から週一になっている。

 その分シフトから、店長と如月の名前が消えていた。

 おや?



 私が今後の日常生活について思いを巡らせていると、出勤してきた佐藤さんに陽気に声をかけられた。

「おーぅ、佐川ちゃ~ん。おはよー。」

「おはようございます、佐藤さん。

 ね、これ、何かこのシフト。スゴいハードになってますけど....。」

 私はシフト表を指差す。

「何か聞いてます?」

 すると佐藤さんはニヤリと笑って、昨日店長から連絡があったことを話してくれた。

「如月さんは退職で、店長は他店に異動になるらしいよ。俺、来月から店長することになったよー。

 嫌だわー。絶対言うこと聞かないってわかってる奴いるのにー。」

「うおぉ、御愁傷様です。」

 最後の方はひそひそ声で言ってきた佐藤さんに、私も苦笑いしながらかえす。

 佐藤さんは冥王と付き合いが長く、本性も知っていて、折り合いも悪い。冥王も佐藤さんを嫌っていて、佐藤さんが副店長をしていた頃、佐藤さんの行動をアレコレと本社にチクッたりもしていた。

 佐藤さんはそんなに悪い人だとは思わないが、丼勘定な所もあるし、料理好きで、賄いに商品を惜しげもなく投入しちゃうような所もある。

 どを越えなければ、そういうユルさはあった方が良いと思うのだが、冥王にはかっこうのリーク要素だった。

 そんな事もあり、到底 佐藤さんの言うことなど聞かないだろう、と予想される。

 御先真っ暗だな。

「如月さん、クビになったんですか?痛いなぁー。あの娘、ほとんど毎日シフト入ってたから....。

 店長はすぐに異動になるんですか?シフト外れてますよね。あれ、でも変わりが直ぐに来るんじゃないのかな?」

 私が消えた2人のシフトを見ながら言うと、佐藤さんはものすごく嬉しそうに悪い顔をして、コソコソと話し出した。

「違う違う。....実はナイショだけど、店長と如月さんを、店長の奥さんが訴えたらしいんだよ!」

「ええっ!」

 やるな奥さん!

「それで如月さんの親が大激怒して、『未成年のウチの娘に何さらしとんじゃー!』って、さらに店長を訴えるって言ってるらしい。」

「うっわぁー。昼ドラみたいですね!大好物です。」

 私もニヤリと笑う。

 綺麗事は言わない。人の不幸は蜜の味。

 昨日の件で私の中の店長への同情票はゼロだ。

「で、店長の代わりに長谷川君が来るらしいんだけど、店長はゴタゴタがあってしばらく有休使って休むらしいんだよ。だから長谷川君もこっちに貰えなくて、来月までマイナス2人なんだよねー。」

「えっ、この状況でマイナス2人!?

 きっついッスわー。」

 私は頭を抱えた。

 くそー、いつか人手不足で困ることになるだろうとは思ったけど、まさかの店長の置き土産になるとは!

「まあ そんなわけで、俺が急遽シフトを組み直したんだよね。だから佐川さんには申し訳ないけど、今月ちょっと助けてくれない?」

 佐藤さんが両手を合わせて小首をかしげながらお願いしてくる。50近いオッサンがやっても全然かわいくはないが、佐藤さんには昔会社に入りたての頃お世話になったしな。強く出にくい。

「まあ、しかたがないですよね。分かりました。」

「ごめんよー。ありがとう!」

 佐藤さんがほっとしたように言った。


「しっかし、よく訴えたとかの裏情報知ってましたね。」

 私が訪ねると、佐藤さんはまた悪い顔をになった。

「本社に店長の奥さんの、お母さんがパートで働いててね。たまに話すんだよね。」

 うお、世間は狭いね。気を付けよう!





 私はその日から無心で働いた。


 私だって入社して6年もたっており、人が揃っているときも、人が足りない時も経験した。そんな時は「今は非常時っていう名のイベントだから、ひたすら頑張って乗りこえるぞ!」と自分と周りに言い聞かせるようにしていた。

 人手さえ揃えば「給料少なーい!もっと働きたーい!」となるのだから、今は稼ぎ時なのだ、と。


 しかし、どんなに言い聞かせても疲労はたまる。

 何ヵ月も休みがないとかも良くあることなので働けない事もないのだが、鬱々としてくると何かしら自分をだます物が必要になってくる。

 私は手っ取り早く食に走るようになった。

 1日の仕事時間が、通勤時間も合わせると18時間近くなったので、家にいる時間は頑張っても6時間しかなく、結果睡眠時間を確保するので精一杯になる。

 そうなると、もはや生姜紅茶すら作る時間がもったいなく感じ始める。

 私は、朝起きるとシャワーを浴びて直ぐ出勤。行き掛けにコンビニで色々買い込んで車を運転中に朝食。常にマイナスのシフトを埋めるべく全力投球で16時間仕事。深夜の1時に解放され、帰りにコンビニでストレス発散に買い食い。休みの日は反動で1日のほとんどを寝て過ごす....という生活を送りつつ、長谷川が来る日をひたすら待った。

 長谷川からは飲みの催促が来たが、異動してきたらねと言ってやり過ごした。

 正直、休日に人に会うほどの余裕がなかった。




 そして1月後、やっと長谷川がやってきたのだった。


 やっと出来たわずかな ゆとりに 安堵しつつ、ある朝「そういえば最近体重量ってなかったなぁ」と気づき久々に体重計に乗ってみると、なんと127キロに逆戻りしていた。


 もうやだ!

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