対決、店長。
朝職場にいくと、何だかみんなテンションが高かった。
「おはようございまーす?」
私が不審に思いつつも声をかけると、みんな大喜びで寄ってきた。
「佐川さん、聞いた!?」
嬉しそうだな。
これはアレだ。他人の不幸的な話だ。
そう思いつつも、先を促す。
「なにが?」
「店長と如月さん、デキてたらしいよー!
で、さっき店長の奥さんが店に怒鳴り混んできてぇ~!」
うへぇ、想像以上にドロンドロンだった。
「それで、店長は?」
休憩室かな?
「それが、間が悪い事に社長が来てて、今社長が仲介しながら3人を本社に連れていったところなの!」
いや、社長ナイスタイミングだろ。そのままじゃぁ収拾つかんくなる所だろうし。
あれ?でも今日店長...
「とにかく、店長戻って来れないかもだから、後は佐川さんに任せたって。」
「ええええ!?迷惑!!」
てことはアレか。朝の仕込みとか全然できてないって事か!
開店まであと1時間しかないのに、私が早く来る人じゃなかったら、どうするつもりだったんだ!
私は素早く着替えると、猛烈に仕込みを始めた。
その日はクタクタになって家路についた。
家に帰ったらスマホに着信があった。
店長だ。
今日の事についての謝罪かな?
結局私は、中抜けもなく朝から晩まで仕事に追われた。しかも、片付けは2人分やるはめになった。冥王の「パートアルバイトに尻拭いさせるな!佐川ちゃん社員なんだから一人でやればいいじゃな~い。どうせ独り身なんだから、予定ないでしょ~!」というふざけた発言により、冥王を恐れたアルバイトの娘たちは、みんな申し訳なさそうに帰っていった。
おかげで深夜の2時までかかった。
明日....もう今日だが、休みで良かった。
私は電話はまた明日の朝にでもかけることにして、その日は眠りについた。
次の日、アラームを切っていたにも関わらずスマホの電子音で目が覚めた。
スマホを手に取ると、朝の8時半だ。
アラーム?
寝ぼけていたので反応がおくれる。
あ、ちがう。電話だ!
慌てて出ると店長だった。
「もう、何べんも電話したのに!」
開口一番にご立腹の声。
「いや、寝てたし。昨日遅かったから。」
私もムッとして答える。
誰のせいで遅くなったと思ってるんだ。
私の不機嫌が伝わったのか、店長は急に猫なで声になった。
「え、昨日そんなに忙しかった?」
「売り上げは普通だけど、一人いない分カバーしたし、冥王が片付けは私一人でやるべきだとか意味の分からんことをいい始めたので。片付け2人分やりました。おかげで2時までかかったので眠いんですが。」
私がついでに冥王の横暴っプリを告げると、ばつが悪そうに「あ~、そんなん無視して誰か頼めば良かったのに。」とか言いやがった。
は!?
そんな事したって、みんな冥王怖さに残れませんって言うし、私が真っ向から冥王に説教したって、冥王が私の言うことを全く聞かなくなるだけで何っっっっにもなりませんね。
むしろアルバイトに私の指示を無視しろって言って回って、仕事にならなくするし。
そして困ってる私を見て「仕事ができない」って嘲笑うんだよ。
1年間に10回も体験したわ。
もう心が折れて戦う気がしない。
まあ、男性社員には「チョッピリきつめの、べてらんさん☆」の体を見せているので、この話をしても「まあ、あの人の言うことも一理あるからね。ああいうキツイ人も一人はいないとお店もまわらないしね。」とか言ってくる。
一理ねぇよ。「次、アイツ生意気だからいじめるよ!」って女子高張りに休憩室でいい放ってたぞ。
そして女ばっかり、年間に15人やめさせてるぞ。
だいたい、冥王がいなかったらどうなるって言うんだ。
きっとパートアルバイトがたくさん増えて、人が一人休んだくらいどうってことないくらい ゆとりができるね。
百害あって一理なしだ。
私は無駄と知りつつ店長にその話をしたが、やはりとりあってもらえなかった。
いつか、困ることになると思うがね。
私の憤懣を感じ、店長が話を変えてきた。
「まあまあ。それでね、悪いんだけど今日俺の代わりに出てくれない?」
は?何がそれでだ。意味わからん。
「実は、まだ昨日の話のかたがついてなくって。
悪いんだけど....。」
なんだそれ、知らねーよ。
だいたい、今日は冥王とフルかぶりのポジションだろ。絶対!なんと言われようと拒否だ!
私が断固拒否していると、最初は下手に頼んでいた店長の態度がだんだん高圧的になってくる。
「佐川さん独身なんだから、たいした用事ないでしょう。佐川さんがいかなかったら、店に誰も責任者がいなくなるけど、じゃあ、どうするの?俺は本当に行けないんだよ!」
....それが店舗責任者の言うことか!
もう、いろいろ突っ込みどころが多すぎて疲れてきた。
「佐藤さんはどうなんですか?佐藤さんも今日は休みですよね?」
私がもう一人の社員の名前をあげると、店長はだだっ子を諭すように言った。
「佐藤さんは今日は家族でお出かけするから無理なんだって。だから、佐川さんしかいないんだよ。」
「私もお出かけするっていってますよね?」
「だって佐川さん一人でしょ?家族サービスは邪魔できないよ。」
カッチーン。
もう、たいがい、我慢ならん!
「わかりました。」
「ありがとう!さすがは、さが....」
私は店長の喜びの声に被せて畳み掛ける。
「店長が!冥王と同じ考えであることが分かりました。
家族サービスけっこう!家族を大事にしなければという考えを否定する気はありません。ですが、結婚している人の人生をフォローするために、独身者は人生の貴重な時間を投げ出して奉仕してしかるべき、というあなた方の考え方には賛同できません。私の自分との予定も、佐藤さんの家族との予定も、同じ一人の人間の、同じだけ大切な人生の予定です。」
私は必死に怒りを抑えながら言う。
「人との約束じゃないならずらせるでしょ。」
「私だってある程度は譲歩しましたよ。でも店長。そう言ってずらしてずらして、私今月の休み2回も消えています。代休、まだ貰ってませんけど。」
「あー、今月人がいなくてとってあげられないんだよー。」
「それは冥王が、ただでさえ人手不足なのに先月2人辞めさせたせいですよね。そして、もはや噂になっていてアルバイト希望者が募集しても来ないからですよね。もう何べんも私言いましたよね?冥王を辞めさせないと人なんて増えないって。その進言を無視したくせに、皺寄せだけは被せるんですか?」
私の蓄積した怒りが関を切って溢れ出す。
しまった、止まらない。
「だいたい、今回のことは店長が年甲斐もなく見境もなく、店の女の子の、しかも高校生に手を出すとか犯罪行為に至った事が問題なんでしょう?」
すると、店長もその事については回りに散々つつかれたせいか、素早く反応した。
「しかたないだろ、俺だって店長である前に、一人の男だ!」
堂々と言いやがった!
たぶんそう言われて、周りの人に慰められたんだろうな。私は許さんが。
「男である前に人間だろ!人間なら犬畜生じゃあるまいし、欲望のままにいきてんじゃねぇですよ!」
店長の息のつまる音が聞こえた。
「とにかく、事情を話して他店の応援を頼んでください。どうしても私にと命令をされるなら、今回でて、今月いっぱいで退職します。」
最終カードを切ってしまった。
だが、これで辞めることになっても後悔はない。
その後、結局店長は他店に頼み、長谷川がヘルプに入ったそうだ。
長谷川からは好奇心てんこ盛りのラインが届いた。
私は愚痴がてら長谷川と飲みに行く約束をした。
腹いせに全部暴露してやる!
私は辞めることにならなくて、ホッとしたような残念なような、ふしぎな気分を味わった。




