チョコスティック
体重が元に戻ってしまった。
せっかく身に付いた良い習慣も簡単にリセットだ。
なぜだ!
やっと痩身への道を歩みかけていたのに。
いつも必ず妨害が入ってダイエットが失敗する。
これはもう、神様が私に嫌がらせをしていて、私が苦しむ様子を見て楽しんでいるとしか思えない。
ひどい!あんまりだ!
だいたい、確かに食べてるけど、こんなに働いてるんだからむしろ減ったって良さそうなもんだ。
それが何だ。たかだか夜にちょこっと買い食いしたくらいで私ばっかりポンポン太りやがって!
もうもう、ダイエット辞めたい!だってきっと私、霞を食べても太るんだよ。
お昼休憩に賄いを食べていると、長谷川がやって来て、丼にご飯を山盛りついだ。1合は有ろうかという量だ。
ほらねー。太らないやつは理屈抜きで太らないんだよー。
やってらんなーい。
「佐川さん、チョコ食べる?」
早朝出勤のパートさんがニコニコと差し出すスティックチョコに、いつも通り手を伸ばしかけて思い留まる。
「 いや、今日はいいわ。止めときます。」
「あら、遠慮しないで?」
「いやいや、今日あんまり腹の調子が良くなくて....」
「えぇ、大丈夫?」
私がてきとうな理由を付けて断ると、物凄く心配されてしまった。しまったな....
私はこういうのに弱い。
出された物を食べるのも、社会人の社交だと思うのだ。だって、自分が持ってきたお菓子を皆が「美味しい」と言って食べてくれると嬉しいし、逆に持ってきたお菓子がいつまでも残っているのを見るのは忍びない。
だからいつまでも残っているお菓子があれば、なるべく食べてしまうようにしていた。
しかし今の私には、本当に食べたいわけじゃ無い物でカロリーを取るのが恐ろしい。
どうしよう、もう1キロ太ったらまた、自分史上一番重い体重記録を更新だ。
「なに?佐川さんダイエット中?」
すると、後ろからミサイルを発射された。
ぐはぁ!気付かれたく無いことを誰だ、サラッと言いやがったのは!
私が眉を寄せて振り返ると、食器を返しに来た長谷川がいた。
「違いますー。もう、すーーーぐダイエットって言う~!」
私は怒った風を装っておどけた、ふりをした。
軽く流さなければ!軽く!
「違うの?ダイエットしなよー。俺がトレーナーしてあげるって。月10万で。」
まだ言うか!そして顔が信じてないな。くっ、そんな目で私を見るんじゃない。
「長谷川くん、チョコたべる?」
あっ、私の?チョコ....。
「お、ありがとー。」
長谷川は箱からスティックチョコを1本ではなく一袋取りだし、パクパク食べていく。
おばちゃんも「おいおい」とか言いながらも、嬉しそうだ。うんうん、分かるよ。たべっぷりが良いと、何かペットにエサ与えてる気になるよね。
しかし、こんなに我慢しているのに、私が太っていて長谷川が痩せているって。
やっぱり不公平だ。
その日の帰りにコンビニでいつも通り買い物をした。
その日はさらに、いつも自分ではあんまり買わないスティックチョコも3種類買った。お昼に食べられなかったからね。
買って車のなかで食べながら、ふと「これ、どうせ食べるならお昼に貰っとけば良かったな」と思った。そしたらおばちゃんにあんなガッカリした顔をさせずに済んだのに。
それに、よく考えたらスティックチョコ1本食べたくらいはたいしたカロリーじゃない。
あーあ、やっぱり次からは、すすめられたものは食べるようにしよう。
次の日、職場に行くとおばちゃんがこっそりと私を手招きで呼んだ。
なんだろうと思ってついていくと、ロッカー室でコンビニ袋を手渡された。
「昨日お腹の調子が良くないって言ってたでしょう?これなら食べられそうだと思って。」
袋を開けてみると、栄養補給系のゼリーやドリンクが入っていた!
「佐川さんにはいっつも色々貰ってるからね。特別よ!他の人にはナイショ。」
そう言うと茶目っ気たっぷりに笑った。
私は心のなかで「ご免なさい」を100回唱えた。




