VIII — 出発前の静けさ
もう出発する時間だ。この小屋を出よう。
俺が戻ると、みんなが駆け寄って助けてくれた。だが、誰よりも再会を喜んでくれたのはサムだった。あのバイクに乗って戻ってきた俺を見たときの、彼女の表情は今でも覚えている。俺が生きていたことを、まだ信じきれないようだった。ヘルメットをシートの上に置き、バイクをピックアップトラックのそばに停めてから、みんなと一緒に小屋へ入った。
外にいたときに書いた紙を、のりでこの日記に貼りつけた。
そのあと、着替えてシャワーを浴び、みんなで食卓を囲んだ。集まったのは午後九時ごろだった。ブリサがたくさん料理を用意してくれていた。何日も、見つけたものを適当に食べて過ごしていた俺にとって、温かい夕食は贅沢そのものだった。川に落ちてから何があったのか、すべて話した。どうやって道路にたどり着いたのか、三人の女性とどう知り合ったのか、スーパーマーケットで何が起きたのか。そして、彼女たちがここまで来るのを助けてくれたこと、そのあと別々の道を進んだことも説明した。サムは真剣に耳を傾け、ときどき質問を挟んだ。まるで、俺が本当にここにいることを確かめようとしているかのようだった。
俺たちは、あと数日はこの小屋にとどまるつもりだった。居心地がよく、静かで、近くには川もある。これまで経験してきたことを考えれば、休息を取るには完璧な場所に思えた。だが、桟橋での襲撃によって、この地域に対する俺たちの考えは変わってしまった。周辺にほかの人間が潜んでいるのかどうか分からず、森へ逃げた男も、いまだに見つかっていなかった。話をしている間も、俺はそいつのことが頭から離れなかった。そいつは俺たちを殺そうとした。そして今も、あの森のどこかにいる。
10月2日――隔離令発令から十六日目。
食料が少なくなり始めていた。俺たちが知っている唯一のスーパーマーケットは、遠すぎた。いや、二軒目のスーパーマーケットだ。一軒目は、あの三人の女性と一緒に物資を漁った場所だった。できることなら、そこには戻りたくなかった。そこでデレクと俺は、近くにある山小屋を調べることにした。
朝、俺たちは出発した。水を持ち、出発前に武器を点検した。デレクのピックアップトラックに乗り、あとで必要になった場合に備えて、バイクもすぐに使える状態にしておいた。木々の間を通る道をいくつも進み、いくつかの廃屋となった山小屋を見つけた。ほとんどは空っぽで、食料もわずかしか見つからなかった。それでも、いくらかの物資を確保できた。
そのうちの一軒を調べていたとき、デレクが外へ出て、突然その場で立ち止まった。
「どうした?」
彼は森のほうを指さした。
遠くで、一頭のシカが草を食べていた。
俺たちは木の陰に身をかがめた。シカはまだこちらに気づいていないようだった。俺が撃つ準備をすると、デレクも同じように構えた。
「いつでもいいぞ」と彼が言った。
俺は数秒待った。
シカが頭を上げた。
まさに引き金を引こうとした瞬間、木々の間で何かがシカを驚かせた。シカは猛スピードで走り出し、茂みの向こうへ消えてしまった。
俺は銃を下ろした。
「最高だな」
デレクが小さく笑った。
「少なくとも、やるだけのことはやった」
その日は何も狩れなかった。
夜になって小屋へ戻った。午後十時ごろ、俺が食卓に座って武器の手入れをしていると、ブリサが残り少ない食料で最後の料理を準備していた。デレクも自分の武器を手入れしていた。テーブルの上に並べられた物資は、日に日に少なくなっているように見えた。
食事を済ませ、眠りについた。
10月3日――隔離令発令から十七日目。
翌朝、俺はバイクに乗り、襲撃のあとに逃げた男の痕跡を探しに出た。森の中の小道をいくつも進み、川の周辺も調べたが、何時間経っても何も見つからなかった。
見つかったのは、食べられると分かっているキノコだけだった。拾い集め、小屋に持ち帰るためにしまった。
引き返そうとしたとき、草の上に何かが見えた。
小さな血の滴だった。
俺は立ち止まった。
周囲を見回した。
森は完全に静まり返っていた。
エンジン音も、人の声も、足音も聞こえなかった。葉を揺らす風の音だけがしていた。
しゃがみ込み、痕跡を観察した。
一滴。
その先に、もう一滴。
さらに、もう一滴。
俺は追跡することにした。
バイクを木々の間に隠し、徒歩で先へ進んだ。進むにつれて、小さな血の滴は次第に大きな染みへと変わっていった。痕跡は森の奥へ、奥へと続いていた。
そのとき、遠くに何かが見えた。
すぐに身をかがめ、銃を構えた。
ゆっくりと近づいた。
十分に距離を詰めると、俺は銃を下ろした。
そいつだった。
俺を襲い、そのあと逃げた男だ。
そいつはクマ用の罠に捕まっていた。
体は見るも無残な状態だった。片腕と片脚を失い、全身には無数の切り傷や擦り傷があった。周囲の草は血で濡れていた。
慎重に近づいた。
噛まれた痕跡はなかった。
感染しているようにも見えなかった。頭部はひどく損傷していた。
俺にできることは何もなかった。
男のリュックを取り、バイクのところへ戻った。帰り道、俺の頭から離れないことが一つあった。
何があって、こんなことになったんだ?
小屋に戻ると、見つけたものについてみんなに話した。あの男がもう俺たちに危害を加えられないと知り、みんなはいくらか安心したようだった。だが、その安堵は長く続かなかった。
俺たちは、何が起きたのか、まだ分かっていなかった。
あの罠は、俺たちが仕掛けたものではない。
そして、そいつが偶然あそこにたどり着いたわけでもない。
何より、そいつにあんな傷を負わせたのは何だったのか? あれほどの残虐な損傷を感染者の仕業だと考えるにしても、あまりにもひどすぎた。
デレクが魚を何匹か釣り、夕食にした。その夜、俺たちは食卓を囲んで食事をし、眠る準備をした。ろうそくを消し、部屋へ入る前に互いに別れを告げた。ブリサとデレクは二人の部屋へ、サムはもう一つの部屋へ向かった。俺はベッドに入る前に、数秒間黙って座っていた。
小屋は静かだった。
静かすぎるほどに。
午前二時ごろ、外から大きな唸り声が響いた。
俺はすぐに目を覚ました。
数秒間、誰も何も言わなかった。
そのあと、隣の部屋から物音が聞こえた。
デレクが廊下に現れた。
「聞こえたか?」
俺はうなずいた。
感染者ではなかった。
あの音なら知っている。
俺たちは武器を手に取り、物音を聞き逃さないよう、その場でじっとしていた。
唸り声は二度と聞こえなかった。
数分が過ぎた。
さらに数分が過ぎた。
三十分経っても、何も聞こえなかった。
俺とデレクは、女たちに部屋へ戻って眠るよう伝えた。俺たちも休息が必要だったし、もしあれが家の近くを通りかかった動物の声にすぎないのなら、一晩中起きている意味はなかった。
だが、俺たち二人とも落ち着かなかった。
「寝てくれ」と俺はデレクに言った。「俺がここを見張る。何かあったら知らせる」
「分かった。二時間したら起こしてくれ」
デレクは部屋へ戻った。
俺は入り口の近くに座り、どんな物音も聞き逃さないよう注意を払った。小屋の中は完全に暗く、覆いのかかった窓からわずかに差し込む光だけがあった。
しばらく時間が過ぎた。
そのとき、足音が聞こえた。
サムが現れ、椅子を引きずって俺の隣に座った。
「眠らないのか?」と俺は尋ねた。
「眠れないの」
ほかの人たちを起こさないよう、俺たちは小声で話した。どれくらい話していたのか、正確には覚えていない。だが、いつの間にか、窓の一つの向こうで何かが動くのが見えた。
俺は完全に動きを止めた。
「待ってくれ」
ゆっくりと立ち上がり、窓に近づいた。
窓を覆っているものを、ほんの少しだけ慎重にずらした。
そして、見た。
クマだった。
小屋から数メートルのところにいた。
とてつもなく大きかった。
地面の匂いを嗅ぎながら、木々の間をゆっくりと移動していた。俺は数秒間、じっと見つめた。呼吸の音さえ大きくならないように気をつけながら。
そのあと、カメラのことを思い出した。
カメラを取り出し、小さな隙間から何枚か写真を撮った。
クマはもうしばらくそこにいた。
それから、木々の間へと姿を消した。
俺とサムは顔を見合わせた。
「どうするの?」と彼女が尋ねた。
森の暗闇に目を向けた。
「ここを出なきゃならない。今すぐだ」
10月4日――隔離令発令から十八日目。
夜が明けると、俺たちは出発の準備を始め、再び旅を続けることにした。食料、水、衣服、道具、それから役に立ちそうなものをすべて荷造りした。武器と、残りわずかになった弾薬も確認した。もう一発たりとも無駄にはできなかった。
缶詰の箱をピックアップトラックへ運んでいるとき、クマが目に入った。
そこにいた。
ほんの数メートル先に。
俺がいることなどまったく気にせず、落ち着いた様子で地面の匂いを嗅いでいた。
俺は動かなかった。
荒い呼吸をしないようにした。
急な動きも避けた。
動物がわずかに頭を上げた。
俺はそのまま動かなかった。
そのとき、背後でドアが開く音がした。
デレクが別の箱を持って出てきた。
俺を見た。
それから、クマを見た。
彼も動きを止めた。
何も尋ねなかった。
状況をすぐに理解したのだ。
俺たちは二人とも、ゆっくりと武器を取り出し始めた。
俺はすでに銃を構えられる状態にしていた。
デレクも同じようにした。
クマはまだ俺たちに気づいていなかった。
そのとき、背後から声が聞こえた。
「ねえ、みんな! 毛布は持っていくの?」
ブリサが毛布を二枚抱えて小屋から出てきた。
クマが頭を上げた。
俺たちを見た。
胃がぎゅっと締めつけられるような感覚がした。
「くそ……」
クマが低く唸った。
「小屋に戻れ!」とデレクが叫んだ。
俺たちは走った。
背後から、クマの足が地面を叩く音が聞こえた。ブリサは毛布を落とし、ドアへ向かって走った。
数秒後、クマが入り口に到達した。
ドアに体当たりした。
木が震えた。
「下がれ!」とデレクが叫んだ。
クマは再び突進した。
ドアが勢いよく開いた。
クマが中へ入ってきた。
デレクが発砲した。
小屋の中に銃声が轟き、耳をつんざいた。
クマは後ずさったが、倒れなかった。
再び唸り声を上げ、前進してきた。
デレクはもう一度撃った。
弾は命中したように見えたが、クマの動きをわずかに鈍らせただけだった。
「動け!」
俺たちは小屋の中を走った。
クマがテーブルにぶつかり、壁に向かって吹き飛ばした。すべてがあまりにも速く進んでいた。背後から聞こえるクマの足音と、木材が砕ける音が響いていた。
廊下にたどり着いた。
右手にはサムの部屋があった。
廊下の奥にクマが現れた。
サムがゆっくりとドアを開けた。
「何が起こっ……」
彼女は最後まで言い終えることができなかった。俺はクマから目を離さず、片手でドアを閉めた。
クマはもう目の前まで迫っていた。
俺は窓へ向かって走り、デレクは別の出口を探した。窓を開けようとしたが、枠が引っかかって動かなかった。
ガラスを叩いた。
何も起きなかった。
クマが近づいてくる。
俺は後ずさった。
もう一度撃った。
弾が当たってクマの体がよろめいたが、それでも前進してきた。
「ジェイコブ!」とデレクが叫んだ。
俺は振り返った。
彼は別の出口を見つけていた。
「こっちだ!」
彼のところへ行こうとしたが、クマが立ちはだかった。
逃げ場を失った。
クマが口を開き、俺を後ずさりさせるほどの唸り声を上げた。
俺は銃を構えた。
撃った。
もう一度。
さらにもう一度。
それでも、弾はクマを止められないようだった。
クマが突進してきた。
俺は、ほんの数センチの差で身をかわした。
爪が服をかすめ、俺は壁にぶつかった。
床に倒れた。
クマはすぐに俺のほうへ向き直った。
なんとか出口のドアまでたどり着き、外へ出て振り返ると、クマも俺を追って外へ出てきた。
クマが飛びかかってきた。
そのとき、エンジン音が聞こえた。
ものすごい速度で近づいてくるエンジン音だった。
音はどんどん大きくなり、やがて唸り声のような轟音に変わった。
俺は振り返った。
小屋の脇からピックアップトラックが現れた。
ハンドルを握っていたのはデレクだった。
反応する時間はなかった。
ピックアップトラックが、凄まじい勢いでクマに衝突した。
クマは横へと弾き飛ばされ、車はそのまま小屋の壁に激突した。
衝撃で建物全体が揺れた。
エアバッグが展開した。
数秒間、誰も動かなかった。
俺は地面に倒れたまま、何が起きたのか理解しようとしていた。
そのあと、デレクの声が聞こえた。
「大丈夫か?」
俺はどうにか体を起こした。
「たぶん、大丈夫だ」
クマのほうを見た。
まだ動いていた。
ゆっくりと近づいた。
クマは苦しそうに呼吸し、頭を上げることさえほとんどできなかった。
苦しませたままにはしたくなかった。
銃を構え、最後の一発を撃った。
クマは動かなくなった。
俺は数秒間、その姿を見つめていた。
満足感はなかった。
ただ、疲れていた。
ひどく疲れていた。
デレクがピックアップトラックから降りてきた。サムとブリサも小屋から出て、俺たちのところへ近づいてきた。
数秒間、誰も何も言わなかった。
俺は破壊された壁、損傷したピックアップトラック、そして小屋の中を見渡した。
俺たちは、あそこで死にかけたのだ。
「すぐにここを出よう」
誰も異論を唱えなかった。
残っていたものをすべてピックアップトラックに積み込んだ。食料、水、衣服、武器、そして運べるものは何でも。小屋を後にし、そこで見つけた安らぎも置き去りにした。
俺たちは車に乗り込んだ。
デレクがエンジンをかけた。
俺は最後にもう一度、家を振り返った。
俺たちは、休める場所を探してここへ来た。
その結果、血と、死んだ殺人者と、クマ用の罠と、俺たちを殺しかけた一頭の動物を見つけた。
間違いなく、ここを去るときだった。
「さっさと行こう」
ピックアップトラックは東へ向かって走り始めた。
もう出発する時間だ。この小屋を出よう。




